第2006話、ニーゴの見上げる空
今日は休校だ。リン・アミウールは家にいて、休日を過ごしている。
本当なら今の時間は学校にいて、授業を受けている時間なのに……。正規に学校が休みになったので、何も後ろめたいことはないはずなのだが、落ち着かない。
予め休みの日であれば、予定を立てて楽しむこともできただろうが、学校行くつもりのところに前日になって急に休みですと言われると感情が追いつかないのだ。
「ねえ、レオナ、どう思う?」
「んー、なに、リン姉」
絶賛抱き癖を発揮して、リンに抱きついている三女レオナである。ちょっと重い、暑い、うざいとリンは感じる。いつものことではあるが。
「あんた、せっかくの休みにあたしに抱きついていていいわけ?」
「えー、いいじゃん。やることないんだもの」
「勉強」
「リン姉だってしてないじゃん」
レオナはリンの肩に乗せて、長女が見ている本――宇宙船関係のそれを見た。レオナにはよくわからないジャンルだった。
「姉さんも好きねぇ、そういうの」
「ファッション雑誌のほうがよかった?」
リンが本に目を落としたまま淡々というと、レオナはクスリと笑った。
「似合わない。世の男の子は姉さんのそういうところを想像しているかもだけど、わたしたち姉妹に言わせれば、ちょー似合わねえ」
「あんたはあたしを何だと思っているんだ」
「姉さんですけど、他に何が?」
しれっというレオナ。リンは首を傾ける。絡んでいるレオナの腕が邪魔である。
「あんたは似合いそうね、ファッション雑誌読んでるとこ」
「そうかな。わたしはもっと硬派なイメージだけど」
「時々ギャルっぽいって思う」
「そうかなぁ」
レオナは半信半疑な声を出した。
「ああ、でもやたら明るいと思われている節はある」
「ベタベタ絡んでくるからじゃないのー」
割と適当なリンである。
「リュミも、ファッション雑誌読んでるイメージないな」
次女のリュミエールは読書家だが、普通に小説やら辞典などを読んでいる印象。レオナは笑う。
「それはリン姉のイメージだよ。リュミ姉は割とマンガとかファッション雑誌も読んでるわよ」
「本当?」
疑わしい――リンは疑惑の顔である。
「リン姉はどう思っているか知らないけど、うちのファッションリーダーはリュミ姉だよ」
「うそだぁ」
「本当だってば!」
ルマもジュイエも、ジャルジー王の娘カリーンも、リュミエールの美しさには羨望すら抱いている。
「じゃあ、リン姉。うちで誰が一番ファッション、イケてると思うの?」
うーん……そう言われると、考えてしまうリンである。自分はそこまでではないという自覚はある。――周囲の評価ではリンも充分イケメン女、美人さんで通っているがそこまでの自覚はない。
四女以下は、まだお子様だし、そのルマとジュイエはまだ背伸び感がひどい。
と考えたところで、ふとニーゴの姿が脳裏をよぎった。男子の時も割と整っていたが、女子の時など神秘的ですらあった。
「……リン姉?」
黙り込んでしまったリンにレオナはさらに抱きつく。ええい、鬱陶しい――そろそろ振り払おうかと考えるリンである。
「ニーゴじゃない、やっぱり」
「……なんでそこでニーゴさんが出てくるんですかねぇ」
レオナは口を尖らせた。
「いつからあの人、うちの姉妹になった?」
「うちにいる誰が一番か、って思ったんだけど?」
いまニーゴは居候をしているので、『うち』の中に入るのではないか。
「屁理屈だよ、そんなの」
「屁なんてこいてないわよ」
ポンポンと、リンはレオナの腕を軽く叩いた。立ち上がるよ、という合図だ。座った状態で後ろから抱きつかれている格好なので、離してくれないと立てないのである。
部屋のベランダに出るリン。レオナもついてきて、また抱きついてきた。ひどい構ってちゃんである。
「あ、噂をすれば」
レオナはベランダから庭を見下ろす。リンも見た。そこにはニーゴがいた。銀髪美少女がひとり、庭で日の光を浴びている。
ここではないどこか遠くを見ているような彼女の姿は、どこか儚げで、次の瞬間壊れてしまいそうな繊細さを感じさせた。ふいた風が、彼女の長い髪をきらめかせて、より美しさを引き立てる。
「……なんていうかさ、銀髪ロングって、綺麗過ぎない?」
「いきなり何を言い出すかと思えば」
レオナは目を細める。
「でもわかる。リュミ姉もそうだもんね」
画になるといえばニーゴもそうだが、リュミエールもきっとそう。リンとレオナの意見は一致した。
「で、あれは何をしているのかな?」
遠くを見つめるニーゴ。視線の先をたどっても、ただ空があるばかりで何も見えない。
「何か見えるのかな?」
「見えないけどあ」
遠距離視力の魔法で補助をしたが、やはり何もなかった。雲が流れていく。
「宇宙が見える、とか?」
「故郷の星を探しているとか?」
色々言ってはみたものの、二人には結局わからない。ニーゴ本人に聞かないことには。
リンとレオナはしばらく、上から庭にいるニーゴを見続ける。ここまでくると向こうが気づくか立ち去るか、こちらが飽きて引くかしかなかった。
「自分から声をかけないの?」
レオナは言ったが、リンは返した。
「気づかれるまで見守る」
「ふーん……」
気のない様子でリンに抱きついたままのレオナである。リンは黙って、ニーゴを見ていたが彼女を見続けることは苦ではなかった。美しいものは見飽きないのだ。
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