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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第二部

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2033/2056

第2023話、母船に忍び寄る


 ゴミ山の中に虫が潜んでいた。そういう言い方をするなら、それほど珍しくもないように思えてくるから不思議だ。


 あの機械が死んだふりをしていれば、遺跡やら残骸やらに紛れても、まあ事前の偵察が見逃すこともあるのかもしれない。

 俺は、家族を退避させつつ、アポリト文明の残骸を見やる。そこへベルさんが現れた。


「よう、ジン。何やら面倒なことになっているみたいだな」

「悪いね。せっかく酒盛りをしているところに連絡を入れてさ」

「いいさ。酒なんざいつでも飲めるが、楽しめそうな面倒事は、そうそうないからな」


 ベルさんは皮肉げに言う。俺は肩をすくめた。


「そうとも、面倒事は大抵面倒で、楽しめるものなんて普通はないんだ」


 この魔王様の場合は、ひと暴れできることが、楽しめる面倒事である。


「状況は?」

「廃墟同然の遺跡に、どこぞの誰かが知らないが自動機械を設置していた。……アリーシャがさらわれかけた」

「それはそれは」


 ベルさんの表情が引き締まった。冗談ではすまない。


「六脚のマシンが複数、この廃墟に展開していた。ついでに母船とおぼしき円盤も」

「また円盤か」


 ベルさんは鼻をならす。


「ネメジスか?」

「まだわからない。残骸に紛れているから全体のシルエットがつかめていないんだが――」


 俺はデータパッドを操作し、その写真を見せる。


「少なくとも、現状確認されたものとは型が違う」

「円盤なんてどれも似たようなもんだろう。バリエーションじゃねえのか?」

「かもな。ただ色まで変えられてしまうと、ちょっと判断に苦しむね」


 組織には大抵、そのカラーというものがある。大体同じようなカラーリングになるものだが、この廃墟迷彩っぽいのは初だから、ネメジスのそれと断言はできないんだよな。バリエーションと言ってしまうと、細部も結構変わってくるものだし。

 ふん、とベルさんは首をかしげた。


「連中は、ここで何をしていたんだ?」

「それがわからない」


 遺跡調査や採掘というなら擬装している意味がわからない。こちらを見つけるまで動かなかったし、今も別に攻めてくる様子もない。


「さすがにマシンが複数壊されたから、こちらの存在を向こうも感知していると思うんだが」

「攻めてこないなら、こっちから行くしかねえってことか」

「放置するのも気持ち悪いからな」


 何の目的でここにいるのかわからないから余計にな。無視していたら何か取り返しのつかないことになっている……なんてこともあるかもしれない。


「父さん」


 ラッタがやってきた。とんだ初クエストになったな、若き冒険者よ。


「父さんたちは、この遺跡の敵を倒しにいくの?」

「まずは調査だな。相手の正体が不明のままなのはよろしくない」


 このタイミングで息子が声をかけてきたことに、嫌な予感がする。が、俺からは言わない。


「僕らも行っていいかな? 手伝いを――」


 あぁ、やっぱりな。俺の視界の端で、ベルさんが失笑するのが見えた。


「駄目だ」


 俺は却下した。息子云々は関係なく、新人冒険者を連れていくことではない。


「お前たちは、クルフおじさんの護衛でここに来ているのだろう? 護衛クエストを放り出すつもりか?」


 冒険者としては、クエストを優先すべきだろう。まだ何もしていないことに焦りをおぼえているのだろうが、それはそれ、これはこれだ。


「でも、父さん。アリーシャが誘拐されかけて――」

「もう取り戻した。一刻を争う状況ではない」


 他には?――俺が問うと、ラッタはしばし躊躇い、そして首を横に振った。


「ない」


 よし。彼も本質的にはわかっているのだろう。ただまあ、弟たちが何かをしたい、しなくちゃみたいに言うものだから、俺に提案をしにきたのだろう。そして内心では、おそらく却下されることも察していたんじゃないかな。


「千里の道も一歩から。こつこつ実績を積み上げることがよい冒険者になる秘訣だ」


 慌てず、着実に。まずは護衛任務を完遂しなさい。



  ・  ・  ・



 キャンプ用具を片付け終えて、アドヴェンチャーⅡ号は遺跡を離れた。操縦はリムネに任せて、俺とベルさん、シェイプシフター兵1個分隊は、敵性存在の拠点(母船)へと向かう。


「クルフのやつは来ねえのか?」


 ベルさんが尋ねる。あれが来ない理由? そんなのは簡単だ。


「あいつがついてくると、14歳組まで来てしまうからな」


 護衛依頼だから、とせっかく帰らせたのに、危険なクエスト外の仕事に巻き込んでしまう。さっきのラッタとのやりとりが無意味になるってものだ。


「ブァイナ金属の採集自体は、あいつんところのゴーレムがやっているらしい。無理に出張らせるものでもない」

「そうだな。あの野郎がいたら、オレ様の獲物が減っちまう」


 ニシシとベルさんは笑みを浮かべた。

 廃墟を移動し、例の拠点が見える位置まで俺たちは移動した。そこまでの移動に六脚のマシンとは遭遇しなかった。……見張りも立てていないのか。


「――と、拠点の周りにはいるな」


 残骸に紛れて複数。


「停止してカメラをやっている奴と、哨戒している奴がいる」

「ここは自分たちのテリトリーってか」


 ベルさんが皮肉っぽく言った。俺は廃墟に身を隠しつつ、ストレージを操作して……光学迷彩マントを取り出す。


「魔法具を使うのか? 透明化の魔法のほうが早いだろうに」

「魔法、というか魔力を感知している可能性があってね」


 アリーシャが殺されずに捕まった状況を考えた時、もしかして、と思った。……アンバンサー系のマシンに似ているからという確証もなにもないけど。


「魔法を使わずに接近しようと思う」

「それで空を飛んで移動しなかったんだな。なるほどな」


 ベルさんは納得した。ということで、ベルさん用の光学迷彩マントを投げて、俺も身につける。

 さて、気づかれずに潜入できるかな?

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