第2019話、遺跡探索の好み
遺跡と聞いてワクワクしてしまうのは、きっと親譲りの性分なのだろうとリンは思う。
特に母アーリィーから、遺跡探検と、かつての文明に思いを馳せることの素晴らしさを幼い頃から教わった。
そのアーリィーとかつての文明の跡を見ている。その瞬間は、実に久しぶりの感覚で、特に母と一緒にいて共有していることが嬉しかった。
疎遠というわけではないが、ここ最近そういう交流の機会があまりなかったというのもある。
いつも家で顔を合わせているし、言葉も交わしているが、一緒に出かけたのはいつ以来か。
思えば、母からはいろいろ教わった。遺跡探求の他には、たとえば乗り物の操縦とか。戦闘機に載せてもらった時も、戦車や魔人機とかも。
「……ここは、結構荒れているわね」
アーリィーは、崩れている民家だったもの、そしてその街並みを眺める。
「手入れされないとこんなものよね。ディーツーが管理していたところなんて、ほぼ当時の面影を残すくらいピカピカしていたし」
「比較できるね」
リンは苦笑した。同じ時代の文明の都市遺跡だが、管理と放置でここまで差が出る。
「ねえ、ママ。ここってアポリト文明の遺跡よね?」
「そうよ。それがどうかした?」
「ううん、シーパングの街並みと形は、違うんだけど、雰囲気は似ているなって思って」
「そうかな? ……そうかも」
今度はアーリィーが苦笑した。
「ここ数年は、アポリト文明風のデザインが流行って、色々なところで見られるようになったものね。以前は、……お父さんが作った頃はかなり機械文明風だったのだけれど」
「あー、わかる日本でみた近未来SF風ってやつ」
年末年始や、盆帰省とかいう異世界旅行。以前、それで遊んだゲームの世界に似ているデザイン。
「……ニーゴちゃんは退屈そうね」
アーリィーの言葉に、リンも視線を向ける。今日も今日とて絶賛美少女姿のニーゴは、何を考えているかわからない表情で、ぼんやりと廃墟の街並みを見つめていた。
「ニーゴ」
「なに?」
リンに呼ばれて、視線を返すニーゴ。
「あんた、退屈してる?」
「え? ……いや、そうではないけれど。興味深いと思う」
当たり障りのない答えだった。リンは腰に手を当てる。
「興味深いって顔、してないみたいだけど?」
「正直に言っていい?」
「どうぞ」
「すごく汚い」
ニーゴは目を伏せた。
「その、色合いが、どうも合わないというか。長年の劣化、ああなってしまったのはわかる。元はそうでもなかったのはわかるんだけど……今は、ちょっと汚い印象が強くて」
「緑に塗ってやるべきかしらね」
「駄目よ、リン。遺跡で一番やっちゃいけないことでしょうが」
冗談であるのはわかっていても、駄目なものは駄目というアーリィーである。リンは肩をすくめる。
鉄星人のニーゴは、このテラの人間とは色彩感覚が微妙に違う。この廃墟の土くれた色は、鉄星人感覚では汚い色なのだろう。……うんこと同じ色とか言わないわよね?――リンは思ったが言わなかった。
「綺麗汚いでいえば、手入れされていない分、仕方ないところではあるわね」
アーリィーは言った。
「でも色のことを除けば、そう悪くない?」
「はい。汚さが強いですが、それさえなければ」
「ふふ、正直ね。きついようなら、キャンプに戻ってもいいよ。そちらならゲームとかできるし」
遺跡にさして興味のない兄弟姉妹は、そちらで時間を潰している。その筆頭が、四女ルマ、五女ジュイエ。キャンプで手伝うでもなく、あの二人は携帯ゲーム機で遊んでいるだろう。
エミールは例の映画の資料本を眺めているし、リザベッタとアリーシャはキャンプ周りでボール遊びだったり隠れんぼをしていた。
そして末っ子のシエルだが――
「あれは、そろそろ突っ込んだ方がいいのかしら……」
リンはそちら――シエルが隠れてこちらを見ているのを睨む。隣のニーゴの脇腹を軽く小突く。
「どうするよ、ニーゴ。あの子、あんたにゾッコンよ」
「ゾッコン?」
怪訝そうな顔になるニーゴである。リンはニヤニヤ笑いが止まらない。
「あんたが美少女過ぎるから、あの子、あんたにホレちゃったのよ。どう責任とるのさ?」
「……これはこちらで何かするものなの?」
ニーゴは真顔である。
「私は特に何も思っていないのだけど。一方的に彼から思われているだけで」
好きでもないなら、相手にしないというのも一つの答えだが……リンは悪乗りした。
「あたしの弟よ? あんな可愛い男の子のどこが気にいらないのよ!?」
「えっ? え?」
「あの子のママは知っているわよね? 超絶美人で、シエルも将来超絶イケメン。その片鱗はすでに見えている。今はまだ小さいけど、高校生になる頃には長身、美形、しかも王子様で、学校中の女子が放っておかない存在になるのよ? つばをつけとけって」
「舐めればいいの?」
「おい、こら」
冗談が通じないニーゴに、リンの方が真顔になる。半ば記憶が怪しく、また文化どころか生まれの星も違う相手である。大体伝わるだろうニュアンスが通用しない。
これには聞いていたアーリィーが忍び笑いを浮かべる。和やかな雰囲気である。ふと、こうした平穏がいつまでも続けばいいのに、と彼女は思った。
その時、キャンプの方から女の子の悲鳴が響いた。
「今の声――」
リンが顔を青くし、アーリィーは振り返った。
「アリーシャ!」
自分のお腹をいためて生んだ子。彼女に何かあった――?
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