第1985話、追跡する手
アポリト・ソフォス学校内は、激しい戦闘状態にあった。
「ちくしょう、あいつら、いきなり攻めてきやがった!」
学校立てこもり組こと、陽動部隊のバローグは、シーパング製ライトニングバレットライフルを手に、銃声が木霊する廊下を見た。
生徒を人質にとっていれば、そう簡単に踏み込んではこない。これまでは実際にそうだったのだが、包囲する警察ならびにシーパング軍が、奇襲を仕掛けてきた。
「生徒を見殺しにしてもいいっていうのか!?」
時間稼ぎのために、いくつかの教室で人質を殺して後退するよう、無線で指示を飛ばした。
安易に踏み込んだことで、お前たちのガキどもは死んだぞ! 立てこもる武装グループをなめるからだぞ。王族、貴族のガキどもを殺したのは、お前たちの傲慢さがもたらしたことだ。責任者は王族貴族の恨みを買って死ぬがいい!
「隊長!」
部下の一人が駆け込んできた。
「B2からC7ユニットまで応答なしです!」
「やられたのか!?」
早すぎる。教室にいる生徒全員を殺して撤退を命じた班が音信不通になる。一瞬通信妨害を疑い、ひょっとして自分の発した命令も届いていなかったのでは、と考えたその時、バローグは不意に背中から連続した衝撃を受けた。
――撃たれた?
痛みが駆け抜ける中、倒れながら振り返る。そちらには、一カ所に集められた生徒たちがいるはず。
と、そこにいる生徒たちがどこに持っていたのか拳銃やライトニングバレットを保持していて、バローグとその部下めがけて銃撃してきていたのだ。
こいつら、生徒じゃなかったのか――!?
それを悟った時には、すべて手遅れだった。バローグと部下はあっけなく打ち倒された。他の教室にいた武装した部下たちもまた、外からの襲撃に気を取られたところを、人質と思っていた者たち――シェイプシフター兵によって掃討されていったのである。
異空間学校内に隔離されていた陽動部隊は、脆くも制圧された。学校という地形、人質がいる環境ならば抵抗は可能と考えていた彼らだが、そもそも生徒という名の人質など、初めから存在していなかったことに気づくことはなかった。
・ ・ ・
異空間学校の敵を排除したと報告がきた。知らせたのはシーパング情報局局長のグレーニャ・ハルである。
『何人か捕まえけれど、それ以外は死亡。こちらの身元を洗うためにももらっていくわよ』
「任せるよ」
俺はリモリック倉庫街3の12倉庫にいた。シェイプシフター諜報部、シーパング情報局の兵たちが、人質交渉の場にいた者たちを回収――半分は死体だが、残り半分はスタン状態で捕縛した。
これらは、敵の情報を得るために、シーパング情報局が尋問したり、検死など色々するのだろう。
『こいつらも、そちらの連中の仲間のようだけれど』
「世界樹解放同盟ってのは、やっぱり化けの皮か?」
『でしょうね。外部と連絡をしようとしていた通信記録や、連中の内緒話から、そうなるのだわ』
仲間内の内緒話も、人質役のシェイプシフター兵らが聞き耳を立てていたんじゃ、筒抜けだ。
聞き耳を立てる、と言えば、この倉庫にあった連絡用の通信機はオンになっていて、中での会話が垂れ流しになっていた。
まあ、俺と奴らの人質交渉の内容が、その仲間たちに聞かれていたということだ。もちろん、今は通話状態を解除しているが。ただ電源は入っているので、向こうが呼びかけてきたら応答できるようにはなっている。
とはいえ、逆探知を恐れて、敵は発信してこないだろうがね。連中がそこらの環境テロリストではなく、素人の集まりでもない以上、周波数バレしている中に不用意な通信はしない。
「ちなみに、もう一人の人質の方は追えているのかい?」
リザベッタ役のシェイプシフターを連れて逃げている奴ら。ここにはエミール役しかいなかったわけで、普通に考えれば敵がまだ連れ回していることになるが。
『発信機は機能していないけれど、ちゃんと監視はついている。そちらの心配はしていない』
グレーニャ・ハルは答えた。彼女曰く、敵は移動中も発信機が動いていないか常時監視しているという。あまりに警戒が厳しいのは、計画が予定外になり過ぎているせいだろうな。
学校をテロリストが占領し、その監視グループも共々連絡を取り合うはずが、そのすべてが音信不通。いざ俺と交渉をはじめたら、あっさり全滅してしまう始末。上手くいかないとなると、用心深くもなる。その計画が入念に準備されたものであるなら、なおのことだ。
「監視の心配はしていないって言っていたけど、信じていいのか? こっちは潰してしまったから、捕虜から情報を聞き出すまでは行き先の見当もつかないが」
『大丈夫よ。ベルさんを信用しているのでしょう?』
「あ、ベルさんきた?」
面白そうと言って、備えていたのに今日は所用があるって、いなかったんだよね。そりゃあ、敵も日時を指定しているわけではないから、スケジュールが合わないこともあるけどさ。
ただ、ベルさんがきて、あの人が監視しているというなら、まあ、大丈夫だろう。
「それなら安心だな」
それはそれとして、今回の事件、ブァイナ金属の情報を求めたことで、犯行グループがサウス・カラビナス基地襲撃班で確定したな。今の世の中、連中以外にブァイナ金属で困ってないからな。
「敵の目的が、判明したんだ。保険も込めて、こちらから仕掛けるか」
『というと?』
「今度は、こちらから接触するのさ」
俺は、思いつきをグレーニャ・ハルに説明した。
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