第2028話、心は難しい
結局、俺の活躍の場はなかった。アドヴェンチャーⅡ号は自力で危機を脱して、妨害するべく現れた新手は、ベルさんが全部片付けてしまった。
……まあ、いいんだけど。
家族の無事を見届け、俺はベルさんに合流。ついでに連れてきたシェイプシフター諜報部に、不明機の残骸の回収を指示した。
トロヴァオン戦闘機から降りて、ベルさんと墜落した不明機の残骸の一つを眺める。
「パイロットは?」
「乗っていた。まあ、こいつに乗っていたのは墜落時に圧死したがな」
ベルさんは肩をすくめた。俺も半分潰れた球体を見やる。
「マーキングは……なさそうだな」
「ああ。ご丁寧に国籍や識別できそうなものはつけていない。非合法で動いている連中の手口だ」
万が一、機体が墜落して世間の目に触れても正体がわからないようにする。……うーん、国籍を出せないとか、ますます怪しいな。
テロリスト、というよりは、どこぞの国の秘密部隊が、表立って行動できない故の細工のように思える。
「いま、国籍を明かせない不審な連中といえば……」
「地下遺跡で、無人兵器を置いていたネオ・ナチャーロ。ネメジス、それと連んでいるらしいヴァラン国辺りか」
ベルさんは鼻をならす。
「複数の航空機を使っていたんだ。反体制派やそこらの武装組織にしては、充実し過ぎるから、そういうのではねえんじゃねえかな?
「どうかな。同盟の手の届いていない地方勢力も、案外、戦闘機や魔人機を保有していたりするぞ」
「そういうのは、どこぞの中古とかで揃えているもので、新規のものを作る技術力はないんじゃねえか?」
もっともらしいことを言うベルさん。
「お前さんは、どう思う、ジン?」
「近場でネオ・ナチャーロの母船があったからな。一番怪しいのは彼らだろう」
あの無人機の通報を受けて現れた可能性ってやつ。
「まあ、これもシーパング情報局行きだな」
先の怪しい三つは、近いうちに同盟相手に行動を起こす可能性もあるから、それと関係があるものなら、早めに情報を共有しておかないとな。
・ ・ ・
とんだ探索遠征になった。
クルフの誘いを受けて、ブァイナ金属採掘のお出かけだったのに、まさか戦闘になるとか。世の中、知らないところで物騒な連中が動いていたんだなぁ。
情報局のグレーニャ・ハルに先の件を報告したら『また面倒を……』と露骨な顔をされた。俺たちのせいじゃないぞ。むしろ、何者か知らないが、暗躍しているのがわかるきっかけになるんだから、感謝してもバチは当たらないぜ?
ということで、後の面倒はシーパング情報局に任せて、俺は帰宅。さっそくアーリィーとリムネに報告――と、何やら深刻な奥様方。どうしたの?
「リンちゃんが、ちょっとね……」
というアーリィーに、リムネがすまなさそうに説明した。不明機を撃墜したが、それでリンがショックを受けたらしい。
初撃墜かぁ……。正規の軍人であったなら、おめでとうなんだけど、彼女は軍人ではない。民間人とて、不当な攻撃に対しては反撃する権利はあるし、こういうことは民間人でもまったくない話ではないけど……。
「これは言い訳だけれど」
リムネは言った。
「彼女をつい軍にいるパイロットと同じように扱ってしまった」
「……まあ、これまでのことを考えると、そう錯覚しそうになるのもわかるけどね」
何せリムネの周りには、幼少の頃から施設にいて、プライベートなんてものがない中で育った子供兵ばかりだった。
リンちゃんにしても、戦闘機の操縦を習ったり、冒険者としてモンスターと戦う術とか学んでいたわけで、軍人のお知り合いも多かった。だから余計にね。
「軍として行動していたら問題だが、どう考えてもプライベートな襲撃で、反撃も人として認められた権利だからな。これは誰のせいでもない」
強いて言えば、あんなところに隠れていて、いきなり襲ってきた奴らが悪いよ。盗賊や山賊を撃退したとして、こちらが責任を感じるものではない。やらなきゃ殺されていたかもしれない犯罪者に同情するなど馬鹿らしい。
「個人の問題だ。リンちゃんにとっても……実際、14歳組も、冒険者をやっていればいつか通る道だ」
モンスターを退治するのと、人間を撃つのは違う。これがまた不思議なことに。人の形をしている分、影響が大きい。エルフなど人間に近い相手にも似たような感情を抱くというしな。
モンスター相手には強い冒険者も、相手が人間になった途端、後手に回ったり、戦えなかったりするのは珍しいことではない。
冒険者でも対人経験はやはり別のものなのだ。だから町中の不意打ちにやられたり、モンスターには容赦ない人でも、人間相手ではトドメを躊躇ったりする。
護衛任務中に山賊が襲ってくるパターンを、ベテラン冒険者は新人教育上、ラッキーだと言う者もいる。合法な殺人経験ができるからだ。これを経験していると戦士として、冒険者として、やはり強くなれる。大なり小なりショックはあるし、心は擦れるけどね。
「とはいえ、多感な時期でもある。ちょっとした言葉一つで怒ったり、荒れたりすることもある。気をつけたほうがいいと思う」
特に冒険者になったばかりの14歳組辺りが、落ち込んでいるらしいリンちゃんを、励ましたり、羨んだりした時なんか、火に油を注ぎそうで怖い。人間は、つい余計なことを言ってしまう生き物だからね。
「難しいよね」
アーリィーがポツリと言った。人間だからね。些細な言葉で傷ついたりもする。それも教育でしょ。
しかし、面倒の予感はするんだよな。予想可能、されと回避不可能ってやつ。
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