第1984話、人質交渉とは……?
まあ、死なないけどな、俺は。
高圧的な覆面男が頭を吹っ飛ばされてて死亡。このジン・アミウールを脅迫するというなら、それ相応の覚悟をしてもらわなきゃ。
子供を人質にしているというシチュエーションで、百戦錬磨の俺に心理戦を仕掛けようとしたって、動揺するより先に逆鱗に触れるかもと考えなかったのかな?
君たちが人質交渉をしている相手は、人間ではなく、ドラゴンとでも思えば、もう少しやり方ってものがあると思うんだがね。
下手なことをすれば、プチっと言ってしまうのは、お前たちだよ。
「ジン・アミウール」
別の覆面男が、魔石拳銃を俺に向けたまま言った。
「確かに、あんたを殺したら目的は果たせない。だが我々も命は惜しい。自分の命とあんたの命、どちらが大事となれば自分が優先される。だから我々もつい、あんたを銃殺してしまうかもしれん」
何とも素直なことだ。だが下手に使命だ、大義のためなら死ねるとかいう奴よりは信じられるかもな。ぶっちゃけ、組織のために死ねるとか言われても『本当に?』って試したくなる性分なんでね。
「そうなった時、残っている家族や妻たちが、嘆き悲しむだろう。夫として家族を不幸にしたくはないだろう?」
「その家族を不幸においやっている連中の言葉に、説得力があると思うか?」
そうのたまうなら、エミールだけではなく、リザベッタもこの場に出せというのだ。出直せ、愚か者め。
「娘の命を握っている」
覆面男は言った。
「あんたが言うことを聞かなければ、この場にいない娘がどうなってもしらんぞ」
「逆だな。この場にいない娘に手を出した時点で、お前たちは皆殺しだ。どこに逃げようとも末端まで、一人残らず見つけ出して塵に分解してやろう」
「安い脅しだ」
男は返した。
「人質はこちらにあるんだ」
「本当にそう思ってる?」
俺は薄ら笑みを浮かべてみせる。
「それ、本当に俺の娘?」
「何を言っている? 気でも触れたか?」
「そもそも、覆面しているそこの人質も、エミールの制服を着ているみたいだが、覆面のせいで顔が見えない。人質ではなく、お前たちの仲間が化けているかもしれない」
知ってるけど、すっとぼける俺である。
「そもそも今の状態で、人質交渉しているつもりだったりする? 人質がいないんじゃ、交渉にもならんのだが」
「なら、よく見るがいい!」
覆面男は、人質の覆面を剥いだ。そこから出たのは、エミールの顔ではない。のっぺらぼうであった。
「ええっ!?」
驚いたのは覆面男たちの方だった。おいおい、シェイプシフター君、しっかり変装してくれなくちゃ困るじゃないか。
俺が人質を疑ったから、シェイプシフター君が気をきかせて変身を解いてしまったのかもしれないな。打ち合わせ不足だね。まあいいさ。
「やっぱり人質がいないじゃないか」
俺はニヤリとする。
「俺は多忙なんだがね。とんだ茶番に付き合わせてくれたものだ。嘘はいけないなぁ、嘘は」
すっと指を振る。覆面たち数人の体が真っ二つになった。
「くそっ!」
俺と交渉していた覆面男が魔石拳銃の銃口を向けて、人質役のシェイプシフターに腕をつかまれ、取り押さえられた。
そして次の瞬間、俺の耳につけた通信機から、グレーニャ・ハルの声がした。
『突入』
倉庫の二階部にある大窓が破れた。ガラス片が飛び散る中、シェイプシフター諜報部、シーパング情報局の工作員が突入し、スランモードライフルで、覆面兵たちを立ち所に撃ち込んだ。
あっという間の出来事だった。人質交渉の場はたちまち制圧された。
・ ・ ・
ジン・アミウールと、幹部との交渉を、グーワィらは移動の最中にオープンチャンネルで聞いていた。
主導権は、人質を握っているこちらが有利なはずなのに、終始相手にリードされていた。
「ここまでザウズが人質交渉が下手クソとは思わなかった」
グーワィが思わず言えば、個人副官のネーヴェは首を横に振る。
「ジン・アミウールがあまりに強気が過ぎました。こちらが人質を有効活用できないように振る舞っていたように感じました」
「人質として認知されなければ、そもそも交渉にもなりはしない」
人質のエミールに覆面をかぶせていたことが、本人かどうかの疑心暗鬼を呼んだはいいが、不明瞭な状態では交渉しないと、突っぱねられてしまった。
悩ませれば悩ませるほど、相手の心理を追い詰めるはずが、ジン・アミウールは、はっきりさせなければ話にも乗ってこない性質だったらしい。
「明らかに、この手の人質交渉に慣れていますね」
ネーヴェは事務的に告げた。グーワィは頷いた。
「あまりに思考が早すぎる」
一度や二度どころの経験ではないだろう。こうきたらこう返す。そして犯人側が人質に手を出す出さないのラインを見極める目を持っている。
「おそらく、ジン・アミウールの中では、すでにパターン化されているのだろう」
だから悩まない。自分の発言、相手の行動が、どういう結果になるか、シミュレートされ尽くしているから、迷わない。行動が早い。
「どうされますか?」
ネーヴェは尋ねてきた。
「常識的に考えれば、ここで、残る人質を殺して、死体を送りつけるくらいするところですが……」
こちらの言うことを聞かなかった代償を払ってもらう、というのが正しいのだろうが。
「そうもいかない」
これがただのテロリストや身代金目当ての犯罪者であれば、報復で人質を殺して相手に後悔させるところだが、グーワィたちはそうはいかない。
「人質を殺してしまっては、今回の作戦が全て無駄になってしまう」
こちらの損害ばかりが大きく、しかも目的であるブァイナ金属の情報を得られない。ただ戦力と資金と物資を消耗させただけに終わってしまう。
「主も、その結果は許容できないだろう」
グーワィは頭を抱えた。
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