第1996話、攻撃開始
都市遺跡を利用したネメジス拠点『マーリン』。そこで起きた二つの爆発は場を混乱させた。
事情を知らない警備の兵が、何者かの破壊工作を疑って警戒する。手隙の者たちが爆発によって引火したものの消火作業にかかる中、密かに忍び込む者たちの姿があった。
全身黒のライトアーマーを纏う特殊部隊――『SS』――ソニックセイバーズは、消音魔法付きハンドガンを手に駆ける。
物資の箱などを遮蔽に、素早く音もなく突っ切る女性型シェイプシフターたちは、ネメジス構成員を射殺していく。
音もなく衝撃を受けて倒れる構成員。撃ち殺した兵らを尻目に、次の障害物の間に滑り込むように移動すると、立ち止まることなく拠点内へ浸透していく。
見張り台にいたネメジス構成員は、港で倒れている味方を見て目を剥いて、慌てて望遠鏡で覗き込む。
敵か、それとも滑って転んだか――確かめようと見たその時、望遠鏡を覗く傍らで側頭部を強打する一撃を食らった。
何故、体が宙に浮いているのか。頭を下に落ちている理由がわからないまま見張り員は地面に叩きつけられて動かなくなった。
遺跡の高所に陣取ったソニックセイバーズ狙撃手が、監視要員を排除したのだ。彼女は次の獲物を定めると、銃口を通る弾を転移させる狙撃銃を撃ち込んだ。
不意打ちならば百発百中。無音で死を与える狙撃は、確実に敵の目を減らしていった。その下で、突撃要員たちは大胆かつ素早く、敵陣を切り込むのである。
・ ・ ・
「何とも鮮やかなもんだ」
ベルさんが高みの見物を洒落込む。制圧部隊と共に転移でやってきた俺も、都市遺跡の様子を眺める。
「セイバーズは、相変わらずいい仕事をしている」
俺も、彼女たちの働きを認める。
異世界人であるリアナ・フォスターが作り上げたシェイプシフター特殊部隊は、彼女が元の世界に帰ってからも、特殊作戦コマンドとして、俺のところで預かっている。
最近の活動は伏せられているが、一時期、世界の特殊部隊で、同盟軍を代表とするチームとして紹介されていたこともある。
素顔の見えない謎の美女部隊とか何とか。……顔も見えないのに美女と書きたてる記事には閉口したのを覚えている。まあ、リアナは美人だったし、彼女のイメージを受けたセイバーズ隊員は、美女、美少女揃いだったのは事実ではある。が、表向き顔は見せていないので、そういう見だしになった理由は、完全に読者を読ませるための誇張表記だったと思う。
「リアナは、元気にしているかな」
あれから十七年。元の世界で生きていたら、三十代か。いい女になっているのだろうな。ただ問題なのは、彼女は戦闘強化兵という軍が造った『兵器』という扱いで……この手の人間によくあることだが、長生きしている保証はない。もう別世界だから、どうすることもできないことだけど。
「何か言ったか?」
ベルさんが俺を見た。ちょっとした思い出というやつだ。大したことではない。
「何でもないよ」
俺は、都市の中央にある屋敷へと視線を向ける。一時は上がっていた煙がかなり収まってきている。消火に成功しつつあるのだろう。
まだ少しは、彼らの注意はそちらに向いているだろう。その間にこちらがどれだけ浸透制圧できるか。
この都市遺跡の周りには、シーパング情報局とうちのシェイプシフター部隊が展開して、包囲網を形成しつつある。
「さて、そろそろ俺たちも動くか」
「相手がいないんじゃないか?」
ベルさんが皮肉っぽく返した。
「セイバーズだけで何とかなってしまうんじゃないかね?」
「どうかな。今は奇襲で、まだ敵も気づいていないから一方的だが――」
ひとたび侵入が発覚すれば、この拠点にいる連中が全て敵となる。サウス・カラビナス基地を襲撃し、青エルフ守備隊を上回る戦闘力を示した者たちがいるはずだ。交戦となれば、易々と制圧は難しいんじゃないかな。
都市遺跡に警報が鳴り出した。ようやくお目覚めかな。シェイプシフターの陽動の爆発でだいぶそちらに注目が集まっていたからな。初動が遅れるのも無理もない。まあ、仕方ないとはいわない。そういう騒ぎの時だからこそ警戒しなきゃ。
「さあて、ディーシー。スキャン開始」
『了解だ』
ディーシーさん――DCロッドは、魔力スキャンを都市遺跡全体に展開する。
ダンジョンで使う分にはいいのだが、人間の拠点で使うのってタイミングが難しいんだよね。
敵の魔術師が、スキャンの魔力波を拾ったら、それで警戒されてしまう。魔力を感知できるレベルにない者たちばかりなら、バレずに調べられるんだけど、わかる人が相手では、シンバルを鳴らすようなものである。これでは奇襲なんてできるはずがない。
だから、ドンパチ騒ぎになっているところで魔力スキャンを行うわけだ。もう攻撃だってわかっているから、魔力スキャンに気づかれたところで、こちらに魔術師がいるくらいしか相手にはわからない。
「本当は、仕掛ける前にスキャンをかけて敵の配置を把握してから仕掛けたかったんだがね」
敵がどこにいて、魔人機や車両、パワードスーツの有無などを確認して、作戦を立てて攻撃する、というのが正しいのだろうが。
「人質役が自爆してしまったからね。しょうがないね」
ブァイナ金属の扱い云々で連れてきた人質役のリンちゃん(シェイプシフター)。彼女に貯蔵庫は開けられないし、できませんで誘導役のシェイプシフターと発覚して、すべてをぶち壊すわけにもいかなかったからな。
爆発の後、不審がって都市遺跡から撤退、姿をくらまされても面倒なので、自爆の混乱で一気に攻める――というプランに落ち着いたわけだけど。
割とアドリブを強いられるのが、ネックではある。
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