第2017話、かつての文明の残骸
かつて世界樹があった場所。
アポリト魔法文明時代、アポリト浮遊島に生えていた巨木は、今はシーパング本島にあって、ここにはその名残だ。
つまり、分裂した島の残骸とブァイナ金属装甲で覆われた、かつての文明の遺跡である。
「かつては、ここに人が住んでいた」
俺は、広大な地下にはまり込んだ、かつての浮遊島を見上げる。
「だが吸血鬼たちの巣窟になった時、ここに住んでいた人たちもいなくなった」
「ある者は吸血鬼に。恭順を拒んだ者は殺されたか、素材に」
クルフ・ラテースは淡々と言った。
「タルギアは敵には容赦しませんでしたから」
「誰かさんみたいだな」
十数年前まで大皇帝だったクルフくん。
「私のことを言っているのであれば、私自身、あれを元にしたクローンですから。まったく同じとは言いませんが、似ていても不思議はありません」
「知っているか? 同じ遺伝子データを持つクローンだからといって、オリジナルと同じ人格にはならないって」
とある独裁者の遺伝子からクローンを作っても、同じように独裁者になるとは限らない。環境と教育。それによって善にも悪にもなるというやつだ。
「お前だって、タルギアを見ずに、普通の家庭で育てば、ああはならなかったかもな」
「どうですかね……。私は長い間に色々見てきましたから、ナチャーロ文明みたいなので、かなり影響されたかもしれませんよ?」
「お前がアポリトの騎士にならなければ、不老不死にもならなかった可能性もある」
そうなれば、現代まで生きて、大帝国の指導者なんてできなかった。
「なるほど、そういうパターンもありますか」
クルフは感心したような顔になった。
「教育ですか」
「環境も、だな。いくら親が良くても、周囲から冷遇されたり迫害されると、敵意が募って取り返しのつかないことになることもある」
お前は悪いやつだ。……親から言われるのは最悪だが、周りから言われるのは害毒だ。事が起きて『ほらみろ、やっぱり悪い奴だった』とのたまう人間も、実はその悪いことを引き起こす原因の一つになっている場合もある。
周りが優しくしていれば、悪いことは起きなかった、というのは往々にしてある。だから、ああだこうだと他人の顔で人の悪口を言っている奴が、人の成長、人格形成にとって諸悪の根源だったりする。好き勝手言っている野次馬ほど、ろくな奴じゃないということだ。
「父さん」
ラッタが声をかけてきた。まだ子供なのに背はあるから、軽鎧や装備をまとうと若い冒険者に見える。年に似合わず落ち着いた雰囲気のせいかな。
「こっちは準備はできてるよ」
「そうか。じゃあ、行くか」
クルフに言えば、彼は頷いた。そして我が家の長男に社交的な笑みを浮かべた。
「では、ラッタ君。護衛は頼むよ」
「はい、お任せください」
少年冒険者は、映画監督――ジョセフ・クルフ・マカンタにそのように返した。
そしていざ、ブァイナ金属回収に出発だ。
アドヴェンチャーⅡの周りで、お母さんたちと年少組を中心にキャンプする組と、俺、クルフと冒険者や年長組で回収に向かう組に分かれる。
先導するラッタ、ジュワン、ユーリ、レオナら冒険者組。今のところ魔獣の気配はないが、初心者特有の警戒感で注意を払いつつ進む。
その様子を見て、クルフは笑みを貼り付ける。
「頼もしいですね」
「ん? ラッタたちか?」
俺は苦笑する。
「一人前の顔をしているが、まだ実戦の経験がほとんどないんだがね」
シミュレーションは経験のうちに入るんだろうか。
「ま、比較的脅威度の低い場所で実戦を経験させる、慣らさせるのは新人教育の形だからね」
「基本ですね」
いきなり難しいことをやらせても上手くはいかない。
「で、実際どうなんです? ここ、危なかったりします?」
「うちのシェイプシフターたちが先行して偵察している」
俺は小声で答えた。予め確認しているのは当然だけど、それを言ってしまうと子供たちのやる気にかかわる。
とはいえ。
「ここは世界樹がなくなって放置されて、知る人もほとんどいないが、腐ってもアポリト時代の遺跡だ。ネメジスみたいな連中がいないとも限らない」
何か有益な遺物などがないか捜索に来ていても不思議はない。
「奴ら、前科がありますからね」
クルフは皮肉げに口元を緩めた。彼の持ち物だったノースパークが、いつの間にかネメジスによって拠点として使われていたのは記憶に新しい。
「人様の庭で、軍隊を作られていた。それに味を占めて、アポリト時代の浮遊島残骸を利用としてもおかしくはないですね」
内部の設備を利用したり、秘密基地に使っていたり……まあ、そんなところか。
「それでなくでに、モンスターが入り込んだり、盗賊のようなアウトローが拠点化している可能性もある」
今回のように家族連れて、半分旅行みたいになっているからこそ、事前に偵察させたのだった。もし敵性の拠点なり軍隊なりがあれば、家族を連れてくることはなかった。
「つまりは、ここにそういう厄介そうなものは存在しなかった、と」
「偵察の段階ではな」
だから家族みんなで来ているわけだ。
「ただ生き物は入り込んでいるから、無条件で安心というわけでもない。子供たちが警戒しているからって、油断はするなよ?」
「了解です」
俺たちは進む。ちらと振り返れば、遺跡好きのアーリィーが、娘のリン、そしてニーゴと何やら話ていた。アポリト文明についてレクチャーしているのかな?
「おっ……」
ふいに、魔力の波が肌に触れた。見ればラッタが魔力サーチで周辺を探っていた。目に見える範囲外も探そうというのだろう。
ちゃんと仕事をやっているようで、偉い!
累計45万部突破! 英雄魔術師はのんびり暮らしたい@コミック、1~14巻(12巻以降は電子書籍版のみ)発売中! コロナEX、ニコニコ静画でも掲載中!
オーディオブック1巻配信中。どうぞよろしくお願いします!




