第2018話、ブァイナ金属回収
「なんだ、もっと何か出てくると思ったのに」
そうぼやいたのは、ジュワンだった。槍を肩に担ぎ、視線を巡らす。長男でありリーダーであるラッタは苦笑した。
「毎回毎回、モンスターと出くわすようなことばかりじゃないさ」
「漫画の見過ぎー」
レオナが、へっ、と小馬鹿にするように言った。ムッとするジュワン。
「ユーリ、何か言ってくれ」
「そりゃ冒険者だからって、いつもスリル満点な仕事ってわけじゃないさ」
誕生日の近い兄弟であるユーリは淡々と告げた。
「むしろ、護衛クエストなんて、何もないほうがいいじゃないか」
モンスターを倒せばいいって仕事ではないのだから。優先すべきは、護衛対象を危険から遠ざけ、何かあれば命がけで守ることだ。
しかしジュワンは口を尖らせる。
「でもそれじゃあ、経験が詰めないじゃないか」
「ジュワン、モンスターを倒すだけが経験じゃないよ」
ユーリはたしなめた。
「クエストを通して、きちんとこなすこと。それ自体が経験じゃないか」
体力配分、クエストでの気づき、状況に応じた対処。何もなくても、これらは全て経験となり、自分の次、未来に繋がる。
「警戒の仕方一つだって、経験だよ。より完璧な、より効率的な……次は今より上手くやれるように、意識するのが大事じゃないかな?」
「……」
兄妹たちから、不思議そうな目を向けられるユーリ。これにはギョッとした。
「俺、何かおかしなことを言った?」
「いや」
ラッタは警戒に戻った。
「僕の言いたいことを全部言ってくれたよ」
「ふーん、やるじゃん」
レオナも警戒のために前進し、ジュワンは睨むように目を細くした。
「お前、何か悪いものでも食べたか? 少しおっさん臭いぞ?」
「え、そう?」
大人扱いされたいお年頃でも、おっさん呼びには抵抗がある微妙な心境。
そんな子供たちを見守り、後からついていく俺たちだが、これといって障害もなく、外壁に到着する。
クルフが、高い天井を見上げ、そしてそこまでを構成する黒い壁を見やる。
「これです。ブァイナ金属で作られた壁です」
「昔をこれを開けるのに苦労したんだよな」
初めてこの金属に遭遇した時、あのベルさんでも壊せなかったんだよな。その時は抜け穴があって入れたけど、解析して扱えるようになったのはしばらく後からなんだよな。
「アポリト文明でも、この金属についてはトップシークレット扱いだった」
「ええ、当時の金属加工を生業とする者たちもほぼ知らなかった。おかげで私も苦労する羽目になったんですが」
なにせ簡単に目にできるような資料も残っていなかった。と、いうより残していなかったというべきか。
俺があの文明に足を踏み入れた時点で、ブァイナ金属自体、扱える匠が天然記念物並の希少扱いだった。当時でさえ、失われつつある技術だったというのだから恐れ入る。
そんなんだから、ネメジスの奴らがブァイナ金属製貯蔵庫の開けられなかったのだ。一度ロックがかかってしまうと、正規の手続きで開かなくなるし、それでは壊して……となっても壊せないんだから。
「それでは、団長。後は私のほうで適当に解体して集めておきます」
クルフはそう宣言すると、ゴーレムを複数体を召喚した。ブァイナ金属については、彼はそれを扱えると以前言っていたので、俺は何も言わない。
ネメジスはブァイナ金属回収を使えるから俺と家族を狙ってきたが、もしクルフも自在に使えると知っていたら、果たしてどうだっただろうか。
俺とクルフ、どちらを狙っていたか? ……まあ、クルフ・ラテースなのか、クルフ・ディグラートルかで変わるだろうな。
かの大皇帝だったことはラテースの名からはわからない。だから、その状態だったなら、英雄魔術師ジン・アミウールを狙うより、よくわからないクルフ――映画監督をやっているマカントなる彼を狙ったに違いない。
絶対そのほうが楽だ、なんて考えたと思う。が、ここでクルフがディグラートル大皇帝だったと知れば、二の足を踏むか。
いや、そうでもないか。大皇帝は死んだことになっているから、生存を知れば、世間にそれを暴露し、周囲との孤立化を図った上で狙ってくるかもしれない。
世界は、大陸戦争の元凶であるディグラートル大皇帝への憎悪と恨みを忘れてはいない。むしろ、真相を知っている俺らも助けを出しにくくなるから、やはりクルフが狙われただろう。
……ネメジスがそれを知らなくてよかった。社会的にも大問題になっているところだ。最悪の手を引いていないだけ、まだマシというところか。
もっとも、クルフなら狙われたところで、自力で撃退していただろうけどな。ノースパークを乗っ取ったネメジス軍に殴り込みをかけるくらいだもんな。
むしろ、シーパング同盟が軍を派遣するより早く始末をつけてしまう可能性は……ないか。
すでにノースパークを攻撃し、それを取り返していない時点でクルフにも限界はあったということだ。ただ、時間をおけばクルフ独力で何とかしてしまいそうではあるが。
しかし、それを待つより早く、ネメジス軍が動き出しそうなんで、同盟軍との衝突は避けられないと思う。
後は同盟議会がどう判断し、軍を派遣するか、だな。こればかりは俺の一存ではどうにもできない。同盟各国が協議し、決めるのを待つだけだ。
「……そういえば」
俺は、ちら、とアーリィー――といっしょにいるリンとニーゴを見やる。俺には、あの鉄星人の様子を観察するという仕事もある。
ネメジス軍の円盤の技術が、もしかしたら鉄星人に関係しているかもしれないとなると、記憶を無くしているニーゴに対しても、もう少し警戒する必要があるかもしれない。
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