第1989話、お呼びとあらば、参上するのが礼儀というもの
シェイプシフター・リンちゃんとバローグ組が、ネメジスの仲間たちに合流すべく移動しているのをモニターしていた俺とグレーニャ・ハルだったが、突然、俺の携帯端末が鳴った。
……リュミエール?
「はい、お父さんです」
『あ、お父さん、大変です!』
ふだん礼儀正しい彼女が慌てていた。どうしたの?
『ランチスペースが使えないんです!』
「ランチスペース?」
って、なんだっけ? どこかで聞いた覚えがあるが、どういうことなのかわからない。使えないとは?
『えっと、すみません。順序立ててお話しますと、わたくしが教室で仲のよいクラスメイトとお昼を摂ろうとしておりまして――』
うん、君が順序だてて話すと、一から行動を全部話しはじめる傾向がある。まだ肝心な部分に差し掛かっていないだろうね。この真面目さんめ。
「ランチスペース」
『はい、えーと、教室にランチスペースに入れないと慌ててやってきた方がいまして。中にボルク王子やリン姉さんもいるみたいですが、連絡が取れなくて、わたくし、どうしようかと思いまして』
「それで俺に連絡してきたんだね」
この忙しい時によくもまあ。しかしランチスペース、アポリト・ソフォス学校のそれって、要するに異空間休憩所のことなんだよな。そこの異空間の入り口が、どういうわけか切れたわけだ。……これは、俺じゃないと手に負えないな。
「わかった。すぐに行くよ。今どこにいる?」
『わたくしですか? えっと、高等部ランチスペース入り口前です』
あー、そこね。校舎の図面がモニターの1台に表示されたままだから、マップ確認は早かった。
「ちなみに、そこ人でいっぱい?」
『はい。先生方がいて、生徒たちも大勢。一応、近づかないようにと先生が――ひゃっ!』
リュミエールがびくりとした声を発した。原因はわかっている。俺が位置を確かめるためにトレースした魔力が、彼女の背中に触れてしまったからだ。
『いま、触りました?』
「よくわかったな。そこを動くな。3、2、1!」
転移。俺は、リュミエールの背後に移動した。周りではランチスペース入口に集まる野次馬生徒たちとそれを散らそうとする教師と、どこぞへ連絡を入れている先生がいた。場がざわついているねぇ。
「お父さん!」
リュミエールが素っ頓狂な声をあげる。俺はウインクした。
「すぐ駆けつけただろう」
ちょいとごめんなさいよ。生徒たちを避けて、ランチスペース入り口へ近づく。
「あ、ジン・アミウールだ!」
そんな生徒の声がして、辺りがまた一段と騒がしくなった。はいはいー、そのジン・アミウールさんが通りますよっと。
「アミウール様!」
教師たちが驚いた。いくら何でも到着が早すぎて吃驚させたかな。
「ランチスペース入り口でトラブっていると聞いてね」
「そ、そうなんです。見ての通り、ここがただの壁にようになってしまいまして……」
「安全装置が働いたようだね」
壁になっているということは、そういうことだ。異空間の入り口が切り離された時、そこには虚無空間が広がり、そこに近づこうものなら、虚無空間に引きずり込まれて帰ってこれなくなる。
だから壁が自動発生して、生徒や教師が虚無に投げ出されないようになっている。
「異空間が切り離されたのは、間違いない」
問題はその原因だな。何らかの要素、たとえば今回、よからぬ者が学校を襲撃してきた場合に備えて、本物の校舎に賊が侵入できないように複数の出入り口や大窓などに、異空間通路を設置していた。それのどれかが、ランチスペース入口の異空間と干渉した可能性。
または、人為的に異空間が切り離された可能性。誰かが魔力を垂れ流して、入り口を繋ぐ魔力に干渉し、切り離してしまったというパターン。事故か、あるいは何者かの仕業なんだけど……後者は考えにくい。この学校の教師や生徒に、異空間に干渉できるような術を持っている者はいないだろうし、そもそも学校じゃ教えていない魔法の系譜だ。たまたまの事故か、先の対襲撃者用異空間の干渉と考えるのが自然だ。
「……あの、ランチスペースにいる生徒たちは大丈夫なのでしょうか?」
「少し待て」
このランチスペース異空間は俺の魔法で作ったものだから、どこにあるのか探る。普通の魔術師だったら、どこに異空間があるかなんてわからないから、俺を呼んで正解。異空間のきった張ったに関しては、つい最近学校に複数設置したからわかるんですよっと。
「見つけた。繋ぐ――」
壁となっていた入り口が光った。おおっ、と周囲の声が広がる。光が消えた時、ランチスペース入口は元の状態に戻り、中からリンちゃんが出てきた。
「パパ? 来てたの?」
「リュミエールに呼ばれてね」
「姉さん!」
そのリュミエールが駆け寄り、リンに抱きついた。
「大丈夫だった?」
「ええ、まあね。あんたがパパ呼んでくれたのね。ありがとう。こっちからは携帯が繋がらなかったから」
切り離された異空間だもの。それまで通っていた無線や魔力も届かなくなる。一応、リンちゃんも外部に連絡を取ろうとしたわけな。
「助かりました、アミウール閣下」
新たな声。っと、学校長がきていた。
「まさか閣下直々に来てくださるとは……」
「たまたま近くにいたものですから。あー、一応、中の生徒たちが無事が確認してやってください」
「もちろんです」
学校長は教師たちに指示を出す。出てくる生徒たちが安堵の声をあげて、中での出来事やどうして出入りできなくなったのか疑問を口にしている。
俺のもとに携帯が鳴った。着信は……ニムだった。
「もしもし」
『ジン様。お忙しいところ申し訳ありません。アポリト・ソフォス学校から緊急の知らせが入りまして――』
「ランチスペース入口の問題かな? それなら今、解決した」
色々回りくどい経路を辿って、俺のもとに事件の知らせがきた。その間に解決したけどね。
しかし、こっちが謎組織ネメジスとやりあっている最中に、これまで起きたことがない事故だか事件が起きた。これは偶然か? それとも、何かあるのか……?
英雄魔術師はのんびり暮らしたい@コミック第14巻(電子書籍)発売中! 最終巻となります。どうぞ、よろしくお願いします!
累計45万部突破! 既刊1~13巻(12巻以降は電子書籍版のみ)も発売中! コロナEX、ニコニコ静画でも連載中!




