第1987話、ネメジス
ブァイナ金属をちらつかせたら、あっさりだったな。
グーワィという名の上司に、バローグが通信していたのを俺たちは盗み聞きしていた。……というより、俺たちが通信しろってやったわけだけど。
連中の目的が、ブァイナ金属の扱い方を知るためってのは、俺に対するそれを求めてきたことで明らかになっていた。だから、欲しいものがあると教えたら、すんなり奴らも食いついてきたわけだけど。
「ネメジス」
「そ。それが奴らの組織の名前」
グレーニャ・ハル情報局局長が、俺に資料を手渡した。
「捕虜からの証言。それとシェイプシフターが喰って得られた情報を照合したから、間違いないわ」
「シェイプシフターは便利だな」
相手の姿を真似るだけでなく、喰った相手の記憶をもある程度得ることができる。まあ、これは相手をコピーした際、その喋り方や仕草を真似るための機能から始まっていて、記憶については『ある程度』ではあるし、割と肝心なところが読み込めなかったりということもあるけど。
いったい何人を喰わせたんだろうね? なんて、わかってる。俺との人質交渉した際に始末した死体が主だろうな。それと異空間学校で、世界樹解放同盟と偽称していた連中の死体もだな。
あのバローグという隊長も、そうだな。
「ネメジスか」
俺の元いた世界だと、復讐の神、女神の名前だったかな。こっちの世界でもそうなのかな?
「名前の意味は?」
「フレイダル地方に伝わる女神の名前。復讐を司るとか、そんな感じ」
ふむ、割と似通るものだ。この惑星テラは、俺の元いた世界の、地球の超絶未来なんじゃないかって思ったりする。
「それで、このネメジスは、どういう組織なんだ?」
「まだ断片的で、ところどころ想像が入るのだけれど」
グレーニャ・ハルは前置きした。
「この世界を破壊して、新たな世界を創造する――というのを目的とした組織みたいね」
「宗教みたいだな」
「ある意味そうかもしれないのだわ。捕虜は中々口を割らないし、シェイプシフターが食べた者の記憶の断片から、一番そこが重なっていた部分ではあるから、構成員の共通した認識がそれなんでしょうね」
立場、階級は違えど、組織の目的は共通しているもの、ということなのだろう。
「サウス・カラビナスを襲って、例の貯蔵庫を奪ったのは、地底人のシェイプシフター制御システムを手に入れるため」
「おそらくね。上級幹部の情報が不足しているから、この辺りはまだ推測の域を出ないけれど、彼らの組織の目的を考えれば、制御装置を使って世界を滅ぼそうとしていると考えてもよさそうね」
「シェイプシフター戦争か」
世界人類は、シェイプシフターに取り込まれて滅亡する。あれを戦争の道具として使うとなれば、あり得る未来だ。俺だって、大陸戦争でのシェイプシフターの使い方によっては、そういうこともできたわけで。
「どこで制御装置の情報が得たかは調査するけれど」
グレーニャ・ハルは自身の髪をかきあげた。
「同盟内にも、ネメジスの協力者がいるかもしれないわね」
「シェイプシフター制御装置の存在を知っている者だから、それなりに大物だろうな」
「でも、真の大物でもない」
局長はニヤリとした。
「本当の隠し場所については知らないのだから」
連中が必死に開けようとしている貯蔵庫の中身は、大量のスパムしかない。奴らは大量のスパムのために、爆破テロを起こし、学校を襲って生徒を誘拐しようとした。……マジかよ最低だな!
「世界を壊そうなんて言っている連中だ。制御装置の保管庫が偽物どうこうは関係なく、鎮圧しないといけない対象ではある」
普通にテロリストだもんな。それを放置することは、世界の民にもよろしくない。そういう思想を持ってます、ってだけじゃなくて、実際に軍の基地を攻撃し、民間人への攻撃もやっているわけだからな。犯罪者だよ、ただの。
「ネメジスについては、調査を進めて潰さないといけない。今回も奴らのアジトに踏み込んで、可能な限りの情報を得る」
「アジトで全滅させられれば、楽なのだけれどね」
グレーニャ・ハルはフフと笑った。そうなんだけどさ。
「同盟からの情報漏れの可能性もあるし、同盟外の国が絡んでいるかもしれない。戦争を起こして利のある者、組織……裏でどれだけ繋がっているか、現時点では皆目見当がつかない」
今の時点でわかっているグーワィとやらがラスボスなら、話はさほど難しくないんだけど……。簡易資料を見た限りだと、まだ上がいるっぽいんだよな、これ。
俺はモニターへと視線をやる。囮のリンちゃんとバローグは港町まで移動しつつある。それでお仲間と合流し、例の貯蔵庫の場所までご案内……となればいいんだけどな。
「……腹が減ってきたな」
珍しく戦闘なんてやったし、テロリストと交渉したりと色々あったし。グレーニャ・ハルはクスリと笑った。
「出前をとる? 何が食べたい?」
・ ・ ・
異空間学校でのテロ騒動など、表の、実際のアポリト・ソフォス学校の生徒たちには、まったく関係のない話だった。
生徒が誘拐されることなく、また銃撃戦に巻き込まれることなく、授業と休憩を繰り返して、お昼の時間。
リン・アミウールは、自分に化けたシェイプシフターがテロリストと合流すべく移動しているなどまったく知る由もなく、クラスメイトが集まる前に隣の席のニーゴを捕まえた。
「昼ご飯の時間よ。場所を変えるわよ」
「うん」
何も知らないニーゴは頷いた。学校での昼食の摂り方、過ごし方を知らない子である。
「リン」
アクナ・シェードとボルク・ヴェリラルドが、この展開を見越して素早く動いていた。クラスメイトは、ニーゴに興味津々なのだ。
次話は明日、火曜日更新予定。
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