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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第二部

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2002/2024

第1992話、対面する長女


 ネメジスのグーワィらを乗せた船に、バローグとリン・アミウールの偽者が合流した。


「ようこそ、リン・アミウール嬢。私はグーワィ。ここの者たちを率いている」

「あんたが親玉?」


 リン――シェイプシフターは彼女を演じた。太々しい少女の態度に、グーワィはうっすらと笑みを浮かべる。


「気の強いお嬢さんだ。……怖くないかね?」

「震えてみせましょうか?」

「その歳で戦闘機を乗り回しているというのは本当らしい」


 戦闘機パイロットは強気で、時に傲慢さを滲ませる。ただ騎士らと違い、身分や権力を振りかざさず、自身の胆力でもって応じてくるだけ、まだ好感が持てる。


「うちの弟と妹をさらったそうだけど、無事なの?」

「弟の方は解放した」


 グーワィは椅子に腰掛ける。


「まあ、君のお父さんにこちらの要求を伝えたのだがね。素直に応じてもらえなかったが……無事なんじゃないかな」

「……」

「妹――リザベッタ嬢の方はこちらで預かっている。もちろん今のところ乱暴なことはしていない。……これまではね」


 グーワィが匂わせると、リンは露骨に顔をしかめた。


「これからやりますよ、って聞こえるわ」

「それは君の協力次第というところだ」

「手錠で拘束しておいて、協力しろですって?」


 彼女は手錠を見せると、グーワィはやはり笑った。


「保険だよ。君が大人しく従ってくれるなら、それを外してもいい」

「抵抗しないわよ。これだけあんたのお仲間に囲まれていればね」


 リンは辺りをぐるりと見回した。グーワィの部下たち、自分を連れてきたバローグなどがいる。多勢に無勢と子供にもわかる状況だ。


「で、あんたたちはあたしら誘拐して、何をさせたいのさ?」

「話は聞いているんじゃないのか?」


 座って、とグーワィは、リンに椅子をすすめた。


「我々はとある貯蔵庫を開けたいのだが、これが難物でね。壊そうにもあまりに頑丈な金属でできていて、我々は中身を拝めていない」

「あたしだって、素手で金属の扉は開けられないわよ?」


 リンは皮肉げに言った。意地悪くニヤニヤしている様は、実に肝が据わっている。武装した大人たち、武装集団を前にしても外面は余裕の様子である。


「素手で金属の扉は怖いな」


 グーワィは冗談に付き合う。あくまで友好的な態度をとる。


「君はブァイナ金属を扱えるそうだね。その情報と引き換えに、妹の無事を保証する……そう申し出たと、私は聞いていたのだがね?」

「あー、そうだったわね。言ったわ」


 リンは思い出したような顔になる。


「まさかあの話が本当だったとは……」

「あの話?」

「そこのおじさんが言っていたことよ。あたしを試す適当な話だと思っていた」


 バローグとの話だろう。グーワィは笑みを崩さない。


「その適当な話に我々が望む内容が含まれていた。それでなければ君を連れてくることはなかった。……で、本当だろうな? 君がブァイナ金属を扱えるというのは?」


 視線が鋭くなった。温厚な顔、その奥に潜む狂気が滲み出る。リンは視線をわずかに逸らした。


「扱えるといえば、まあ、そうね。できることもあればできないこともある」

「ほう、できないこととは?」

「ブァイナ金属を作ること。さすがにそこまでは、あたしはできないわ」


 その答えに、グーワィは虚を衝かれた。アミウールの娘、なるほど一筋縄ではいかないかもしれない。あの英雄魔術師の娘だけのことはあるかもしれない。


「そこまでは期待していない。扉を開ける、もしくは壊す方法さえわかればそれで充分だ」


 できるか――とグーワィの目が睨んだ。リンは薄ら笑みを浮かべた。


「まあ、そのくらいならできるわよ」

「ならば結構」


 グーワィは膝を叩いた。だが、と顔は真剣そのもののままだった。


「一つ聞かせてもらいたい。君は何故、ブァイナ金属の扱い方を知っている?」


 子供が遊びで覚えるものではない。バローグの話では、ジン・アミウールの持つデータパッドで見たということだったが、リンが何故それを見たのか。

 ジン・アミウールは資料の扱いが雑なのか。いやそれでも、そんなセキュリティーの甘いところで読めるようなものでもないのではないか。

 そう言われて、リンは少し考える素振りを見せる。ちょっと気まずそうな顔になる。


「理由としたら、そんな難しい話ではないのよ。あたしの、貯金箱がね……ちょっと……」

「貯金箱?」


 グーワィは目を丸くする。まさか――


「ブァイナ金属で出来ているのよ。せっかく貯めたお金を無駄遣いしないようにですって」


 リンは顔をしかめる。グーワィは苦笑した。


「実に、しっかりした親の教育だね。これもジン・アミウールのかね」

「まあね。ブァイナ金属を使える人なんて、そうそういないわ」

「でも君は使えるのだろう?」

「貯金箱を開けようとしたのよ。……つまらない理由でしょ?」


 確かに家庭的な動機だ。だが子供が大人の秘密を知っている理由なんてものは、得てして自分のためであり、他人からすればつまらない動機である。


「それで、開けられたのか?」

「もちろん、それでギターを買った」

「ギター?」

「知らない? 楽器よ」

「音楽か。得意なのかな?」

「いいえ。やってみたけど、二日で辞めた」


 そうか――グーワィは笑い、しかしすぐに押さえる。


「いや、すまない。君という存在が実に面白くある」

「褒めてないわよね、それ」

「好意に値する。こちらとしては、貯蔵庫を開けられればそれでよい。情報を開示してくれるだろうか?」

「教えてもいいけど、一日二日で覚えられるかな」


 リンは考え、そして提案した。


「あたしをその貯蔵庫まで連れていってくれたほうが早いと思う」

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