第1976話、立て篭もりテロリスト
世界樹解放同盟を名乗るテロリストは、アポリト・ソフォス学校を占拠しているつもりで立てこもっている。
……俺たちの作った異空間に放り込まれているとも知らずに。まあ、知っていたら脱出すべくあらゆる手を尽くしていただろうけど。
連中にとれる手などほとんどないけどな。武器や魔法であの異空間をどうこうできまい。地底シェイプシフターだって逃げられなかったんだからな。
「俺の子供を誘拐した連中は追跡している」
俺は、シーパング情報局のグレーニャ・ハル局長を見た。
「学校に残っている立て篭もり連中……。君はどうしたい?」
情報局としては、例のサウス・カラビナス基地襲撃グループを追っている。このテロリストもその関係があると睨んでいるが、証拠はない。実はまったく無関係でした、という可能性もある。
「どうしたい、とは?」
グレーニャ・ハルは挑むように返した。私に何を言わせたいの? と顔に書いてある。
「情報が欲しいのはわかっている」
それが情報局の仕事である。
「ただ、全員捕虜にする必要はあるか?」
さらに言うなら、本物の学校を見張っている奴ら、生徒を連れ去った車両も追い掛けているから、捕虜候補の人数は二、三十人に及ぶだろう。
もちろん、全員捕まえるというのは口でいうほど簡単ではないが、例えば学校に立て篭もる十数人がいなくても、他で捕虜確保はできる。情報局が『何人』必要かにもよるが、余剰人数は、さっさと始末してまったほうが、面倒が減るというものだ。
「誰が何を持っているかわからないのよね」
グレーニャ・ハルは気怠げに言った。
「それにまだ確保していない段階で人数どうこう言っても。こう言ってはなんだけれど、逃走中の車両を見失ったり、発信機が途絶えて辿れなくなる可能性も考えれば、籠の中のテロリストさんも、当面生かして確保しておくにこしたことはないわ」
いらなくなれば、その時に考えよう、ということなのだろう。オーケー、それなら。
「全員確保する方向だな」
異空間の学校、それを包囲する部隊、人質役シェイプシフターにも、テロリストは殺さないように指示を出す。生きていれば、どう扱ってもいいよ。
「方針は決まった。いつでも制圧できるぞ」
俺が言えば、グレーニャ・ハルは妖艶に微笑んだ。
「あのテロリストたちだけれど、しばらく立て篭もらせておこうと思うのだけれど、どうかしら?」
「聞きましょう」
俺は腕を組んで椅子を回すと、彼女に向き直る。
「情報局としてはさっさと捕まえて、尋問したいんじゃないかな?」
「すぐに捕まえるのは、学校の外で見張っている連中ね。こいつらは捕まえたら、即尋問室に送るわ」
そちらは異空間の外、リアル空間である。連中が見ているのは本物の学校、本物の生徒だ。
ロケットランチャーは持っていないが狙撃銃は持っているようで、あれで生徒を狙撃とかされたら、せっかく異空間で突入した連中を隔離した意味がなくなる。最優先排除、確保対象である。
そちらの方はすでに確保のために動いているので待つとして……。
「立て篭もり班をしばらく泳がせる理由は?」
「あいつらが時間稼ぎの間に何を話すか興味ない?」
クスリと情報局局長は笑う。俺は苦笑する。
「テロリストの妄言に付き合うと?」
そもそも、例の同盟軍基地襲撃犯であれば、世界樹解放同盟に関係する言葉はすべていい加減なでっち上げ。聞いても意味もなければ、ためにもならないよ?
「聞くにたえないでしょうね。そちらのユーモアのセンスは期待していないのだけれど……彼らが仲間内で話す内容には興味があるわ」
つまり、俺たちへのアピールではなく、時間を稼ぐために仲間たちとやりとりする内容を知りたい、と。
「こちらが聞いていないと思って、本当の組織の内情や、そこでの行動について話すかもしれない」
「なるほど」
仲間内の会話は、時に尋問で得られるものより情報量が濃い。尋問だと抵抗されることも多いが、仲間内の会話なら素に近い態度、正直なものになりがちだ。警戒していないからな。
「下手に尋問室で問い詰めるより、情報が得られるかもしれないということか。まあ、いいんじゃないか」
異空間学校はこちらで封鎖しているから、逃げようがない。檻の中での会話をこちらが盗聴していると思えば、この立て篭もりテロリストごっこに付き合ってやってもいいかもと思える。人質役シェイプシフターも、聞き耳を立てて、連中のあらゆる会話を聞いているだろうしな。
まあ、そこまでユルユルな内容で話をしているとすれば、テロリストは生徒たちを最後に皆殺しにする気ってことがわかるわけだけど。組織の情報を知っている部外者を生かしておくわけないもんな。
「……おっと連中、動くぞ」
監視映像に、テロリストが学校校舎屋上に、人質生徒を連れ出すのが映った。嫌な予感がしてきた。
「何かを要求する気かな」
「人質を何人か殺すつもりかも」
「シェイプシフターでよかった」
屋上から突き落とされようが、銃で頭を吹っ飛ばされようとが、シェイプシフターは死なない。
声がした。拡声魔法を使ったテロリストが何かを言い始めた。
『――我々が本気であることを見せるために、生徒を5名処刑する! 要求が受け入れられない場合、1時間ごとに処刑する生徒の人数を増やす! 子供の屍を増やす前に我々の要求を受け入れるのだ!』
「シェイプシフターじゃなかったら、いますぐ射殺していた」
腹立たしい限りだ。本物の学校、本物の生徒だったなら、強行突入を早めるたげの行為であるが、偽物であるとわかっていても子を持つ親としては許しがたい気持ちになった。
ほんと異空間でよかった。
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