第2009話、武装組織から軍へ
バローグは自らの一部を分裂させると、ノースパークの調査に動いた。
学校襲撃作戦において、オリジナルは死に、シェイプシフターに喰われたことで現在、シェイプシフターの潜入工作員として、敵地に潜り込んでいるのである。
「バローグ」
「グーワィ様」
直属の上司であるグーワィがやってきて、素知らぬ顔で向き合う。
「これからの予定は?」
「シーパング同盟との戦争に備え、しばらくはその準備だな」
「戦争、ですか」
「そういえば、貴様たちには言っていなかったな」
グーワィは移動しながらついてくるように言った。
「貴様は、大帝国人だったな?」
「はい」
バローグ――シェイプシフターは喰らった者の記憶を呼び起こす。
「父も兄も、先の大陸大戦で戦死しました。相手は同盟軍です」
「皇帝親衛隊員、だったな」
「はい。おかげで戦後は国から追放されたようなものです」
その頃のバローグの記憶は、肩身の狭いもので大帝国の新政府と手の平を返した帝国民への憎悪が見え隠れしている。
「では、シーパング同盟との本格的な戦いにも参加するな?」
「戦争ということは、武装集団から格上げですか?」
バローグが確認すれば、グーワィは口元を笑みの形に緩めた。
「そうだ。ネメジスは、武装組織から軍に昇格する。特殊部隊という我々の立ち位置はさほど変わらずだがな」
これまでの行動は、全てシーパング同盟との戦争のための準備であった。
「貴様は軍になると聞いて賛同できるか?」
「シーパング同盟と戦う……」
元のバローグなら何と答えるのか――決まっている。
「願ってもないことです」
同盟に対して復讐の機会が来るのを待っていた。ただ待つだけでなく、自分から何かできないかと武装組織に参加した。軍隊らしく、しかし所詮は抵抗組織であったが、その中にいることは嫌いではなかった。
「そう言ってくれてホッとしている」
グーワィは親しみのこもった笑みを向けた。何だかんだ寄せ集めの強い部隊だったが、彼なりに自分の部下たちにはよい感情を抱いていたのだろう。
「正規の書類は後日だが、貴様の階級は大尉だ」
割と高い階級だ――士官の上位。これより上は佐官となる。グーワィグループの幹部としては、それくらいの待遇で迎えられるということだろう。
「グーワィ様は?」
「私は中佐だよ」
グーワィは答えた。
「残っている部下たちを集めてくれ。これからのことを説明しなくてはならない」
「わかりました」
バローグ――シェイプシフターは指示に従う。位置情報の通報はすでに用意させているが、それ以上に事態が大きく動いた。
可及的速やかに、通報しなくてはならない。
・ ・ ・
連絡がないというのは、嫌なものだ。
ネメジスが持ち去ったブァイナ金属製貯蔵庫に発信装置。さらに構成員に成りすました諜報員。ついでにグーワィが後生大事にしているリンちゃんの制服の上着も、位置情報を発信できるのだが、いずれも反応なし。
これをどう解釈するか? これら全部が、敵に潰された? いや、それはないな。おそらく発信が届かない特殊な空間にいると考えるべきだろう。
それか、何らかの事情があって、発信を控え、機会を窺っているか。たとえば敵の監視が厳しく、隙がないとかな。
まったく、どうして途絶えているのか、その原因がわかれば、まだ対処のしようもあるのだが――
『あー、もしもし、団長、聞いてます?』
電話の向こうから聞こえるのはクルフ・ラテースの声。ただいま俺は職場で、事務作業をしていた。
いや、その休憩時間に、友人と電話だ。
「すまん、聞いてなかった」
『そうですか。なら言います。取材旅行という形で休みがとれたので、延期していたブァイナ金属採集に行きましょう』
映画監督様は多忙らしい。前に子供たちと約束したそれも、キャンセルせざるを得ず、予定が定まっていなかったんだよね。
冒険者としての指名依頼と期待しまくっていた14歳組の、とくにジュワンの落胆っぷりといったらまあ……。遊園地の約束をすっぽかされる子供の気分ってやつだろうな。
「それは子供たちも連れていっていいのか?」
『もちろんですよ。その節は、本当に申し訳ないことをしました。あの子たちにも埋め合わせをしないと』
クルフはそんなことを言った。人として、まともな感性がまだ残っているんだなぁ。これで世界を滅ぼそうなんて考えていたんだぜ、十七年前はさ。
『それで、そちらの都合の方はよろしいでしょうか?』
相手の都合も確認する社会人の鑑。かつての独裁者にもそういう配慮ができたのか、という偏見。人間関係というものについては独裁者であろうが、一顧だにしないということもあるまい。……まあ、ここ十何年は普通に社会人をやっているから、自然にこうでないとやっていけなかったのだろうけど。
「週末なら、子供たちも自由だからね」
俺はここのところネメジス関係で忙しい、というか予定が立てようがないんだけど、手が離せなければ分身を使うから問題ない。ブッキング? なにそれおいしいの?
『そうだろうと思って、週末に予定を当ててあります』
ぬかりがないな、クルフ君。そんなこんなで約束を交わして、お電話終了……の前に。
「そうだ、クルフ君。ちょっと……君、ノースパークって知ってる?」
物知りな元大皇帝様、聞きおぼえがあったりするかな?
『ノースパーク……』
クルフは少し考えるように黙った。何か、心当たりがある?
『その、ノースパークで何かありましたか?』
彼は尋ねてきた。
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