第1977話、立て篭もり数時間
五人の生徒を射殺した。
我々の本気を見せるために。
バローグは、何とも言えない顔をしていた。が、覆面で覆われているその表情は、誰にもわからない。
何とも嫌なものだ、というのが本音だった。
アミウールの子供を誘拐できれば、今回の作戦の最低限の条件はクリアされた。
最終的な目標は、ジン・アミウールにブァイナ金属製貯蔵庫の扉を開けさせる、もしくは開ける方法を聞き出すことではある。
その目的のために必要なものは手に入れた。いや入れつつある。それを確実なものにするために、バローグらは学校に立て篭もり陽動を務めている。
――果たして子供を殺す必要があったのか。
ふと考えてしまう。組織の目的のためならば、何人死のうとも関係がない――組織にいる者ならば、バローグのみならず、上司であるグーワィも部下たちも皆同じだろう。
しかし、つい今しがた殺した五人に意味があったのか考えてしまう。
最終的な目的を果たすのに必要な犠牲――本当にそうなのか? 任務の成功にあの五人はいてもいなくても一緒ではないのか。
つまり殺さずとも、目的に何ら影響は与えない。世界樹解放同盟が本気であることをわからせる――そんなありもしない偽装組織の何が本気だというのか。
迫真なところを見せる、と作戦計画段階で出た話である。凶悪なテロリストである演出というやつだ。……演出のために殺される子供。
計画段階、つまりまだ机上であった頃は、理想だの使命感に精神は高揚し、作戦上の困難な点を仲間たちとどう解決するか頭を悩ませた。そこで犠牲になる人質のことなど微塵も考えなかった。
だがいざ本番となり、殺される子供を選び、そして部下たちが射殺する様を見届けると、嫌な気分になるのだ。
現場で実行するのと、計画を練るのは違う。そんな当たり前を、任務のたびに思い知らされるのだが、後味の悪さは今回は格が違った。
妙なものだとバローグは思う。
無差別だったなら、この後味の悪さも多少はマシだったのではないか。殺していい人質には、事前に手に入れた生徒リストから、すでにある程度決まっていた。
平民出の子供。
つまり貴族でも王族でもない子供を、殺してもいい人質として予め仕分けていたのだ。それが何の意味があるかといえば、目的を果たすまで力のある貴族や王族からの報復の可能性を減らすためという、組織の身の安全を図るためであるというのだから、救いがない。
悪く言えば、命惜しさに殺す命を選び、反撃されない相手を選んだのだ。
目的を果たすために最善を取る。戦略的、戦術的には正しいのだろう。自分たちの果たすべき任務が果たせないのでは意味がない。
だが、そのために命の選別をするという行為を感情が受け入れるかは別問題である。正しいが間違っている。しかし手段を選ばないというのはそういうことでもある。
もし殺す人質が、貴族や王族の子であったなら、多少は胸のつかえが下りただろうか? 上流階級の者の子であれば、それが下級民を見下すような人格であったなら、喜んで射殺しただろう。良心が咎めることもなく。何とも現金なことだ。
もっとも、そうした感情と引き換えに、権力者による苛烈な報復にさらされる。子を殺された、それが自分の後継者であれば、その報復は苛烈なものとなるに違いない。それが面倒だから、身分で選べという命令が出ているのだ。
何ということだ。思考がぐるりと一周してしまった。バローグは顔をしかめる。あれだけ嫌な気分になったのに、仕方がないという結論に落ち着いてしまった。
「アミウールの子供たちはどうか?」
バローグは仲間に確認する。
「今のところは大人しくしているようです」
「そうか……」
拡声魔法で、表の連中に生徒の処刑を宣言し、そして実行した。その銃声ややりとりは、校舎の各教室にも聞こえたはずである。
才能あるアミウールの子たちが、義憤にかられて抵抗してきたら厄介なことになる。アミウールの子は殺してはならない――そう固く命令されているからだ。
理由は単純だ。報復でこちらが全滅する。
報復を恐れる者の筆頭が、標的でもあるジン・アミウール本人である。すでに子を二人誘拐されて頭にきているだろう。その上で他の子がこちらの手によって殺されたとあれば、交渉など望むべくもない。
速やかに、苛烈に、復讐してくるだろう。その展開は、ブァイナ金属貯蔵庫の扉を開けるという作戦目的が果たせないことを意味する。
作戦の失敗。すべては水の泡だ。
英才教育されたであろうアミウールの子供たちを、ただの学生と侮るなと作戦立案の段階から言われていた。事故でも殺せない相手となれば、こちらが不利になろうとも細心の注意を払う必要があった。
「……」
バローグは、教室の端に集められている人質の生徒たちを見やる。頭巾を被せられているためか大人しいが、違和感をいだく。
――大人し過ぎないか……?
武器を見せつけ、脅しつければ、大抵の者は言うことを聞くが、ここにはこうした荒事に備えて鍛錬してきた生徒も少なくないはずだ。アミウールの子だけではない。騎士の家の子、魔術師の子など、貴族以外にも様々な家から子が通っている。
最初の教室制圧の段階で抵抗した生徒や教師がいて、それらはすでに殺害している。その効果もあって、大人しくしているというのもあるのかもしれないが……。
「すっきりしないな」
抵抗しないにこしたことはないのだが、バローグの中の勘のようなものが、警戒を促すのである。嫌な予感がする、と。
・ ・ ・
「こっちは完全に持久戦だな」
俺は、異空間学校の様子をモニターしていた。グレーニャ・ハルが、自称テロリストの日常会話が聞きたいというから静観しているが、現在は特にこれという会話もなく、小康状態であった。
普通なら、生徒のトイレだったり、パニックを起こしたりとトラブルが絶えない状況なのだろうが、化けているシェイプシフターたちは非常に大人しく、役目を守っている。静か過ぎて怪しまれるんじゃないかと、逆に心配になってきた。
視線を転じる。別のモニターには、特殊部隊員が、現実空間の学校の周りに潜伏している敵性組織のスパイを狩り出していた。
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