第2021話、妹を救出して
上から見ると六脚機械の動きは、かなり気味の悪いものだった。まさにカサカサ、という感じてゴキブリかよ、と思う。
まあ、近くで聞くとちゃんと機械の足音をさせるのだけど。
俺はアリーシャを抱えたまま――まだ泣いている――透明化して、逃げるクモもどきを追う。
どこから来て、どこに行こうというのか。アポリト文明の無人機械の資料にはなかった型だ。十中八九、余所からきたものだろう。
問題は、それがどこからか、だ。
世界樹のない古代文明の都市跡で、いったい何をしていたのか? どうして我が娘をさらったのか?
見たところ無人の自動機械っぽいから、アリーシャをさらったのは個人を識別したのではなく、ただそこに見慣れない――つまり侵入者を捕らえただけのようにも思える。
では、何をしているのか、だが……。機械だけで動いているとも思えない。操作している人間、あるいは命令を出した人間がいると思うのだが……。
「おっと――」
クモもどきが向かっている先に、何やら大きな物体。遺跡じみた建物の集まりの中。
「遺跡の中に円盤が隠れている……?」
またも円盤。しかし先のネメジスの船とは違う型だ。大きさも全長100メートル前後と、駆逐艦より同程度かやや大きいくらいであった。
……とはいえ、型が違うとはいえ、円盤だ。こうも立て続けに円盤に遭遇するものかどうか。ネメジスのものという証拠はないが、だいぶ怪しいな。
ストレージ開放、シェイプシフター、行ってこい!
我らが偵察員であるシェイプシフターを飛ばす。俺も見に行きたいが、愛娘を抱いたまま危険な目にはあわせられない。子供の安全優先だ。
ということで、そのまま空を飛んでキャンプに戻ろう。敵の正体についてはシェイプシフターに任せるとして、お礼参りは家族の無事を確保してからだ。
そこでふと下を見れば、14歳組が駆けているのが見えた。さらわれた妹を助けようというのだろう。冒険者だもんな。
いざ何かあれば動くのは自然だが、いちおう君たちクルフを護衛するのが依頼内容だったよね……? クライアントを放り出すのはよろしくない。……まあ、クルフに護衛などいらず、あくまで建前ではあるんだけど。
俺は念話の範囲を広げ、家族全員に報告する。
『あー、アリーシャは救出した。キャンプに戻るので、全員そちらに集合するように』
とりあえず、これでアリーシャを助けようと追跡していた子たちも、一度キャンプに戻るだろう。あの謎の円盤に不用意に近づくことはなくなる。
・ ・ ・
アリーシャを救出した。
父ジン・アミウールからの念話が頭に響いた時、それを受け取った者たちの感情は複雑なものだった。
まず末の妹が無事と聞かされ、皆一様にホッとした。そこは皆共通の思いである。実の母であるアーリィーは膝が抜けるかと思えるくらい力が抜け、一緒に駆けつけていた長女のリンに支えられた。そのリンとしても、とても安堵していた。
そして救出に駆けていた14歳組の面々だが――
「さすが父さんだ」
長男ラッタは顔を綻ばせたが、ジュワンとユーリはお互い顔を見合わせた。ホッとしたのもつかの間、ふたりとも微妙な表情である。
「結局、父さんが持って行くんだな」
ユーリが呟くように言えば、ジュワンは頷いた。
「さすがだよ。……ただまあ」
ここの依頼で護衛を担っていたのは自分たちだ。妹の救出も、本当なら自分たちがしなくてはいけなかったのではないか。仕事をやらせてもらえなかったことが、少年たちの心に影を落とした。
「……」
「なーに、暗い顔してるのよ」
レオナがそんなふたりを睨んだ。
「リーシャが助かったんだから、いいじゃない」
「そんな簡単な話じゃねえよ」
ジュワンは拗ねたような顔になった。レオナは本気で顔をしかめる。
「何それ。リーシャが助かってよかったね、じゃないの? 自分がヒーローになりそこねたから拗ねてんの?」
「……」
ジュワンもムッとする。ラッタが割って入った。
「何をやっているんだ。喧嘩するような要素、どこにもなかっただろう?」
「……」
「……」
双方納得していない顔である。どちらも自分が悪いとは思っていない故の態度である。誰か悪いとかそういうことでもないが。
「なあ、兄貴よ」
ジュワンはラッタに言った。
「オレら冒険者だよな? 依頼を受けてここにいるんだよな?」
「そうだよ。他に何かある」
素直に認めるラッタ。ジュワンは渋い表情を浮かべる。
「オレらは新米だ。正直、冒険者としても大した実績もないし、実力があるのかってのはまだわからねえ。だけどさ、その実力ってのがわかるかもしれない機会だったわけじゃん。そこでさ、こうして必死に走って……でもそれだけでさ」
「ジュワン……?」
「オレたち、すっげぇ惨めじゃね?」
ジュワンは言った。
「敵に挑んで苦戦した、とか負けたとかさ、そういうのならまだ実力不足なんだなってわかるだろう? 自分が悪いと責めることもできる。だけど、これじゃあ、何もわからない。オレたちなんて最初からいなくても、全部オヤジが解決しちまう。……意味あんのか? オレたち!」
冒険者になって、初めての依頼で、何もできなかった――否、させてもらえなかったこと。それは少年の心には屈辱的なことだった。
だが――
「は? 馬鹿じゃないの」
レオナは苛立ちを露わにした。
「んなもの、次で実証すればいいでしょうが。誰も死んでないし怪我したわけでもない。次があるじゃん。でも、今はさ、リーシャが助かって心からホッとする時でしょう? わたしらの可愛い妹がさらわれて、もしかしたら死んでいたかもしれないのよ? なにより無事でよかったじゃない。まずそれを喜びなさいよ!」
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