第2008話、野望者の集い
ノースパーク。そこは漆黒の空間に浮かぶ島のようであった。
複数の皿が半分ずつ重なるように配置されたその岩の大地。その皿状の一枚、その地面に戦艦級円盤『トゥーアン』が着陸した。
トゥーアン号もまた大型なのだが、それが小さく見えるほど、皿状の足場は巨大であり、ノースパーク全体の大きさを物語る。
「バローグ、貯蔵庫を見張れ。回収の者たちが来るまでな」
グーワィが部下に告げると、隊の幹部であるバローグは頷いた。
「承知しました」
後を任せて、到着した『トゥーアン』から降りるグーワィ。すでに彼を迎えにきた魔力自動車が待っていた。
「お待ちしてしておりました、グーワィ様」
「総帥がお待ちです」
うむ、と頷き、グーワィは後ろに乗り込む。ノースパーク内の道を進むことしばし、中央司令塔に到着し、そこで降車。案内役の兵と共に司令塔内へ。
緑の内装。無機的な黒と緑のコントラスト。行き交うネメジス構成員らを尻目にさらに奥、上の階を目指す。
やがて総帥専用の展望台兼指令室に辿り着いた。
「入るがよい」
鷹揚に言ったのはネメジス総帥、グーウェンだった。長身の男である。銀色の髪をオールバックにしたその男は、冷めた顔立ちで、黙っていれば自然と相手を緊張させる雰囲気の持ち主である。
「戻ったか、グーワィ」
「閣下」
グーワィは一度頭を下げた。グーウェンは席についたまま、じっとグーワィを見据えた。
「報告を」
すでにあらましを知っているが、それでもグーワィの口から直接の説明を求めた。
「貯蔵庫の解錠を試みた作戦は失敗致しました」
「……」
「シーパング軍の反撃を受け、部隊は壊滅。拠点マーリンは放棄、撤収。貯蔵庫は何とか持ち帰りましたが、成果は何一つありません」
総帥も速報は受けている――グーワィはそれを察しているので、嘘、偽りもなく、事実を説明した。
グーウェンは表情一つ変えずに言った。
「何の成果もなく、か。ブァイナ金属に手間取るものだな」
「はい」
何せ扱える者がほとんどいない代物だ。アポリト魔法文明時代のものを再現したのはジン・アミウールだが、それ以外にあの金属の扱い方について世に出ていない。
「まあいい」
グーウェンは席を回した。
「地底人の遺産は、こちらにある。それだけで、よしとしよう」
使えずとも、確保し続けている限り、敵――シーパング同盟もこの地底シェイプシフター装置は使えない。彼らがそれを兵器として活用し、ネメジスに対抗できないというだけで、一つの攻撃手段を潰したことになる。
「シーパング同盟も、我々の存在に気づいたな」
「はい。マーリンが落とされた時点で、遅かれ早かれ、我々の元に手が伸びるでしょう」
グーワィは首肯した。グーウェンは立ち上がる。
「では……。いよいよ世界を動かす時がきたのだな。――ゲストが集まっている。貴様も来るといい」
「はっ、お供します」
父上――その言葉を呑み込むグーワィであった。
・ ・ ・
会議室のテーブルにはゲストたちがついていた。
「よう、総帥。先にやらせてもらっている」
そう言ったのは灰色髪の若者――ヴァラン国の第三王子リェート・ヴァイナーは、杯を掲げてみせた。
その反対側では、赤毛で巨漢の人物が、同じく杯で酒を呷っていた。ネオ・ナチャーロ、真・武闘派ルカー・ストラーフという。
「お待たせした」
グーウェンは自身の席に着席した。その後ろには配下としてグーワィが控える。
「今宵は、よくぞ参られた」
「なに、オレ様の軍隊を受け取りにきただけだよ、総帥」
ニヤリとするリェート。ルカーもまた杯を置くと頷いた。
「そういうことだ。我々がそれぞれ好き勝手をやるための、な」
それぞれの野心のために。見るからに暴力的なルカー。そしてふてぶてしい態度のリェート。
それを冷ややかに見やるグーウェン。
「心配は無用。必ずや満足してもらえると自負している」
「頼むよ、総帥。でないと、シーパングと戦争できないんだからな」
リェートはくっくっと笑う。何とも品のない男だ、と控えていたグーワィは思う。これで一国の王子というのだから呆れる。
「確認だが――」
ルカーは、杯に注ぐのが面倒になったか瓶の口から直接飲んだ。
「軍隊をもらった後のことだが、いつ始める? それぞれ勝手に動いて、各個に叩かれても面白くない」
「そうそう、貧乏くじを引くのは、誰だって嫌だもんな」
ヴァラン国の第三王子は、視線をルカーに向け、そしてグーウェンで止まった。
「おれとしては、そちらと違ってちょっとタイミングを図らないといけないから、即行動できるそちらさん方のようにはいかん。みんな揃ってヨーイ、ドンなら、悪いがこっちに合わせてくれると助かる」
「それはどれくらい先の話になる?」
ルカーは尋ねた。そうだな、とリェートは少し考える。
「うちの爺様が間もなく天寿を全うする。それから数日で、オレ様がヴァランを掌握するから、まあ、最短一カ月以内ってとこか」
「充分だ。戦争には準備がいる。こちらも支度を進める。……で、総帥さんよ。おたくらもシーパングと戦うのだろう」
「左様。こちらも、そのように準備を進めよう」
グーウェンは頷いた。切り札になり得た地底シェイプシフター制御装置は手中にできなかったが仕方がないと諦めもついた。
「では、我らの世のために」
「我らの世のために」
三人はそれぞれの野望のため、共通の敵であるシーパング同盟との戦いを決意した。ここまでは引き返すことができた。
だが今、この時、矢が放たれることが確定したのであった。
累計45万部突破! 英雄魔術師はのんびり暮らしたい@コミック、1~14巻(12巻以降は電子書籍版のみ)発売中! コロナEX、ニコニコ静画でも連載中!
オーディオブック1巻配信中です。どうぞよろしくです!




