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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第二部

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2037/2056

第2027話、激突する球体


 アドヴェンチャーⅡ号には、連装のプラズマ砲が装備されている。自衛用といえば聞こえはいいが、戦闘になったら敵を撃破できるように割と強力な威力を持つ。


 その照準については、ナビコンピューターに任せることもできるし、タレットに行って人が操作もできる。


 副操縦席にいたリンは、メインで舵を握るリムネから、正体不明の敵に応戦するように言われた。

 球体に突起のついた異形の航空機が追いかけてきて、アドヴェンチャーⅡ号を撃ってきた。


 パイロットでもあったリムネの驚異的なテクニックで、敵のビームを回避した。だがいつまでも後ろにつかれて撃たれるのはよくない。


 反撃を、というのは実に真っ当な話であり、自衛の範疇だ。もしこの船がやられることになれば――性能上は破壊されないスペックがあるが――家族の命が危ない。


 コクピット側の操作で、プラズマ砲を後ろに向ける。それで追尾、攻撃してくる敵を狙う。こちらも回避運動を繰り返しているので、手動では中々狙いがつけにくい。プラズマ弾はほぼ直進するので、その弾道に敵機が乗らないと当たらないのである。


 あたしたちを狙う敵!


 その存在に、リンはカッとなる。こちらを撃ってくるなんて、なんて悪い奴らなのか。こちらは何もしていないのに。


 理不尽な怒りが込み上げる。照準の十字線が重なる瞬間、リンは引き金を引いた。青いプラズマ弾が走ったのは一瞬。


 命中した。球体の中心ではなく、外側だ。だが被弾した敵機はコマのように回転しながら跳ね飛び、そして地面に激突した。


「おめでとう、リン! 撃墜一よ!」


 リムネは操縦しつつ喝采した。


「撃墜――」


 戦闘機の操縦を習い、飛ばしていく中、もし戦争になったら、敵機を撃ち落とす日がくるのかしら――そう脳裏に思い描いたことは何度もある。


 でもそれは、しょせんは想像であり、本当にその日が来るという実感はまるでなかった。だが今、自分がまったく想定していない場所で空中戦になり、そして引き金を引いた。


 ――パイロットは脱出した……?


 そう呟いてみて、それはないと即座に否定する。スピンしながら落ちていく敵機から何かが飛び出したところは見ていない。あれが無人機でなければ、パイロットも当然死んだだろう。


 ――あたしが、殺した……?


 それまで記号のように見えていた敵機が、ふいに怖くなった。始末が悪いのは、まだ2機が残っている。そして僚機をやられたそれらは、盛んに攻撃してくる。


 今になって震えてきた。手元が狂う――そんな予感がして、リンは攻撃をナビコンピューターに委ねた。


 照準用コントローラーから右手を引き離す。震える右手を左手で押さえる。何をやっているんだあたしは――リンの感情はぐちゃぐちゃだった。


 ナビコンピューターは、たちまち1機を撃墜した。プラズマ砲で激しく撃ち返し、最後の1機の球体を撃ち抜き爆発四散させた。



  ・  ・  ・



 追撃を振り切り、安全なウィリディス・ドックへとアドヴェンチャーⅡ号は辿り着いた。

 リムネは、リンの異変に気づいていた。操縦席にいた時、14歳組が顔を見せ、ジュワンが尋ねた。


「敵機を落としたって?」


 リンは答えなかったので、リムネが返した。


「ええ、ナビコンピューターがね」


 リンの目が一瞬だけ、リムネを見た。ここで自分が落とした、といつもの調子で主張したならまだよかったのだが、リンは否定も肯定もしなかった。つまり沈黙を貫いたのだ。


 コンピューターが敵を撃墜したと聞いて、すぐに関心がなくなったか、ジュワンはユーリと船室に戻った。息子のラッタがリムネのもとまできた。


「いったい、敵はなんだったの、母さん」

「さあ……。初めて見る型だから、私にもわからないわ」


 コンピューターの識別表にも載っていなかった。

 リンが無言で席を立つと、操縦室から出て行った。ラッタが今までリンが座っていたシートに腰をおろした。


「姉さん、どうしちゃったの?」


 長女の異変に、長男は気づいていた。周りをよく見ているラッタが、いくら無言でも気づかないわけがなかった。


「私、しくじったかもしれない」

「母さん?」


 リムネは、リンに敵機に反撃するように指示し、彼女はそれを実行したことを告げた。1機撃墜。手動操作で。


「凄い! 姉さん、撃ち落としたんだ」


 素直に驚くラッタ。


「でも、それならどうして、あんな……あまり嬉しそうではないの?」

「初めて人を殺したかもしれないから、でしょうね。たぶん」


 軍の施設で育ったリムネである。初めての殺人を強制された子供たちを目の当たりにしてきた。リンの場合も、それに似たものを感じる。


「正直、無人機かもしれない。まだ殺したと決まったわけではないけれど、その可能性があるというだけで。充分というか……」


 リンも戦闘機に乗るようになって、いつかそういう日がくるかもしれないと想像はしていたと思う。だが今日に限れば、覚悟の時間もなく、いきなりだったから反動も大きいのかもしれない。


「アーリィーに謝らないといけないわね」


 リムネは目を閉じ、シートに身を預けた。あなたの長女に殺人をするように指示したこと。それでリンがショックを受けてしまったかもしれない。


 軍人であれば、遅かれ早かれ覚悟はしないといけないことだ。だがリンは、軍人ではない。戦闘機の操縦ができて、戦う術を身につけていても、まだ学生なのだ。


 最初は、敵機が記号のように見えていただろう。だがそれが墜落した時、リンはそこに操縦士の存在を感じてしまった。そこで急に現実に引き戻されたのかもしれない。


「あの人にも伝えておかないとね……」


 果たして夫――ジンはどう答えるだろうか。自分の娘が正当防衛とはいえ、人を撃ったかもしれないと聞いたら。

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