第2023話、母船に忍び寄る
ゴミ山の中に虫が潜んでいた。そういう言い方をするなら、それほど珍しくもないように思えてくるから不思議だ。
あの機械が死んだふりをしていれば、遺跡やら残骸やらに紛れても、まあ事前の偵察が見逃すこともあるのかもしれない。
俺は、家族を退避させつつ、アポリト文明の残骸を見やる。そこへベルさんが現れた。
「よう、ジン。何やら面倒なことになっているみたいだな」
「悪いね。せっかく酒盛りをしているところに連絡を入れてさ」
「いいさ。酒なんざいつでも飲めるが、楽しめそうな面倒事は、そうそうないからな」
ベルさんは皮肉げに言う。俺は肩をすくめた。
「そうとも、面倒事は大抵面倒で、楽しめるものなんて普通はないんだ」
この魔王様の場合は、ひと暴れできることが、楽しめる面倒事である。
「状況は?」
「廃墟同然の遺跡に、どこぞの誰かが知らないが自動機械を設置していた。……アリーシャがさらわれかけた」
「それはそれは」
ベルさんの表情が引き締まった。冗談ではすまない。
「六脚のマシンが複数、この廃墟に展開していた。ついでに母船とおぼしき円盤も」
「また円盤か」
ベルさんは鼻をならす。
「ネメジスか?」
「まだわからない。残骸に紛れているから全体のシルエットがつかめていないんだが――」
俺はデータパッドを操作し、その写真を見せる。
「少なくとも、現状確認されたものとは型が違う」
「円盤なんてどれも似たようなもんだろう。バリエーションじゃねえのか?」
「かもな。ただ色まで変えられてしまうと、ちょっと判断に苦しむね」
組織には大抵、そのカラーというものがある。大体同じようなカラーリングになるものだが、この廃墟迷彩っぽいのは初だから、ネメジスのそれと断言はできないんだよな。バリエーションと言ってしまうと、細部も結構変わってくるものだし。
ふん、とベルさんは首をかしげた。
「連中は、ここで何をしていたんだ?」
「それがわからない」
遺跡調査や採掘というなら擬装している意味がわからない。こちらを見つけるまで動かなかったし、今も別に攻めてくる様子もない。
「さすがにマシンが複数壊されたから、こちらの存在を向こうも感知していると思うんだが」
「攻めてこないなら、こっちから行くしかねえってことか」
「放置するのも気持ち悪いからな」
何の目的でここにいるのかわからないから余計にな。無視していたら何か取り返しのつかないことになっている……なんてこともあるかもしれない。
「父さん」
ラッタがやってきた。とんだ初クエストになったな、若き冒険者よ。
「父さんたちは、この遺跡の敵を倒しにいくの?」
「まずは調査だな。相手の正体が不明のままなのはよろしくない」
このタイミングで息子が声をかけてきたことに、嫌な予感がする。が、俺からは言わない。
「僕らも行っていいかな? 手伝いを――」
あぁ、やっぱりな。俺の視界の端で、ベルさんが失笑するのが見えた。
「駄目だ」
俺は却下した。息子云々は関係なく、新人冒険者を連れていくことではない。
「お前たちは、クルフおじさんの護衛でここに来ているのだろう? 護衛クエストを放り出すつもりか?」
冒険者としては、クエストを優先すべきだろう。まだ何もしていないことに焦りをおぼえているのだろうが、それはそれ、これはこれだ。
「でも、父さん。アリーシャが誘拐されかけて――」
「もう取り戻した。一刻を争う状況ではない」
他には?――俺が問うと、ラッタはしばし躊躇い、そして首を横に振った。
「ない」
よし。彼も本質的にはわかっているのだろう。ただまあ、弟たちが何かをしたい、しなくちゃみたいに言うものだから、俺に提案をしにきたのだろう。そして内心では、おそらく却下されることも察していたんじゃないかな。
「千里の道も一歩から。こつこつ実績を積み上げることがよい冒険者になる秘訣だ」
慌てず、着実に。まずは護衛任務を完遂しなさい。
・ ・ ・
キャンプ用具を片付け終えて、アドヴェンチャーⅡ号は遺跡を離れた。操縦はリムネに任せて、俺とベルさん、シェイプシフター兵1個分隊は、敵性存在の拠点へと向かう。
「クルフのやつは来ねえのか?」
ベルさんが尋ねる。あれが来ない理由? そんなのは簡単だ。
「あいつがついてくると、14歳組まで来てしまうからな」
護衛依頼だから、とせっかく帰らせたのに、危険なクエスト外の仕事に巻き込んでしまう。さっきのラッタとのやりとりが無意味になるってものだ。
「ブァイナ金属の採集自体は、あいつんところのゴーレムがやっているらしい。無理に出張らせるものでもない」
「そうだな。あの野郎がいたら、オレ様の獲物が減っちまう」
ニシシとベルさんは笑みを浮かべた。
廃墟を移動し、例の拠点が見える位置まで俺たちは移動した。そこまでの移動に六脚のマシンとは遭遇しなかった。……見張りも立てていないのか。
「――と、拠点の周りにはいるな」
残骸に紛れて複数。
「停止してカメラをやっている奴と、哨戒している奴がいる」
「ここは自分たちのテリトリーってか」
ベルさんが皮肉っぽく言った。俺は廃墟に身を隠しつつ、ストレージを操作して……光学迷彩マントを取り出す。
「魔法具を使うのか? 透明化の魔法のほうが早いだろうに」
「魔法、というか魔力を感知している可能性があってね」
アリーシャが殺されずに捕まった状況を考えた時、もしかして、と思った。……アンバンサー系のマシンに似ているからという確証もなにもないけど。
「魔法を使わずに接近しようと思う」
「それで空を飛んで移動しなかったんだな。なるほどな」
ベルさんは納得した。ということで、ベルさん用の光学迷彩マントを投げて、俺も身につける。
さて、気づかれずに潜入できるかな?
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