第2000話、ジンとグーワィ
その銃弾は、対魔法弾だった。
つまり、魔法の防御を無効化する攻撃だ。構成する魔力を消滅させる銃弾は、複数張られた防御魔法をそれぞれ喰うように穴を開けて抜けてきた。
「いやはや、大したものだ」
結果、その銃弾は俺の分身体の頭を撃ち抜いたわけだから。
「しっかりと魔術師対策しているんだな、ネメジスも」
俺は、分身体を狙撃した位置を瞬時に見て取ると、爆発魔法を撃ち込んだ。
バースト――!
ドォンっ、と屋敷の窓を含めた一角が吹き飛んだ。生命反応は……おっと、しっかり残っているね。
これは手強い奴だ。狙撃ができて、アンチ魔術師対策している奴など、腕利きしかいない。
放っておくと、要人暗殺などでキルスコアを稼ぐ奴だ。できるだけ叩ける時に叩いておくべき相手だろう。
・ ・ ・
「今の爆発は――」
グーワィは壁に体を叩きつけられた。一瞬、空気を吸い込むような音がしてて、とっさに危険を察知して後ろへ飛んだ。
次の瞬間、窓に敵の迫撃砲――いや、爆発系魔法が炸裂した。とっさに魔法防御の魔法具が働いたが、それでも衝撃は殺しきれなかった。
「ジン・アミウールを仕留めたというのに……」
危うく自分もやられるところだった。魔法無効の魔術を刻んだ特殊弾は、あの英雄魔術師を貫いた。通常弾だったなら、おそらく張られていただろう防御魔法を貫通できなかっただろう。
これも巡り合わせというものか。まさかあのジン・アミウールを殺害する男になれるとは――
マーリンを失うことになっても、多少の言い訳にはなるか。
グーワィが身を起こした時、破壊された窓のあった壁――遺跡都市が見えるようになったそこに、すっと人影が現れた。
浮遊か飛行の魔法だろう。地面から離れているそこに人が現れるなど、普通は考えにくい。
そしてそこにいたのは――グーワィは心臓を掴まれたような気分になった。
ジン・アミウール。
たった今、射殺した魔術師が、そこにいた。
――仕留められなかった!?
そんな馬鹿な。たしかに頭を撃ち抜いた。胴体ならば、防弾仕様の装備を身につけていてもおかしくはない。頭なのだ、頭。
しかも額から弾が入って後頭部に血と肉、脳漿をぶちまける様まで見たのだ。確実だ。一瞬のこととはいえ、見間違いではない。
つまり、死んだはずなのだ。生きているはずがないのだ。
だが、ジン・アミウールはいる。自分を撃ったスナイパーが誰か知っているという目で、グーワィを見つけた。
「――!」
焼け焦げた壁から無理矢理起き上がり、部屋を脱出しながらサイドアームで攻撃。魔石拳銃が、かの魔術師を狙うが防御魔法の壁に阻まれる。
「くそっ――」
とっさに身を屈ませる。何故そうしたか、グーワィにもわからなかった。天性の勘というべきか。
だがそれに従った結果、見えない刃を避けることができた。壁が切り裂かれ、崩れる。屈ませていなければ、グーワィの半身が真っ二つになっていたに違いない。
部屋を出たところで身を低くし、さらに発砲。ジン・アミウールは、爆発で開けた穴から部屋に入ってきた。その目が獲物を追う捕食者のそれだった。
次の瞬間、身の危険を感じて、グーワィは立ち上がり、逃げた。またもゴーっ、と空気を吸うような音がしたと思うと爆発した。先ほどまで隠れていた壁ごと火球が飲み込み、衝撃波が廊下のものをバタバタと動かした。グーワィもまた背中から押されて転倒した。
・ ・ ・
いい動きをするものだ。
俺は、分身体を撃った狙撃手を追って、屋敷の外側から部屋を覗き込んだが、他とは違うジャケットの男が逃げながら拳銃を撃ってきた。
先の爆発を切り抜けただけあって、よくもある。しかし魔石拳銃では、俺の複数の防御魔法を抜けることはできない。
斬撃の魔法で斬ってみたが、その男は身を屈ませて躱すと、部屋を出てさらに撃ってきた。
実に果敢な男だ。俺を見てもなお継戦の意思を持てるとは。
爆発魔法。壁を破壊し、俺はさらに追った。
通路に出る。爆発の煽りで吹き飛んだのだろう。倒れていた男は、すぐに俺に撃ってきた。よく訓練されている。
俺は防御魔法を頼りに、前進。攻撃を弾いて向かってくる敵は、さぞ恐ろしいだろう。……などと余裕ぶったことをせず、分身体を生成。
この手の敵がいつまでも効かない攻撃をただ繰り返すわけがない。きっと仕込みがある。こういった輩は、劣勢や逃走に見えて、勝機を辛抱強く窺い、必殺の間合いの瞬間を待っている。
男は階段まで後退しつつ、懐から別の拳銃を取り出すと、そいつを撃った。
きた――
防御魔法を貫通し、分身体が撃ち抜かれた瞬間、俺は転移した。
「油断したな、ジン・アミウール!」
その男は俺――分身体に言った。
「これは防御魔法を貫く対魔法弾だ。こちらの攻撃は効かないと高をくくった結果がこれだ!」
「そうだな。いいコンビネーションだった」
俺が彼の背後から声をかける。奴はビクリとして振り返った。
「効かない攻撃をしつこく続けたんだ。考えるまでもなく、何かの伏線だろうと予測はつく」
普通は攻撃が通らない武器をいつまでも振り回さないものだ。それでもつい使ってしまう人間もいるにはいる。パニックに陥って、それしか頭にない場合がそれだ。
だが彼はクレバーだった。混乱したり、追い詰められてはいても頭は働いていた。だから、まだ何か手を持っていると予想できたのだ。
というか、どこかで見たんだ、こういうパターン。
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