第2014話、工作員情報
俺の悪い癖は、深読みをすることだと思う。
もうすでにシーパング同盟にいくつか不届きな振る舞いをしているネメジス。相手によってはとっくに開戦してもおかしくない状況だが、『実は……』的なものがあるのではないかと勘ぐってしまうのだ。
表面上、攻撃されたから反撃しますも通用はするのだが、何故そうなったのか、それが疑問としてつきまとうわけだ。
しかし、結果的に言えば、この問題に対してある程度の解決をみた。
ネメジス特殊部隊に潜入していたシェイプシフター工作員が、情報を持ち帰ってきたからだ。
「よく戻ってこれたな。ノースパークは、異空間なのだろう?」
そこからシェイプシフターが単独で戻ってくるのは無理だろう。その異空間を出入りする何かに便乗しなければ。
つまりは、そういうことだ。敵の乗り物に張りついて、異空間を出て――
「クルフ・ラテースの艦隊と一緒に戻ってきたようです」
ラスィアがその報告をよこした。あー、例の発信機の発信って、ネメジス船じゃなくて、クルフの船だったのね。
要するに、クルフがノースパークを攻撃した時に、そのドサクサに紛れて、クルフの艦隊にシェイプシフターが潜入し、そこから脱出してきたということだ。
なかなか賢いじゃないか。それはそれとして――
「で、どうなんだ、ネメジスは?」
「仕掛けてくるようです。シーパング同盟に」
ラスィアは事務的に告げたが、正直、俺としてはそれは一番聞きたくなかったな。
「戦争か。何か恨まれることをしたかな?」
そもそも国として存在していたかさえ怪しい組織である。外交ルートなんて当然ないから、シーパングと政治上トラブっていたということもない。
まあ、ここ最近の騒動がネメジスのものとわかった今からすると、色々トラブルを起こして対立しているが。
「自分たちで覇権を取りたい。そういう類いなのではないでしょうか。その辺りの目的ははっきりしていませんが、構成員たちはシーパング同盟に対する敵意が多かれ少なかれあって、組織としてもそれを刺激するような言動が多いようです」
「自分たち?」
「複数の組織が、ネメジスと同盟を組んで、こちらも戦争の準備をしているらしい――とこちらについては工作員も聞いた程度で、事実確認はまだできていない情報のようですが」
「それは俺たちやシーパング情報局で裏を取ってくれってことなんだろう」
時間の都合というのもあったのだろうが。なお、その情報局にも工作員からの報告が届いている。
俺はレポートを見て、自然と眉が寄った。
「これ本当?」
「そのようです。ヴァラン国、ネオ・ナチャーロと名乗る組織が加わっているようです」
どこから突っ込めばいいのか。
「ヴァラン国は戦争の準備をしているのか?」
旧ニーヴァランカ。旧連合領――シーパング同盟加盟国に隣接する国であり、同盟の関係は贔屓目に見て、良くも悪くもなく、というところだが、はっきり言ってしまうと仮想敵国として国境線に部隊を貼りつけて、睨み合うな関係である。
技術力で同盟が勝っているか、ヴァラン国も近代化によってその軍備も馬鹿にできない。ただ現時点では、同盟軍が数で圧倒しているため、世間的には仮に戦争になっても勝てると見られている。
「いえ、今のところヴァラン国に目立った動きはありません」
ラスィアは眉をひそめた。
「正直、ヴァラン国の監視の結果を信じるならば、戦争の兆候は見られません。兵員が増えたわけでも、兵器開発が極端に増えたというのも。ただ――」
個人副官は声を落とした。
「工作員の報告では、ネメジスから兵器の提供を受けたというのがありまして……。規模は確認されていませんが、その量によっては」
「比較的、短い期間で戦争準備を終えて、開戦もあり得るのか」
「そうはなるのですが、いえ、あそこの政治的に、同盟と戦争する理由がないと言いますか」
ラスィアは眉間に皺を寄せる。今日はそういう顔ばかりだね。
「シーパングが保護しているニーヴ人の問題とか、掘り起こせば敵対の理由はあるのでしょうが、それをもって戦争をするには動機が弱いと言いますか、ヴァラン国の政治中枢も、シーパング同盟を特別敵視しているふうでもありません」
何か事件があって急激に関係が悪化しているとか、ヴァラン国の政治屋の中に、同盟と戦争すべしと声高に叫んでいる者がいる、ということもない。民がその気もないのに戦争を始めるのは無理がある。
こういう状況は、かえって同盟軍も動きにくいよな。敵対勢力側にいるといっても、だからいって突然こちらが軍隊を国境警備に増員すれば、ヴァラン人たちに危機感を煽り、それこそ関係が悪化することになりかねない。
「警戒はする。しばらくはヴァラン国の政治的、要人とその言動に注目ということだな。兆候がなければ、同盟としてはどうにもできないだろう」
とりあえず、ヴァラン国はそうするとして、次にネオ・ナチャーロだ。
「こいつら、自分の国を作っているんじゃなかったっけ?」
怪獣を使った世界破壊計画。その後、大陸を支配する……という野望は、10年前に決着がついている。強硬派は倒れ、穏健派が自分たちの国を作るという流れだったはずだが。
「調査は進めていますが、まだ強硬的な一派が残っていたか、新たに生えてきたのでしょう」
生えてきた、ね。タケノコか何かかな?
「要監視対象である穏健派については、こちらも軍事がどうとか、同盟へ報復だというものはないと報告されています」
「なるほどね」
そうなると、同盟関係にあるヴァラン国、ネオ・ナチャーロの方向は備えはすれど、今すぐどうこうは難しそうだ。
同盟議会にも、まず確実に戦争準備をしているネメジスに対する防衛、あるいは迎撃の準備をさせる必要があるだろうな。
一段とキナ臭くなってきた。
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