第1978話、覗き部隊、排除
無線が雑音を流し、学校を見張っていた観測手は眉をひそめた。
相変わらず、アポリト・ソフォス学校は平穏そのもので、それどころか授業の始まり、または終わりを告げるチャイムがなり、生徒たちが普通に移動していた。
わけがわからない。バローグ隊長は、学校を制圧して立て篭もっているのではないのか?
学校は平常通りの様子。その報告をグーワィら上層部にはすでにしている。実際、アミウールの子二名を確保し、移動しているので、突入部隊は役目を果たしたわけだが、その後の立て篭もり、陽動の様子がまるで予想外の状況となっていた。
しばらく様子を見ているように、とグーワィから、観測援護チームに指令が下ったが、観測手にしろ相棒の狙撃手にしろ、嫌な予感しかしなかった。そもそも警察や軍がいまだ現れないというのが不気味でしょうがない。
できれば、すぐにでもこの場を離れたかった。だが命令とあれば従うしかない。ここを移動できるのは、任務の終了、もしくは中止による撤退指示のみ。それが出るのを待つしかなかった。
「今ほど、この場を離れたいと思ったことはないぜ……」
思わず声に出る。悪い予感というものは往々にして当たるものであり、経験と勘が逃げろと囁くのだ。
「……」
狙撃手は、露骨に嫌な顔をして観測手を一瞥した。――余計なことを喋るな、考えるな、だろう、わかっている。わかっているが……。
「!?」
気配を感じて振り返る。高層の集合住宅の通路である。階段には見張りがいて、人が来たら無力化させる手はずとなっている。
だから人がいるはずがない。たまたまこの階の住人が出てきたとしたなら扉を開けてすぐに反応できるが、当然どこかのドアが開いたわけではない。
耳を澄ます。気配を探る。魔力サーチ――いや、ここでそれを使えば、近くに魔術師がいれば気づかれる!
潜伏する人間が、住宅地帯で普通は使わない捜索魔法などやるなど愚の骨頂である。
だが結果論ではあるが、観測手は使うべきだった。バレるバレない以前に、『敵』はすぐ目の前に迫っていたのだから。
ドスっ、と衝撃が腹を打った。
「うっ――」
ドスっ、ドスっと見えない攻撃が連続して叩き込まれた。防弾チョッキが貫通を防いだが、衝撃で肋骨にヒビが入り、または折れた。
狙撃手が振り返り、とっさに銃を手放しナイフに手をとった。だがそれまでだった。
立て続けに見えない敵からありったけの弾丸を打ち込まれ、四肢をやられた。
たちまちのうちに無力化されたところで、光学迷彩を解いて黒い戦闘服の人型――シーパング情報局員が現れた。
持っていた拳銃を片付け、新たな銃を出すと、局員はスタン弾を狙撃手に撃ち込み、続いてうめいている観測手に撃ってトドメを刺した。
「確保しました」
局員は無線に呼びかけた。
・ ・ ・
本物のアポリト・ソフォス学校を監視していた不審者を複数、シーパング情報局とシェイプシフター諜報部が逮捕した。
子供を隠れて覗いているという不謹慎な者ども――うん、これは子供を持つ親としても見過ごすことはできんな。
「これで何組だ?」
「四つね。実際に監視しているスナイパーチームと、それをバックアップするチームがついているのだわ」
グレーニャ・ハルが報告からリストを作成する。
不審者グループは、実際に学校を見張っている者たちと、その退路をカバーする者、さらに移動用の乗り物で待機している者の四人で一つのチームを構成していた。
「これはもう軍隊だな」
それが俺の率直な感想だった。
「ただの覗きではないし――」
「ただの覗きは狙撃銃なんて携帯していないわよ」
突っ込みをどうも。もちろん、俺もわかっているし、彼女のそれも軽口である。
「テロリストというには、ちょっと組織がしっかりし過ぎているな」
異空間とはいえ学校を迅速に制圧した手並み。さらに標的と思われる俺の子供二人――偽物をさっさと連れ出している計画性からも、わかってはいたけどね。
「この監視は、支援役だ」
「同志の寄せ集めの配置ではないのよね。世界樹……なんだったかしら。環境テロリストの」
「この手のテロリストの裏には、何がしらの国や組織がついているものさ」
隠れ蓑とも言う。慈善団体、環境保護といいながら手荒な手段ややたら政治的にうるさいやつ、差別を助長するようなやつも、裏ではヤバいものがくっついているものだ。
それに共通するのは、やたら他者に攻撃的なところだ。寛容の心はどうした? 平和をのたまうやつが、争いの火種作ってるんじゃないよ。
「詳細な取り調べはこれからだが、世界樹解放同盟の仲間であるのは間違いないだろうな」
これで別組織はあるまいよ。
「で、世界樹解放同盟とやらは、例のサウス・カラビナス襲撃グループの化けの皮だな」
証拠はないが、ここまで軍事的に整っているんだ。ぞう思える。
「いったい何者なんだろうね。一連の事件を起こしている連中は」
どこかの国が絡んでいるのだろうか? 現状は、色々な人種の寄せ集めで、これといった繋がりは見えていない。
「今回の件で尻尾を掴めればいいのだけれどね」
グレーニャ・ハルは、別のモニターを指さした。俺の子供――エミールとリザベッタの偽物を誘拐する車両が、港町に入った。
「そのまま港で船に乗るか?」
「ポータルラインを使うかもよ?」
情報局局長は淡々と言った。国外とシーパングを繋ぐ外界とのアクセスポイント。その名の通り、ポータルを経由して一気に大陸まで移動できる。
「人質を乗せた状態で国境警備を越えられるか?」
検問はあるぞ、さすがに。密入国や密輸などに備えて。
「強引に突破するかも」
「派手なカーチェイスでもしていれば可能性はなくもないが、黙っていれば抜けられそうな状況なら穏便に国外に移動しようとするんじゃないか?」
わざわざ目立つようなことをしないようにしてさ。
さて、どこまで行く? 環境テロリストの皮をかぶった何者さん?
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