第2007話、待つのも重要
円盤の反応が消えて24時間。その間、追跡装置は働かなかった。
「つまりは」
ベルさんが指をクルクル回した。
「見失った。追跡を振り切られた、ってことか?」
「現状のまま、発信がなければそうなるな」
俺は真顔で返した。戦艦『バルムンク』は待機を続けているが、俺とベルさんは、シーパング情報局本部にいた。
局長室で俺たちはグレーニャ・ハルと顔を合わせている。
「連中は相当、自分たちの居所がバレるのを警戒している」
潜り込んでいるこちらの工作員も、安易に追跡装置を作動させられないのかもしれない。敵の警戒を掻い潜り、位置情報を送信するのも難しいのだ。
自動的にビーコンを発するタイプは、逆に敵に探知されて取り除かれる。だから敵がスキャンしている間は、こちらも黙して何もしないのである。
「秘密にしていた都市遺跡の拠点も、連中からしたらあっさりバレたって思っているだろうからなぁ」
ベルさんが席を回す。
「そりゃあ神経を尖らせるわな」
「これまで見つからずに隠れていたのだもの」
グレーニャ・ハルは手を振った。
「隠れることに関しては、かなり気をつかってるはず。それがいきなり拠点一つバレたわけだから、警戒もするでしょうよ」
マーリンとかいう拠点な。鳥の名前なんだろうけど、マーリンというと魔術師の方を連想してしまうな。それは置いておいて。
「大型の円盤を保有していたのがこれまでバレなかった連中だ。その円盤があれだけなのか、まだ複数あるのかで、今後の対応も変わってくる」
俺は、グレーニャ・ハルを見た。
「捕まえたグーワィの部下たちから、何か有益な情報は?」
「いくつか拠点を持っているみたいよ。細々としたところでね」
情報局局長は答えた。
「そのうちのいくつかは、情報局の直轄部隊で潰せそうな小規模なものね。末端の兵たちの記憶や引き出した証言からだけど」
「敵の本拠地については?」
ベルさんが直球を放った。
「一人くらい、知ってる奴はいなかったのか?」
「ノースパーク」
グレーニャ・ハルは答えた。
「全容を知らない者が多かったけれど、どうやらそこがネメジスの秘密の大拠点みたい」
「ノースパーク……。北か?」
「ノー・スパークじゃね?」
ベルさん、そういうのはいいからさ。……で、どうなの?
「供述によると、結構な人数がノースパークに行ったことがあるみたいね」
「ほう、じゃあ場所も特定できたのかい」
手渡されたまとめ資料をとるベルさん。グレーニャ・ハルは肩をすくめる。
「それがそう上手くいかなかった。下っ端になればなるほど、連れてこられたという感じで、行き方、いえどう行けばそこにつくか知らないのよ」
「どういうことだ?」
「転移魔法陣で、移動しているのよ」
グレーニャ・ハルは簡潔に答えた。……わお、資料見なくてもよさそうな回答。
「だから位置については、わからないのよ。どこにノースパークがあるか、捕虜たちは知らない。うっすらとわかるのは、地下っぽいということくらいかしらね」
「地下世界か?」
サウス・カラビナス基地も地下世界にあったが、ネメジスの本拠地も地下世界にあるのか。
「それが、地下世界とは違うみたいなのよ。捕虜の証言では、周りが暗闇に包まれた場所にあって、ノースパークという拠点以外、何も見えないって」
つまり、周りの景色や地形で位置を割り出すのも不可能に近いということだ。さらに地下世界は人工の光源で、地下ながら昼夜がある。真っ暗闇の空間という証言とは明らかに異なる環境だ。
地下世界より地上に近い、本当に地下空洞みたいな場所にノースパークがあるのか。あるいは……。
「もしかして、宇宙だったり?」
鉄星人のものらしい大型円盤を使っているネメジスだ。もしかしたらこの惑星のどこかではなく、ノースパークは宇宙に浮かんでいる可能性もないだろうか。
「少なくとも、惑星テラと月との間までに、そういった不審な基地になりそうなものはないはずだけれど」
グレーニャ・ハルは首をかたむけた。
「完全遮蔽で隠れているなら、これまで見つけられなかったもの道理よね」
「追跡装置の走査範囲を、宇宙にまで広げる必要があるかもな」
転移――ワープ的なもので惑星外に移動しているのかも。
「何にせよ――」
グレーニャ・ハルが自身の髪を鬱陶しげに払った。
「潜入工作員からの発信を待つのが今のところ一番早いかもしれないのだわ。引き続き捕虜の尋問は続けているけれどね」
「大丈夫なのか、そのスパイは?」
ベルさんが鼻をならした。
「見つかってバラされたから、追跡装置が働いていないんじゃね?」
「シェイプシフターの潜入工作員をなめないほうがいいわよ、ベルさん」
くすりとグレーニャ・ハルは笑った。
「彼らの潜入、擬態技術としぶとさは、天下一品なんだから」
「それはそうなんだがね。……どうよ、ジン?」
ベルさんが俺に振ってきた。うん俺か?
「シェイプシフターの工作員の実力は疑っていないよ」
かつての大陸戦争でもその後も、シェイプシフター諜報部の手足となった彼らの情報収集能力は大きな助けとなった。
「一つ気がかりがあるとすれば、追跡装置は働いているけど、それが敵の遮蔽で阻まれているとかって場合だけどな」
もしそうだと、いつまで経っても追跡装置が意味をなさなくなる。
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