第2013話、クルフから事情を聞こう
信号が現れた。
ようやく、潜入したシェイプシフターが発信をしてきたと思ったら、俺のところにクルフから連絡があった。
『ノースパークに偵察に行ってきました』
……これである。耳を疑った。
『ネメジス軍の戦力についても、多少記録をとったのでそちらに渡す準備もありますが、話せますか?』
「ぜひ聞きたいね」
会う約束をし、通信を終了。俺はシーパング情報局の局長を呼び出した。グレーニャ・ハルは、例によって不機嫌そうだった。
ネメジス関係で、軍上層部と情報のやりとりでもしていたのだろう。喜べ、さらに追加情報だぞ。
「クルフがノースパークに乗り込んで偵察してきたってさ。今から会いに行くけど、君も来る?」
クルフの正体を知っている数少ない吸血鬼である。なんならアポリト文明時代は俺より奴のことを詳しいから、いてくれると助かるんだがね。
『私も忙しいのだけれど』
迎えにきて、とグレーニャ・ハルは甘えた。まあ、局長様がホイホイお出かけできるほど暇ではないから、時短してさしあげよう。
ということで、俺が転移でシーパング情報局の局長室にお迎え。グレーニャ・ハルは当然、情報局軍服姿のままだが、突然俺に抱きついてきて……おいおい、秘書さんに誤解される行動はやめてくれないか?
「疲れているのよ、お願い」
「抱きつかなくても転移はできるよ」
それからグレーニャ・ハルは、秘書にネメジス関係で新しい情報が入ったから出かけてくると言い、これまでの情報をまとめておくよう指示した。
かくして、俺とグレーニャ・ハルは、クルフの待つ貸し倉庫へと移動した。細身のゴーレムが機械端末を操作していて、中央に机とソファーが置かれていた。
クルフは立ち上がった。
「ようこそ、団長。それとグレーニャ・ハル」
彼は、制服姿のグレーニャ・ハルを足先から襟元まで見た。
「君の軍服姿、珍しいな」
「似合っていないかしら?」
「いいや、大人の魅力がある」
お、ナンパか、クルフ君。俺は苦笑である。
「あなたに褒められてもうれしくはないのだわ。悪い気分ではないのだけれど」
相変わらず性根がねじ曲がったようなことをいうグレーニャ・ハルである。彼女はさっさと、クルフとは向かいのソファーに座った。
「さ、出向いてあげたのだから、私を疲れさせるくらいの情報、もらえるんでしょうね?」
「それは自分で判断したまえ」
クルフも席につき、俺はグレーニャ・ハルの隣に座った。クルフは俺を見た。
「とりあえず、ノースパークに行ってみました。そこでネメジス軍と大艦隊と遭遇しました」
「大艦隊」
ゴーレムが大パネルを運んできて、それを映し出した。浮遊島――あれがノースパークだろう。ピザを複数積み重ねたような歪な形をしている。
そのところどころにある基地施設。魔人機らしき人型が数百と並んでいる。
さらに、ブァイナ貯蔵庫を運んだ例の円盤のような艦艇が多数飛行、そして交戦する映像が映し出された。
「……なるほどね、これは艦隊だ」
ネメジス軍、その戦力はそこらの中小国の軍備を上回る。こんな奴らが、世界にも気づかれずにこんなに兵器を溜め込んでいたとは。
グレーニャ・ハルがため息をついた。
「まず、どこから突っ込めばいいのかしら?」
「どこからもでいいよ」
クルフは返した。ハルは尋ねた。
「まず、あのノースパークって何?」
「アポリト文明時代の私の領地だ」
「聞いたことないんだけど?」
「昔は別の名前だった。今の名前は私がつけ直した」
聞けば、かつては浮遊島として存在していたが、クルフが異空間に隔離していたらしい。大昔は拠点として使っていたが、ここ千年近くは放置していたという。
「――そうしたら、どこから入ったか、異空間内のノースパークを占領し、ネメジスは軍備を整えていた」
クルフは眉間に皺を寄せた。
「賊が人の倉庫を勝手に使っていたので、持ち主権限でぶん殴りにいってきた。そうしたら、あのザマですよ」
想定以上の大戦力。これだけのものが認知されずに存在しているというのは、新たな脅威と言える。
「同盟議会も大騒ぎになるだろうな」
「始末が悪いのは――」
ゴーレムが給仕したコーヒーを口にし、グレーニャ・ハルは一息置いた。
「ネメジスの一部隊は、シーパング本島でテロを起こした。地下世界では基地も襲っている。これだけの軍備を整えていた彼らは、こちらを『敵』と考えて行動している」
「同盟側が理解していなかっただけで、すでに戦争は始まっている、ということか」
俺が言えば、クルフは片方の眉を吊り上げた。
「これを戦争とするかは、微妙なところではありますね。為政者がどう判断するかです。地方の武力衝突、テロで済ませるのか、あるいは戦争と認定するのか」
「目的は、地底シェイプシフター制御装置の確保でしょう」
グレーニャ・ハルは眉をひそめた。
「それを何に使うというの? こうまで軍事力を整えてきたネメジスのこと。シーパング同盟との戦争、本気で考えているのではないのかしら?」
「まあ、平和利用しようとする連中が、ああも大戦力を整えているわけがないもんな」
俺はそう口にしたものの、しっくりこない。
それもこれもネメジスの目的が、まだはっきりわかっていないからだ。地底シェイプシフター制御装置を手に入れて、艦隊をそろえて戦争の準備? 誰と戦うの? 対立も辞さない覚悟でシーパング同盟に攻撃してきたけど、本当の目的は別だったりしない?
たとえば七年前の怪獣騒動みたいなのが近づいていて、その対策とか、あるいはアンバンサーとか……鉄星人がこの惑星テラに迫っていて、その防衛のための戦力を整えようとしているとかさ……。
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