第2004話、トゥーアン号
巨大円盤からすれば、ブァイナ金属でできた貯蔵庫など余裕で収まるほど小さい。
見上げるグーワィは、畏敬の念と共に頭上の円盤を見上げた。
「ようやく来たか」
時間より早く到着したのだが、ジン・アミウールが迫っている可能性を考えると、一秒でも早く味方拠点まで帰りたい気分だった。
都市遺跡マーリンをどう英雄魔術師とシーパング同盟軍が知ったか、その答えは出ていない。だが、プレッシャーから逃れたいという気持ちに偽りはなかった。
「撤収!」
敵の追撃に備えて警戒していた兵たちを集結させる。即席の防御陣地――地面に軽く掘った溝程度だが――を引き払い、円盤の真下、中央へと。
バローグがグーワィのもとへ来た。
「じき撤収できますが、殿軍を待ちますか?」
「いや、今ここにいる者たちだけ先に撤収させる」
グーワィは、貯蔵庫を見やる。
「あれの回収が最優先だ。遅れている者は、別便で回収させる」
「はっ。……副官は残念でした」
ネーヴェのことか――グーワィは軽く頭を振った。
「私の脱出の時間を稼いでくれたのだ。無駄死にではない」
自身に言い聞かせるような言葉だった。バローグが首肯した時、頭上の円盤が光った。
「転送装置、動きます」
「うむ」
グーワィとバローグ、そして兵たちはじっと上を見やる。降りかかる光が、貯蔵庫とその周りに集まったネメジス兵を円盤へと上げた。
数秒後、貯蔵庫と兵たちは円盤内の貨物区画に移動していた。
「バローグ、兵たちをまとめろ。その後、交代で休憩をとらせる」
「承知いたしました」
部下に任せ、グーワィは船内を行く。甲板士官が敬礼してきた。
「船長に挨拶したい。ブリッジか?」
「はい。こちらへ――」
案内する士官に、グーワィは続く。緑色がかった船内通路。ピカピカに輝く床や壁面。金属音を響かせながら進み、エレベーターに乗ると、そのままブリッジデッキへ上がる。そこから少し歩き、ブリッジへと到着する。
「グーワィ様、参られました」
甲板士官が報告すると、キャプテン・シートが回転し、ネメジス軍軍服を纏う青年――グーワィに似た顔が酷薄にも見える笑みを浮かべた。
「ずいぶんと手間取るものだねぇ、グーワィ君」
「ウーグィ君、お迎えご苦労」
ややぶっきらぼうにグーワィは、このよく似た男に返した。
「どういたしまして。命令だからね、仕方ないね」
「相手は、あのジン・アミウールだ。酷い目にあった」
「それはそれは」
戦艦級円盤『トゥーアン』の船長であるウーグィは、肩をすくめた。
「それは難儀だったねぇ」
「できれば接触したくなかったが、アレを開けるためには仕方がなかった」
「で、開けれたの? アレ」
たっぷり皮肉っぽくウーグィは尋ねた。グーワィは腕を組む。
「あと一歩というところで阻まれた」
リン・アミウール。ブァイナ金属の扱い方を知っている彼女が自爆さえしなければ、あの封印めいた貯蔵庫を開けられたものを。
それを思い出すと、胸が苦しくなるグーワィである。目の前で少女が爆散するさまが、トラウマのように脳裏にこびりついている。
「つまり、成果はあがっていない、ということかな?」
「総括すればそうなる」
グーワィは認めた。
「作戦実行前と何も変わっていない。兵員を失ったことと、マーリンの喪失を考えればむしろより悪くなっている」
「フムン、それは、うん」
黙り込むウーグィ。その報告は上層部は喜ばないだろう。グーワィは続ける。
「何とか解決策を見いださないといけない。今回の件でシーパング同盟は、完全に我々に目をつけた」
こちらがちょっと手を出したら、一気に噛みついてきた。伸ばした腕を噛み千切る勢いで、逆襲を仕掛けてきた。
「一度火がついたら、あっという間だった。おそらく、前々から我々のことを嗅ぎ回っていたのだろう」
あまりに追跡、逆襲までが早かった。ウーグィは皮肉げな顔になる。
「まあ、向こうさんからしたら、地底シェイプシフターの制御装置を盗まれているわけだから、そりゃ必死に探していただろうね」
手がかり一つで一気に、というのは、それだけ同盟軍の中でも最優先ターゲットであったということだ。
「彼らも平和ボケをしていたわけではないということだ」
「そりゃあ、大陸戦争なんて血なまぐさいトラウマを持っているんだ。刺激されれば即反応するさ」
そこでウーグィは真面目ぶると、クルーらに指示を出す。
「索敵、警戒しろよ。接近してくる物体は、どんなものでも見逃すな」
「この船は大丈夫なのか?」
グーワィが尋ねると、ウーグィはニヤリとした。
「こちらは完全遮蔽で姿を消した。敵さんの索敵機器もこちらは見えない。問題ないさ」
「……」
「疑うのか? 我らの技術を」
「いや、これまでそれで見つからずにいたのだ。問題はないだろう」
そういうグーワィだが、不安は隠せなかった。その横顔に、ウーグィは苦笑するのである。相当、ジン・アミウールにトラウマを植え付けられたらしい。
戦艦級円盤『トゥーアン』は、移動時、姿を消して飛行している。間違っても、シーパング同盟軍に追跡されるわけにもいかないのだ。
「ところで、グーワィ。貯蔵庫のほうは大丈夫なんだろうな?」
「というと?」
「発信機なんか仕込まれていないよな? いくらこっちが完全遮蔽でも、それでバレたら、叱責どころじゃ済まないぞ」
「問題ない。が、確認させよう」
グーワィは頷いた。
「念には念を入れねばな」
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