第1993話、何事もないような朝
翌朝、家でテレビをつける。
昨日のことで報道されたのはプリームム市内の火事の件のみ。警察に届いた爆破予告は、結局それらしいものは見つからず、爆発も起きなかったことで狂言と判断されたからか、お茶の間には流れなかった。
そして当然ながらアポリト・ソフォス学校での『世界樹解放同盟』の学校テロのこともニュースにならなかった。
実際の学校で起きていたら、まあ今頃……いや昨日から各チャンネルがその報道一色でシーパング中に延々と放送され続けられていたんだろうな。
何せ貴族や王族の子供らも通っている学校だ。事は一国のみならず、同盟各国を交えた国際問題になっていた。
それだけの大事件がありながら、本当の学校にも生徒にも被害が出ていないし、テロリストもきていないから、ニュースにはあり得ない。シーパング各報道も一切取り上げなかった。
……ランチスペースの隔離事故についても、俺が早期に解決したせいか、報道されなかった。これが数時間隔離されて、警察や救急を呼ばれていたらそっちのほうでニュースになっていただろうけど。
平時で見る限り、こういう悪い事件がニュースにならないのはいいことだ。だが、特殊作戦を実行中となると、ちょっと微妙ではあるんだよな。
特に人質を連れて動いているテロリスト――ネメジスの連中からしたら、騒ぎたてるニュースなどからこちらの動向などの情報を得ることもあるもので、放送をチェックしている者がいるかもしれない。
しかし世間でまったく話題になっていないのをみると、俺んところの子を二人も誘拐しているのにニュースにならないのはどういうことかと怪しむのではないか。
もっとも、俺、ジン・アミウールの娘たちが人質だからこそ、世間に漏れないよう軍や国が報道管制を敷いている、という解釈もあるのだが。
どちらに受け取るかは、ネメジス次第。怪しむか、軍などの介入が入っているか、どう見るかは相手次第というのはもどかしい。解釈のイニシアティブが敵側にあるというのは面白くない。
何故、俺、いやシーパング情報局を含めたこちらサイドが、それを気にするかと言えば、人質のことに敵が注意を向ける可能性があるからだ。
俺の娘であるリンとリザベッタを抑えていると思っているネメジスだが、実際はシェイプシフターの変身である。それが発覚すれば、人質の価値なし。さらにこれらがネメジスを追うための刺客であると発覚すれば、ここまでの追跡が水泡に帰す。
せっかく奪われたブァイナ金属貯蔵庫の行き先、ネメジスのアジトを追っているのに、その手がかりが消えてしまっても困る。
とはいえ、今回の件で、ネメジスの構成員を複数捕まえたので、尋問と、一部シェイプシフターの捕食、コピーで、人質追尾をしなくても必要な情報を得られる可能性はあった。
ただ、捕食は外見は完璧でも中身をどこまでコピーできるかは、割と出たとこ勝負な部分もあるので、過剰な期待はできない。通常の尋問では情報を得られるまで時間がかかる上に、真偽の確認も必要になる。
そうなると、人質=ダミーによる追尾策を成功させたほうが、早くて確実かもしれないということだ。であればこそ、人質に疑いをもたれても困る。
……ま、色々言ってきたけど、もうベルさんが別枠で、連中に張りついているから、最悪、人質追尾策が失敗したとしても何とかなる……といいな。
複数の手は打ったが、正直100パーセント成功するという確証はない。たとえば、何かしらの理由で追尾に気づき、グーワィとやらのグループごと処分するとか、転移で逃走されてしまった場合などなど……。
転移については、シェイプシフターがプチ発信機として張りついていればギリ追えるが、ネメジスの首脳部――たぶんいると思うが、そいつらが実行グループであるグーワィをトカゲの尻尾切りのように捨てたら、ね。
物思いにふけりながら、ぼんやりテレビを眺めている間に、ゆったり起きてきた妻や子供たちが居間にやってきて、おはようの挨拶。
とか言っていたら、念話が飛んできた。ベルさんだった。
『おはよう、ベルさん』
『起きていたか。とりあえず動きがあったから教えてやろうと思ってな』
ベルさんは特に眠そうな様子もなく、いつもの調子だった。ずっと監視していて大変……ではないか、この魔王様の場合。人と同じ感覚で考えてはいけない。
『で、どんな動きだい?』
『転移した』
シンプルな一言だった。転移……さすがに船旅をずっと続けるほど暇ではないということか。
『どこに転移したんだい?』
『探してくれよ。今、オレ様がどこにいるかパッとわからなくてな』
聞けば、遠くから見ているのも飽きたので、船にとりついていたら一緒に転移したのだそうだ。
『くっついていてよかったな』
『まったくな。人質役が発信機つけているだろうから、そっちの信号で拾え。下手に魔力サーチしたら逆探知される』
『ベルさんのサーチ範囲は広いけど、敵地で鐘を鳴らすようなものだからね』
さすがに魔術師などの魔力を感知できる奴がいるかもしれない場所では使えないわな。今は隠密でくっついているんだから。
『どんなところだい?』
『どこかの秘密基地みたいだな。屋根があるぜ』
屋根ね。
『船が接岸できる桟橋がある。転移した船はそこだな』
『海があるのか』
そんな場所に秘密基地とか。ネメジス、相当大きな組織なのかね。あ――
『遺跡とか利用しているのか?』
これまでも古代遺跡を隠れ家や秘密拠点にしていた連中はたくさんいた。地方の盗賊とか海賊とかも、よくやっているやつだ。同じように、この最近現れたネメジスも遺跡を拠点に力をつけていたのではないか。
『かもしれんが、わからんな。専門家を呼ぶんだな。……お、人質が動き出した』
ベルさんはそう送ってきた。じゃ、こちらも動きますか。
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