第1997話、迎撃する現場部隊
「敵襲だと!?」
グーワィは、彼にしては珍しく感情的に叫んだ。
目の前でリン・アミウール――シェイプシフターによる偽者だったのだが、彼がそれに気づいていない――が吹き飛ぶ光景を目の当たりにして、まだ動揺が収まらなかった。
あの娘のことを好きになりかけていた。子供は好きでも嫌いでもないが、ああいう娘であれば子供として悪くないと思っていた。自分がああした家庭に育った子と接する機会も境遇もなかったこともある。
だから、少々生意気ではあっても、理解力のある娘との会話は楽しんだ。内容は、とても普通の会話とは言えないのだが、自分が持てなかった家庭というものへの、秘めていた羨望があったのだろう。
そしてその可愛いと思った娘が、一切のためらいもなく自爆した時、グーワィは酷く動揺した。任務のためであれば命を容易に捨てられる。自分が子を作ることができたなら、あの子の歳まで育てていたなら、きっと同じように身を犠牲にすることを教え込み、そして実践できる子となっていただろう。
つまり、深く彼女に感情移入をしていたのだ。いもしない実の娘像を彼女に重ねてしまった。だからそう育てていただろう妄想の娘と同様の行動をさも自然にとったリン・アミウールに対して、生んでも育ててもないのにショックを受けてしまったのである。
「敵はシーパングか?」
「わかりませんが、おそらく――」
副官のネーヴェは、要領を得ないまでも背筋を伸ばしていた。
「黒ずくめの戦闘員が複数目撃されています。シーパング系列の特殊部隊と推測されます」
正体はわからない。だがネメジスに攻撃をかけてくる組織となると、直近ではシーパング本国の軍となろう。環境テロリストを偽装に、あの国で爆破テロ、学校襲撃などを行ったのだ。さらにアミウールの娘たちを誘拐し――リンの顔がちらつき、グーワィは顔をしかめた。
自分らしくない。ここまで人の死に動揺するなど!
「迎撃しろ。敵を殲滅せよ!」
ブァイナ金属製の貯蔵庫はまだ開けられていない。地底人の兵器を、まだ入手していないのだ。
兵たちが廃墟の都市へと駆けていく。交戦している場へ向かい、敵を討つために。
「どれくらいの敵が上陸してきたのか……」
まるでアミウールの子たちの自爆に合わせたような攻撃だった。静かに水が溢れてくるように、敵は都市遺跡に入り込んできた。
航空機や空中艦艇といったものは影も形もなく。なるほど特殊部隊が投入されたというのは、そういうところなのだろう。
上陸、奇襲についてこちらに察知されずに入り込み攻撃を仕掛ける。手口はわかるが、問題はやはり、数であろう。
こちらの戦力で対処が可能な戦力なのか。それが問題だ。
グーワィの中で考えが巡る。敵は十中八九、シーパング特殊部隊であろうが、目的はジン・アミウールの子供の奪回――いや、その子たちは自爆してしまった。あと少し早ければ、もしかすれば救えたかもしれないが。
彼らはそれを知らないとすれば、徹底交戦。そしてかの英雄魔術師も現れるに違いない。
そう考えた時、このマーリンで戦い続けることは果たして得策と言えるのか? 特殊部隊で手間取るようなら、同盟軍の増援が派遣されるのではないか。
いや、同盟軍は同盟各国が出動を認めねば動かない。いくら英雄とはいえ、ジン・アミウールの一存では動かないし、動かすにしても時間がかかるだろう。
だが彼には虐殺阻止集団という私設軍隊があったはずだ。それならどうだ? そうなってはこちらは多勢に無勢。人質救出に始まり、サウス・カラビナスから奪った貯蔵庫がここにあることを知れば、個人では渋っていた同盟軍も本格的な緊急出動もあり得る。
「時間をかければかけるほど、こちらが不利か」
その言葉が口から出る。情勢は極めて悪い。今はまた対抗できたとしても、時間と共に追い込まれていくのがこちらである。
結論、ここから速やかに撤退すべきだ。
遠くから銃声がする。先ほどまで静かだったが、いまではそこかしこで戦場音楽が奏でられている。
グーワィは視線を転じる。
ブァイナ金属製の貯蔵庫。この中身に用があるのに、その中身と対面はかなわない。個人で脱出は難しくないが、この貯蔵庫は別だ。
開けたくも開けられない。だが敵は迫っている。グーワィとその部隊が取れる選択は、本営に救援を求め、それまで死守するか、あるいは全滅する前に撤収するかである。
しかし後者は、貯蔵庫とその中身を捨てることになる。サウス・カラビナス襲撃、シーパング本国への潜入からのアポリト・ソフォス学校の攻撃。それまで払った犠牲が全て無に帰する。
そう、何の成果もなかったと本営に報告するしかなくなる。厳罰を覚悟せねばならない。最悪、組織に処分されることもあり得る。
かくなる上は、同盟軍基地から貯蔵庫ごと奪った時と同じ手を使う。そう、貯蔵庫を再び転移させて、この場から運び出すのだ。
「バローグ」
「はっ」
警備についている側近に告げる。
「貯蔵庫を運び出す準備をさせろ。敵の大群が迫っている可能性がある。これを奪回されるわけにはいかん」
「承知しました!」
バローグが、周りを固める部下たちに指示を出す。グーワィは場を離れる。副官のネーヴェがついてきた。
「どちらに?」
「本営に報告する」
どうするにしろ、お伺い立てる必要がある。地底人の遺産兵器を所望しているのは、ネメジスの上層部であり、グーワィらは現地の実行部隊に過ぎない。
本部屋敷につく頃には、だいぶ戦闘が近づいているようだった。銃声はすれど、今どき声をあげて戦うものでもないが、これはこれで戦場の規模を図るのを難しくさせた。
兵はよく戦っていると思いたいが、グーワィは不気味に感じるのであった。
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