第2029話、後のメンタルケア
子供たちの様子を見ようかと思ったら、呼び出しが鳴ったので、俺は携帯端末を操作した。
「はい」
『閣下』
秘書にして副官のラスィアの声が、耳朶を打った。
『監視対象が動き出しました』
例の遺跡に隠れていた無人母船が動いたか。シェイプシフターの見張りと共に、移動に備えて発信機を仕込ませていたが、早速役に立ったわけだ。
「了解だ。諜報部にはそのまま監視させてくれ。それと、シーパング情報局にも俺の名前で一報を入れておいて」
『承知しました』
淀みないお返事。この辺りの受け答えは、彼女はさすがプロである。聞いているだけで心地よい。
通話を切る。これであの円盤母船を使っているネオ・ナチャーロの一派の拠点まで導いてくれるだろう。
情報局も、連中が円盤を持っているなんて知らなかったようだから、その拠点も同盟側が察知していないに違いない。
そして十中八九、ネメジスと連んでいる一派と思う。今回の追跡で、同盟に敵対的で軍事的な衝突を狙う者たちのことがわかればいいのだが。
で、家族の様子だが、昼間の六脚機械に連れ去られかけたアリーシャは、気分がよくないと半日ぐったりしていた。
歳の近い仲良しのリザベッタが落ち込んでいるのを、ルマとジュイエに慰められていた。リザベッタからしたら、少し目を離したところでアリーシャがさらわれたわけだから、直接の被害はなくともショックだったんだろうな。
エミールは……宇宙戦艦ハルバートのプラスチックモデルを作っていた。サントン社のプラモデル――何でも今日、クルフがエミールにプレゼントしたらしい。
なお、サントン社というと、アポリト文明時代に俺に保護された子供たちの一人、サントンの名前からきている。プラモではないが、似たような模型が得意な子だったが、兄弟たちが彼の名前を、ということでつけられた。
閑話休題。
14歳組のジュワンとユーリは、家の庭で剣の稽古をしていた。彼らとしては、消化不良だったかもしれない。行くだけでも疲れただろうが、修練するあたり真面目だなぁ。
レオナは……シャワー、もとい風呂か。これはまあ、そのままで、次は――ラッタがリュミエールと何事か話しこんでいる。
……なになに、どうやらリンちゃんが、落ち込んでいるかも、とどう対応すべきか話しているようだった。
子供たちも子供たちなりに、どうするのが正しいか考えている。これもまた、自主性を伸ばすために、相談されるまでは口出しは控えよう。
当のリンちゃんは部屋で休んでいる……と。引きこもりにならないか心配だな。ここのところ、こういうシーンをよく見ている気がする。そういうお年頃でもあるわけだから……というのは甘やかし過ぎかな?
複雑なお年頃とはいえ、大人に近づきつつある中で、すぐに顔を覗かせるのはうざい親になるんだろうか。
体の怪我であれば、すっ飛んでいって何も悪いことはないが、心のケアとなると、即駆けつけると鬱陶しがられる。余計なお世話って言われるのが、よくあるパターンではあるが、本当に言葉が必要なこともある。
……よし行こう。行かずに後悔するより、行って後悔しよう。そもそも落ち込んでいる理由を考えれば、これは先達の助言が必要な事柄だ。無視してはいけない。
ということで、扉をノック。気だるいリンちゃんの返事。元々ケンカしていたわけじゃないから断られることはなかった。
ベッドに突っ伏しているリンちゃん。お疲れさま。
「リンちゃん、今日は大変だったね」
まずはねぎらい。これについては娘だから、ではなく、大体の人にそう言っている。
「皆を守ってくれたんだね。ありがとう」
これも事実だ。彼女は、アドヴェンチャーⅡ号を攻撃してくる襲撃者を迎え撃つべく引き金を引いた。
どう考えても、家族を守るために戦った勇気ある行為だ。賞賛すべき事柄だ。
「ねえ、パパ」
「うん?」
「あの飛行機、人が乗っていたよね……?」
神妙な調子のリンちゃん。やはりそこが気になっているのだろう。だからひとりでいたのだろうが。
「撃墜した別の機には乗っていたな」
ベルさんと確認した。リンちゃんが撃墜した機の捜索と検分はシェイプシフターたちがやっているので、100パーセントそうだと断言はできないけどね。同じ型にみえて、実は有人機と無人機を使っています、というパターンもある。
アポリト文明の遺跡に潜んでいた母船と六脚メカも無人で動いていたし、同じ組織のものなら、無人仕様の技術もあっておかしくはない。
ただ、そうであってほしいな、みたいな希望論はいわない。どちらにしても、後でわかることだ。ぬか喜びはさせたくない。
「人を、殺した」
「かもな」
未確定のことを断言はしたくない。
「お前たちを殺そうとした奴がな」
「そう……そうだね」
ハッとしたような顔になるリンちゃん。自分がやったことに気を取られて、どうしてそういう状況になっていたかを忘れていたのか? 攻撃してこなければ、反撃することもなかった。リンちゃんが殺した云々で、悶々とするものを抱えなくて済んだわけだ。
「どこにでも性質の悪い奴らはいるものだ。ひどい賊もいたものだ」
「最近の盗賊は飛行機に乗るの?」
「あるかもな。空中艦艇を改造して、仮説の空にでっちあげることもできるからな。その正体は、同盟軍情報局が洗うとして、いまは家族がみな無事だからよかった」
それに勝る思いはない。
少し話しただけだが、リンちゃんの顔色がよくなっていた。親から何か一言が大事な時というのは間違っていなかったようだ。ついでにかける言葉も、間違いでなかったので内心ホッとする。間違えれば余計に落ち込んだり、喧嘩になっていたかもしれないから。
最善ではなかったかもしれないが、最悪ではないというのも大事だからね。
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