第2022話、廃墟に潜むモノとは
キャンプに戻った時、周りにシェイプシフターメイドの他に、新たにシェイプシフター兵がいて、周囲を警戒をしていた。
無人の廃墟と思われていた場所に、敵性の魔物――いや機械があったのだから、無警戒とはいかない。
俺がアリーシャを下ろしてやると、キャンプに戻っていたアーリィーが駆けてきて、末娘と熱い抱擁を交わした。娘をきちんと抱きしめてやれるのは親の特権だ。もし失われれば、こういう親子のふれ合いもできなくなる。
「団長」
クルフが急ぎ足でやってきた。
「まずは、アリーシャちゃんも無事そうでよかったです」
「ああ。彼女を泣かせてしまった」
「事前調査はしたんでしょう?」
「廃墟の中で残骸のふりをしていたんだろうな」
休眠されていると、途端に発見が難しくなる。これがモンスターであれば魔力や生体スキャンなどである程度、探れるのだが。
「それより、あの子たちは――」
俺が、戻ってきた14歳組冒険者たちを見れば、クルフは頷いた。
「私が行かせました。すぐに追いつくからと先行させましたが……。余計でしたかね?」
子供たちに追わせず、そばにいろと指示しなかったこと。――俺は首を横に振った。
「クライアントの指示なら、悪くはない」
依頼人の意向に添うのも冒険者だ。妹の悲鳴に、あの子たちが居ても立ってもいられないからと、クルフが察して行かせたのだろうが。
「……何だか不機嫌そうな顔をしているな。まるで喧嘩した後みたいだ」
「団長が呼び戻したから、敵を倒せなかったことでイラついたのかも」
クルフが指摘した。軍でも若い兵が戦場の毒気に当てられて好戦的になるやつ。自分はまだやれるのにストップがかかったことで、感情の置き所に迷子になってしまうというもの。
「手柄を立てたかったのかも。……あの子どもたち、実質初陣なのでしょう?」
「本格的な指名依頼は初かも」
普通、冒険者になったばかりのところに指名されて依頼なんてほとんどないからな。意気に感じていたから、その反動かもしれない。
「それで、団長」
クルフは改まった。
「その敵ですが、何者ですか?」
「とりあえず機械だった。六本足、アリーシャを捕まえて腹に抱えたら、一目散に移動した」
「……それだけ聞くと、アンバンサー系のマシンのようですな」
人間の生体エネルギーを利用する異星人文明。今はその母星も含めて滅びてしまった説が濃厚であるが、あの文明の機械兵器は、確かに人間を捕まえることに特化したものが多かった。多脚型の陸上兵器を使っている点でもそうだった。
「色が違ったんだ。クリスタルっぽいというか、アンバンサー系にしてはキラキラ度合いというか、そういうのが」
「アンバンサー系の技術を利用した改造品。あるいはそれを参考にしたオリジナル……」
もしくは、ネメジスかも。俺の中で、あの連中が使う円盤兵器がよぎる。
円盤型艦艇を保有するネメジス軍。円盤とはいえ、異星人のアンバンサーとはまた異なる代物。……鉄星人側の機械という可能性もあるか。
「六体ほど潰したんだがね。一体がアジト、というか円盤に逃げた」
「船があるのですか?」
「あるいは拠点かもしれない」
パッと見でわからないように廃墟の中で擬装していたからな。いつから隠れているかわからないが。
「どうします? 我々はともかく、ご家族は?」
クルフが視線をやると、俺の妻の一人、リムネがやってきた。
「何やら作戦会議の雰囲気を感じたのだけれど……もしかして、まだ敵がいたり?」
「サキリス」
俺は戻ってきた彼女を目ざとく見つけ手招きした。リムネは目を剥く。
「ちょっと汚れてない? 転んだの? 大丈夫?」
敵の網に捕まり、派手に落ちたからな。思いのほか汚れが大したことないように見えるのは、サキリスのメイド衣装がシェイプシフター製ということもある。耐久性に優れ、再生、汚れの軽減もお手のものである。
「ええ、大丈夫。この廃墟に機械兵器が複数潜んでいるわ」
「ついでに、敵の拠点だが母船がある」
俺は付け加える。ま、敵の正体はわかっていないんだけどね。人間が後ろで操作しているものなのか、異星人の機械なのか、あるいは機械に見えてああいう生命体とか、どこぞの文明の忘れ形見が今になって動き出したか。
「ノースパークの一件もありますから、ネメジスとかいう連中かもしれませんね」
クルフは眉をひそめた。彼の庭にネメジスが勝手に拠点を作って、基地にしていた。これにお冠のクルフ君だが、シーパング同盟に敵対している組織・軍の拠点だ。同盟議会の対応次第では、同盟艦隊がノースパークのネメジス軍と衝突となるだろう。
「あいつら、アポリト文明時代の遺物発掘もやっていたんでしょう。そう考えれば、奴らがここに部隊を送り込んできてもおかしくはない」
「それで、どうします、ジン様?」
サキリスが真面目そのものの態度で聞いてきた。大陸戦争の頃のように、いつでも敵地に殴り込めるという顔をしている。今も魔法騎士ではあるが、前線を離れてどれくらい経つと一言言いたいね。
「ここから先は、軍隊の仕事だからね。とりあえず、キャンプは中止で家族は離れさせる」
民間人は避難させる。母船だか拠点のことがわかっていない時点だったら、冒険者に調査させるってこともあっただろうけど、今ここにいる新人冒険者たちには荷が重いんだよな。
「クルフ、回収作業についてはどうする? 一応、ゴーレムたちがいるんだろう?」
「作業は進めます」
何かあっても自力でなんとでもなるクルフである。だから俺としては、特に言うことはない。自分で責任がとれるって素晴らしいね。
「じゃあ、そっちはそういうことで。でこちらは、皆が避難した後、部隊を送って調査する」
あのクモもどきの親玉が、この廃墟の遺跡で何をしているのか気になる。クルフの言う通り、文明遺産荒らしかも知れないが、ネメジスという前例もある。悪い芽は早いうちに摘んでおかないとな。
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