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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第二部

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2031/2056

第2021話、妹を救出して


 上から見ると六脚機械(クモもどき)の動きは、かなり気味の悪いものだった。まさにカサカサ、という感じてゴキブリかよ、と思う。

 まあ、近くで聞くとちゃんと機械の足音をさせるのだけど。


 俺はアリーシャを抱えたまま――まだ泣いている――透明化して、逃げるクモもどきを追う。

 どこから来て、どこに行こうというのか。アポリト文明の無人機械の資料にはなかった型だ。十中八九、余所からきたものだろう。

 問題は、それがどこからか、だ。


 世界樹のない古代文明の都市跡で、いったい何をしていたのか? どうして我が娘をさらったのか?

 見たところ無人の自動機械っぽいから、アリーシャをさらったのは個人を識別したのではなく、ただそこに見慣れない――つまり侵入者を捕らえただけのようにも思える。

 では、何をしているのか、だが……。機械だけで動いているとも思えない。操作している人間、あるいは命令を出した人間がいると思うのだが……。


「おっと――」


 クモもどきが向かっている先に、何やら大きな物体。遺跡じみた建物の集まりの中。


「遺跡の中に円盤が隠れている……?」


 またも円盤。しかし先のネメジスの船とは違う型だ。大きさも全長100メートル前後と、駆逐艦より同程度かやや大きいくらいであった。

 ……とはいえ、型が違うとはいえ、円盤だ。こうも立て続けに円盤に遭遇するものかどうか。ネメジスのものという証拠はないが、だいぶ怪しいな。


 ストレージ開放、シェイプシフター、行ってこい!


 我らが偵察員であるシェイプシフターを飛ばす。俺も見に行きたいが、愛娘を抱いたまま危険な目にはあわせられない。子供の安全優先だ。

 ということで、そのまま空を飛んでキャンプに戻ろう。敵の正体についてはシェイプシフターに任せるとして、お礼参りは家族の無事を確保してからだ。


 そこでふと下を見れば、14歳組が駆けているのが見えた。さらわれた妹を助けようというのだろう。冒険者だもんな。

 いざ何かあれば動くのは自然だが、いちおう君たちクルフを護衛するのが依頼内容だったよね……? クライアントを放り出すのはよろしくない。……まあ、クルフに護衛などいらず、あくまで建前ではあるんだけど。

 俺は念話の範囲を広げ、家族全員に報告する。


『あー、アリーシャは救出した。キャンプに戻るので、全員そちらに集合するように』


 とりあえず、これでアリーシャを助けようと追跡していた子たちも、一度キャンプに戻るだろう。あの謎の円盤に不用意に近づくことはなくなる。



  ・  ・  ・



 アリーシャを救出した。

 父ジン・アミウールからの念話が頭に響いた時、それを受け取った者たちの感情は複雑なものだった。

 まず末の妹が無事と聞かされ、皆一様にホッとした。そこは皆共通の思いである。実の母であるアーリィーは膝が抜けるかと思えるくらい力が抜け、一緒に駆けつけていた長女のリンに支えられた。そのリンとしても、とても安堵していた。

 そして救出に駆けていた14歳組の面々だが――


「さすが父さんだ」


 長男ラッタは顔を綻ばせたが、ジュワンとユーリはお互い顔を見合わせた。ホッとしたのもつかの間、ふたりとも微妙な表情である。


「結局、父さんが持って行くんだな」


 ユーリが呟くように言えば、ジュワンは頷いた。


「さすがだよ。……ただまあ」


 ここの依頼で護衛を担っていたのは自分たちだ。妹の救出も、本当なら自分たちがしなくてはいけなかったのではないか。仕事をやらせてもらえなかったことが、少年たちの心に影を落とした。


「……」

「なーに、暗い顔してるのよ」


 レオナがそんなふたりを睨んだ。


「リーシャが助かったんだから、いいじゃない」

「そんな簡単な話じゃねえよ」


 ジュワンは拗ねたような顔になった。レオナは本気で顔をしかめる。


「何それ。リーシャが助かってよかったね、じゃないの? 自分がヒーローになりそこねたから拗ねてんの?」

「……」


 ジュワンもムッとする。ラッタが割って入った。


「何をやっているんだ。喧嘩するような要素、どこにもなかっただろう?」

「……」

「……」


 双方納得していない顔である。どちらも自分が悪いとは思っていない故の態度である。誰か悪いとかそういうことでもないが。


「なあ、兄貴よ」


 ジュワンはラッタに言った。


「オレら冒険者だよな? 依頼を受けてここにいるんだよな?」

「そうだよ。他に何かある」


 素直に認めるラッタ。ジュワンは渋い表情を浮かべる。


「オレらは新米だ。正直、冒険者としても大した実績もないし、実力があるのかってのはまだわからねえ。だけどさ、その実力ってのがわかるかもしれない機会だったわけじゃん。そこでさ、こうして必死に走って……でもそれだけでさ」

「ジュワン……?」

「オレたち、すっげぇ惨めじゃね?」


 ジュワンは言った。


「敵に挑んで苦戦した、とか負けたとかさ、そういうのならまだ実力不足なんだなってわかるだろう? 自分が悪いと責めることもできる。だけど、これじゃあ、何もわからない。オレたちなんて最初からいなくても、全部オヤジが解決しちまう。……意味あんのか? オレたち!」


 冒険者になって、初めての依頼で、何もできなかった――否、させてもらえなかったこと。それは少年の心には屈辱的なことだった。

 だが――


「は? 馬鹿じゃないの」


 レオナは苛立ちを露わにした。


「んなもの、次で実証すればいいでしょうが。誰も死んでないし怪我したわけでもない。次があるじゃん。でも、今はさ、リーシャが助かって心からホッとする時でしょう? わたしらの可愛い妹がさらわれて、もしかしたら死んでいたかもしれないのよ? なにより無事でよかったじゃない。まずそれを喜びなさいよ!」

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