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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第二部

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2020/2022

第2010話、強襲、ノースパーク


 クルフ・ラテースにとって、ジンから聞いた話はただただ怒りを呼び起こした。

 もちろん、通話の相手にその感情が読み取られないように注意を払ったが、あの人はあれで敏いので気づかれたかもしれない。

 だがそれも構わない。少なくとも、クルフとあの団長は敵対関係にはない。


 彼はネメジスなる秘密武装勢力の話をした。何か知っているかと聞かれたが、どこぞの地方の復讐の女神の名前だろうくらいしかクルフには心当たりがなかった。

 だがその女神の名を騙る不心得者が、人様の遺産を利用しているかもしれないと聞いては、部外者ではいられない。


 ノースパーク――クルフにとっては、アポリト文明時代から残っている領地。言ってみれば、アポリト浮遊島以外での、地上に拠点を置いた時の初めての家みたいなものであった。

 そしてあの土地を明け渡したつもりもないクルフである。

 彼は、自前の軍隊を引き連れて、不法侵入者どもを蹴散らしにいくことにした。


 自動戦艦『インペラートルⅢ』――軍隊といったところで、彼には人間の部下などいないので、自動制御のゴーレム軍ではあるが、『いざという時』のために密かに用意していた艦隊で、異空間にある『ノースパーク』へ乗り込んだのである。


『ショウメン、巨大構造物アリ』


 ゴーレム兵が報告し、司令官席――それを玉座と呼ぶほど大皇帝に執着していない――のクルフは戦術モニターを見上げた。


「……!」


 異空間という闇の中に浮かぶ浮遊島。円盤が連なったような大地。懐かしき故郷……のようなものノースパーク。


 数千年ぶりの帰郷である。

 しかしそこにはクルフの見覚えのない機械の建物。円盤型やその他艦艇、さらに無数の魔人機の姿があった。

 空き巣というのは性質が悪い――クルフは、ここ最近では珍しいほどの怒りの目を向ける。


 映画監督して、苛立ちや怒りとは無縁ではないが、それとは別種のものである。言うなれば、人を殺せる怒りである。


 留守にしていた家に帰ったら、妻が襲われた場面に遭遇したような、と言えば理解できるだろうか。しかも妻の変わり果てた姿を見たといえば、その怒りは地獄さえ薙ぎ払うものであった。


 クルフは、無力感や絶望に苛まれるタイプではない。やられたら数千倍にしてやり返す男であった。


「全艦、戦闘配置。突撃隊形に展開!」

『ゼンカン戦闘配置。トツゲキ隊形!』


 ゴーレム兵が復唱し、クルフ艦隊――全ゴーレム艦が旗艦に付き従った。

 ゴルドアⅡ級戦艦3、サヴァルⅡ級戦艦9、ファラガ級空母6、アラガン級クルーザー30、ファイリー級駆逐艦60――すべてそれ自体がゴーレムであるゴーレム艦が、一路ノースパークへ突き進んだ。


『航空隊、発艦準備ヨシ!』

『全艦艇、攻撃準備ヨシ!』


 ゴーレム兵の報告に、クルフはカッと目を開いた。


「発射!」


 旗艦『インペラートルⅢ』の50センチプラズマカノンが赤い光を放った。戦艦群の40センチプラズマカノン、巡洋艦の20センチプラズマ弾が、一斉にノースパークへと迫った。

 浮遊島の近くを航行していた哨戒艦や、円盤型クルーザーが突然の光弾の殺到に巻き込まれて吹き飛ぶ。


 さらにプラズマ弾は、ノースパークの機械部分に降り注ぎ、そこにあった施設や対空砲塔をハンマーで叩くがごとく潰す。

 激震。そして警報が鳴り響く中、ノースパークのネメジス軍は混乱に陥った。



  ・  ・  ・



 響き渡る警報に、ノースパーク中枢にいたネメジス総帥、グーウェンは通信端末のスイッチを押した。


「何事か?」

『閣下、敵襲です!』


 それはわかっている――ここにはいない相手に冷徹な目を向けるグーウェン。知りたいのは、どこの誰がやってきたか、である。

 敵対勢力で考えれば、シーパング同盟軍か。それ以外に我らネメジスを攻撃してくる勢力などいない。……裏切りは別としても。

 しかし、いったいどうしてここがわかったのだろうか。


『敵艦隊は、旧・真・大帝国艦艇で構成されています』


 壁のパネルが映像を映し出す。快速の小型艦が、航空機と共にノースパークのすぐ上に滑り込んでいて攻撃を仕掛けてくる。

 その横で識別データが表示され、大陸戦争――かのディグラートル大皇帝が戦争終盤に投入した真・大帝国軍の軍艦が並んだ。


「あの国には、今はこの艦型は存在しないはずだが……」


 グーウェンは呟く。あの戦争の終焉により、大帝国だった国は軍備を大幅に制限され、あるとしても前時代的な旧式か、シーパング同盟軍の型落ちのはずである。

 あの忌まわしき大皇帝の軍隊が、現代にまで存在しているわけがなかった。

 わからないことしかない。


『閣下』

「全力で迎撃せよ。それと演習中の打撃艦隊をただちに呼び戻せ」

『はっ! 承知致しました』


 通信は切れる。グーウェンは席に腰を下ろした。


「いったい何者だ……」


 脳裏に、あの暴虐の大皇帝クルフ・ディグラートルの姿がちらついた。あの男は大陸戦争で戦死しているからあり得ない。

 だがあの大皇帝には、不死身という噂がついてまわっていた。あれから17年、さすがに不死ではなかったという向きもあるが、もしかしたら……!


 嫌な予感がするグーウェンだった。

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