第2001話、魔術師
ジン・アミウールは、対魔法防御弾を装填していた銃を隠し持っているのを見破った。
グーワィは魔石拳銃で、無駄に見える攻撃で牽制しつつ、英雄魔術師の隙を窺い、必殺の一撃を放った。
魔法防御を貫通し、ジンに命中したかに見えたが、まるで砂で出来ていたかのように、パッと飛散した。
それで察した。今のは魔法で作った幻、あるいは分身だ。魔力を解体する弾は、魔力でできたそれを解除したのだ。
「いいコンビネーションだった」
ジン・アミウールは、グーワィの背後に瞬間移動した。身長で見れば、彼は数センチ高かった。しかしそこから感じるプレッシャーは、体格以上の差で押しつけてきた。
「効かない攻撃をしつこく続けたんだ。考えるまでもなく、何かの伏線だろうと予測はつく」
読まれていた。英雄魔術師と言われるだけあって、歴戦の戦士として経験と勘は圧倒的であった。
だが――
「自ら近づいてくるとは――!」
グーワィは振り向き様に魔石拳銃を投げつけた。至近距離からの投擲。投げてコンマ数秒という回避する間もない攻撃は、ジン・アミウールの防御魔法の前に簡単に弾かれた。
「近接戦の対策をしていないと思ったか?」
ジン・アミウールは冷ややかに告げた。
「魔術師は至近距離に踏み込めば弱い……そう思っているのかな?」
ある一面としては正解だ。大抵の魔術師は呪文を唱えるため、その間の詠唱潰しによって手が封じられ、踏み込んだ近接攻撃系の戦士にやられてしまう。そうなる前に仕留めるのが魔術師の戦い方である。
だが詠唱を必要としない魔術師。思考から瞬時に魔法を行使できる者からすれば、詠唱の間を作らせない速攻は、ある程度有効ではあるが弱点となるほどではない。
「油断していればいいさ」
グーワィは開いた手でナイフを抜いた。それで突けば、防御魔法に干渉し、そして破った。
「マジックブレイカーか。ちゃんとその効果を有効活用した者を見たのは初めてかもしれない」
ジン・アミウールはさほど驚かなかった。ご自慢の防御魔法を破られて、驚くのを期待したグーワィだったが、攻撃を続けた。何枚防御を展開しようとも魔法であれば、マジックブレイカーで貫ける!
心臓を一突き――グーワィの手は、素早く割り込んだジン・アミウールの手に掴まれた。魔法ではない。
「!?」
「魔術師が、近接格闘をできないとでも思ったか?」
グーワィがわずかに目を見開いたのをジン・アミウールは見逃さなかった。勢いを利用されて、引っ張られたグーワィの体は次の瞬間、投げ飛ばされていた。
背中からしたたかに打ち付け、グーワィは呻く。世界が反転した。見下ろしてくるジン・アミウールの目は、一切の感情が読み取れなかった。
世の中に深淵があるならば、この英雄魔術師の目こそそれではないか。底知れない不安と、どこまでも深い闇に触れた気がして、グーワィは一瞬言葉を失った。
「何故、俺がお前を殺さないかわかるか?」
ジン・アミウールは言った。
何故――その問いに、グーワィは瞬時に答えに行き着く。
「おれを捕虜にしようというのだろう……?」
組織のリーダー、もしくは幹部と見て、情報を得るために生け捕りにするつもりなのだ。ネメジスの情報を、ジン・アミウールやシーパング同盟に渡すわけにはいかない。
「ふん、おれから何を聞き出そうというんだ?」
グーワィは挑発する。
「お前の娘が死んだことを教えてほしいのか?」
人質としても使えたアミウールの娘。長女であるリン・アミウールが爆死した瞬間を、グーワィは目の当たりにしている。
少し喋っただけの関係ではあるが、彼女の爆発はグーワィの心をかき乱した。より付き合いの深いだろうジン・アミウールは、父として娘の死を知り、どんな顔をするか……。
「それで?」
ジンは、そっけない。
「それは最初から知っている。いまさらお前に教えてもらうまでもない」
知っている?――その言葉は、グーワィには衝撃だった。娘のことを何とも思っていないのか?
リンと話して、親子仲は良好に見えた。しかし今ここにいるジン・アミウールは、娘の死に悲しむでも怒るでもなく、淡々と任務を果たしている男に見える。
子を殺された親となれば、怒りに使命も任務もなく、ひたすら報復に動くものではないのか? 捕虜をとれと言われても、すんなりとそれに従えるか? 怒りのまま、敵を殺しても自分の感情を優先させる。それが人間というものではないか。
戦場での英雄魔術師は、血も涙もなく、ひたすら役目を果たすことができるほど強靱なメンタルをしているというのだろうか。
それはかつての大戦で、命というものに心動かされることはなくなったのかもしれない。つまり、ジン・アミウールの心はすでにあの大陸戦争で死んでいたのではないか。
「他に言うことはないか?」
ジン・アミウールは冷淡だった。
いや、感情はある。もうすでに彼がキレた状態で、前線に現れたのかもしれない。そもそもシーパングの重鎮であり、身分も高い彼が、娘救出のためとはいえ最前線に出てこれるものか。
本来ここにジン・アミウールがいること自体がイレギュラーなのではないか。娘の死を知り、出張ってきたのではないか。
「ないか――」
ジン・アミウールがすっと手を挙げ――
「グーワィ様!」
副官のネーヴェが通路の奥から魔石拳銃を、ジン・アミウールの背中に撃ち込んだ。だが魔弾は彼に当たることなく、跳ね返り、ネーヴェを直撃した。
倒れる副官。英雄魔術師は、振り返ることもしなかった。
累計45万部突破! 英雄魔術師はのんびり暮らしたい@コミック、1~14巻(12巻以降は電子書籍版のみ)発売中! コロナEX、ニコニコ静画でも連載中!
オーディオブック1巻配信日は2026年7月27日。ご予約が始まりましたので、どうぞよろしくです!




