第1983話、人質交渉の場へ
人質解放のシチュエーションなんて、映画やドラマでしか見たことないよな。
いざ自分がその場面に遭遇するなんてのは、普通の人生において、そうそう起こることではない。……起きて欲しくないよな、本音としては。
では、俺の人生ではどうなのか、と振り返ると……何度かおぼえがあるんだよね。
それだけ、修羅場をくぐってきたということではあるんだけど、英雄魔術師は伊達ではないということだな。
つまりは、この手の人質がいる場面での行動について、いまさら緊張するようなことはない……はずなんだけど、さすがにこの手の状況というのが大戦からこっちあまりなかった。
この原因は何だろうかと考える。人質とされているのが、俺んところの子供二人――と思っているようだが、実のところシェイプシフターであって、人質としての要件を満たしていない。
そもそも人間ですらなく、赤の他人の命ということもなく、何なら『自爆せよ』で、人質としての演技を終わらせて、敵にダメージを与えることさえできる。
人質ですらないが、人質交渉。これで人質役が死ぬなんて状況になったとしても、何ら影響しないので恐れるものなど何もない。
では、何故となると、やはり敵の目的、正体を探らなくてはならないという状況だからだと思う。
ここまで事件を起こしたテロリスト――実際何者かわからないが、それを探り出すことに関しては失敗はしたくない。そこだろうな、緊張の原因は。
ま、敵さんは人質を一人、連れ出したから、最悪交渉が失敗しても影響はほとんどないんだけどね。その人質を拠点に連れ込んでくれれば、さ。
裏がないのなら、ただ乗り込んで殲滅してやればよく、そのほうが楽ではある。……演技できるかな、俺。役者じゃないんだぜっと。グレーニャ・ハルの前では、見栄を張ったけれども。
「リモリック倉庫街3の12倉庫……」
こうやって歩いて乗り込むというのも、俺としては珍しいかもな。
倉庫の立ち並ぶ一角を徒歩移動し、指定の倉庫へ向かう。気づかれてはいないと思いたいが、シェイプシフター諜報部、シーパング情報局の戦闘工作員が多数、周りで張っている。
さて、扉の前に誰か立っていることもなく、セルフなのかいと思いつつ倉庫の中へ。積み上がった木箱が一面の壁を覆っている。……こういう裏とか上に、伏兵を忍ばせるのはよくある手口ではあるな。
敵さんは……いるいる。全員覆面を被って顔を隠している。それ意味あるのかな、と思いつつ、監視カメラで映像を残されると、素顔からバレることもあるから対策はなんだろうな。
……人質にも同じ覆面を被せるとか。制服から、エミールの方だとわかるけど。もしかして、犯人グループの変装だったりして。
可能性はある。まあ、シェイプシフターが扮したエミールだってわかっているけどね。
「さて、来たぞ」
俺は横柄さを心掛ける。子供を人質にとるような連中に紳士的な態度を取る必要性を感じないのでね。
「俺に何の用があるんだ?」
「こちらには人質がいる」
エミール(シェイプシフター)の傍らで魔石拳銃を持った覆面男が言った。
「おかしな真似はしないことだ」
「おかしな真似?」
ああ、しないよ。具体的に『おかしな真似』が何を意味しているのか、言われてないからわからないけどね。
「用件は? 俺に用事があって呼んだのだろう?」
太々しく、たっぷり嫌味を込めてやる。
「ブァイナ金属の取り扱いについて、我々はそれを知りたい」
「ブァイナ金属」
情報局とお喋りしてなかったら、何故ここで金属の話になるって驚くところなんだろうな。これで、サウス・カラビナスから貯蔵庫を強奪したとち狂った連中と関係があるのがほぼ確定じゃないかな。
「それを知るために、俺んところの子供を浚ったの?」
とはいいつつ、そういえばこいつら、身代金要求とかしてこなかったな。この手の誘拐に付き物の、何億円寄越せとか。……まあ、異世界で円はないか。
「そうだ。我々は、それを求めている」
「宇宙戦艦でも作るつもりか?」
先日のクルフの話ではないが、ブァイナ金属を使って何をするんだ、といかにもな質問をぶつけてみる。貯蔵庫を開けたいだけ、ってのは想像がつくけれども。
「それは貴様には関係のない話だ」
覆面男はにべもない。
「息子を殺されたくなかったら、情報を渡すことだ」
それ、息子じゃないんだけどな……。
「軍に聞いたら?」
俺もそっけない。
「ブァイナ金属は民間では扱っていない。扱っている軍の方で調べれば済むことだろうに」
「余計なお喋りをするつもりはない!」
覆面男は、人質の覆面ごしに強く拳銃を押しつけた。
「人質はもう一人いるんだ。なんならこいつの頭を吹き飛ばしてもいいんだぞ!」
バン! と覆面男の頭が破裂した。周りにいた覆面の仲間たちは驚く。
「誰の頭を吹き飛ばしていい、だって?」
俺はジロリと睨みつける。
「誰の許可を得て、人様の子供の頭を吹っ飛ばしていいなんて言ったんだ?」
威圧を込めて、周囲を見回す。……子供を人質にとられてガチギレしている演技としては上出来ではないか。
「う、動くな!」
交渉していた覆面男が死んだことで、仲間の覆面が声を上ずらせて銃を向けてきた。
「動くと撃つぞ……!」
「動いてねえだろうが」
俺は呆れも露わにする。
「というか、お前ら俺を殺したら、ブァイナ金属の情報を得られないだろ。撃てるのかお前ら? 俺は丸腰だし、防御魔法も使っていないから、一発撃ったら、あっさり死んじゃうよ?」
英雄魔術師はのんびり暮らしたい@コミック第14巻(電子書籍)6月15日発売予定! 最終巻となります。ご予約、よろしくお願いします!
累計45万部突破! 既刊1~13巻(12巻以降は電子書籍版のみ)も発売中! コロナEX、ニコニコ静画でも連載中!




