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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第二部

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1985/2032

第1975話、学校の表と裏


 アポリト・ソフォス学校は、警察と軍の車両に包囲された。

 陽動部隊のリーダー、バローグは、外からの狙撃を警戒しつつそっと窓から覗き込む。

 正面の校庭は、ほぼ無人である。防盾を手にした警察がバリケードを作り、その後ろにシーパング軍の歩兵が並んでいる。都市戦闘用に訓練された部隊だろう。


「思ったより軍の出動が早かったな」

「警察とほぼ同じタイミングでしたからね」


 覆面の部下が言った。


「警察が通報された時に、すぐに軍にも協力要請が出たんでしょうな」

「それだけではないぞ。同じタイミングだとしても、いつでも動ける状態でなければ、ほぼ同着などできん」


 バローグは鼻をならす。


「文字通りの即応部隊だな。だがそれでも早すぎる気がするが……」


 まさかこちらの襲撃を予め掴んでいた? いや、それならば突入の時点で待ち伏せることもできたはずだ。

 こちらが島に潜入したのをシーパング情報局が察知し、何らかの事件が起こると予想して待機していたのだろう。つまり、事件は起こるがそれが学校の襲撃であるところまではわからなかった、いうところだ。


 ――まあ、どちらでもいいさ。


 バローグは舌の先でその言葉を転がした。

 想定より早く軍がきたが、やることは、ここで暴れて連中の注意を引くことだ。幸い、捕虜を乗せた車は学校を離れている。後は時間稼ぎをするのみだった。

 部下がチラ、と外を見やる。


「まだ動きませんな」

「こちらには、人質がいる。安直な突撃はできないさ」


 すでに校舎正面入り口には、貴族出の生徒を人間の盾として十名ほど並べている。アミウール家の子も一人混じっていたと思うが、そういう要人の子を爆弾とセットで置いておけば、強行突入はできないはずだった。


 ちら、とバローグは教室を振り返る。その一角には生徒たちが座らせてある。武器を手にした部下が立って見下ろしていて、生徒たちも迂闊に動けない。

 もし愚かにも反抗しようとするならば、座っている子供側は、立ち上がるという動作が必要になる。そこを戦闘員が狙い撃つ。どちらが早いかは言うまでもない。


 こちらはまだ何とかなりそうだが、作戦全体としてはどうなっているのか。目的の子供たちはちゃんと送り届けられたのか。ここにいたのではわからない。


「外部との連絡は取れるか?」

「駄目ですね。妨害されているのか、ウンともスンとも言わないです」

「ふむ……」


 通信妨害であれば、外部と交信できないのはわからないでもないが、問題は誰が妨害しているか、である。

 こちらのことを、ただの武装組織と見るなら、わざわざ妨害してくる意味とは? 学校外にも仲間がいると、軍ないし警察は考えているということか。

 どこまでこちらのことを把握しているのか。大いに気になるところではある。


 シーパングはテレビやラジオと言った媒体が、他国に比べて発達していて、そこから拾える情報も多い。学校に武装集団が立て篭もりともなれば、どこかで報道していてもおかしくない。……そこから警察や軍の動きもある程度わかることもある。

 それを外にいる味方から知らせてもらえれば、こちらの時間稼ぎにとっても役に立つのだが……。通信ができないのでは、そちらからのカンニングは期待できない。


『あーあー、アポリト・ソフォス学校に立て篭もる武装勢力に告ぐ!』


 拡声器を通した声が表から聞こえた。警察か、はたまた軍か。


『ただちに人質を解放し、武装を解除して投降せよ』

「……お決まりですな」


 部下が薄く笑った。バローグは喉元をさする。魔力を操作し、拡声魔法を使う。


『我々は「世界樹解放同盟」である!』


 覆面の部下が、吹き出しそうになった。バローグは一瞥すると、芝居を続けた。


『我々は、シーパングの世界樹独占を許さない! 世界樹は世界共通の資源であり、一国の独占は……』


 何だっけ、とバローグは部下を見たが、その部下は首を横に振るだけだった。


『我々は、シーパングの独占と断固戦うのである! ただちに世界樹を解放せよ! それが確認されたのち、人質は解放する!』



  ・  ・  ・



「……などとのたまっているが」


 俺は、犯人グループの声明を聞き、腕を組んだ。


「まあ、時間稼ぎだな」


 そもそも世界樹を解放とはどうしろというのか? あの下手な集落よりぶっとい大木を動かせというのか? どうやって? ……まあ、やろうと思えばできるけど、連中がそれをできるか知っているかは疑問だ。


 というより、彼らにとって、できるできないは関係ないのだろう。無理難題をふっかけて、膠着状態を作るのが目的だ。

 すでに必要な人質は、校外に連れ出しているのをこちらは把握しているんだからね。


 グレーニャ・ハルが俺の耳元に顔を近づけて、同じモニターを見る。そんなことしなくても見えるのにね。


「外と接触できないのだから、早々に始末してしまってもいいのだけれどね」

「まあ、本気になれば鎮圧するのは容易い」


 彼らは、学校を掌握しているつもりだが、そんなことはない。すでにこちらの手の者だらけ。

 そもそもの話をすれば、彼らは、俺とディーシーさんが作った架空の学校にいて、それをアポリト・ソフォス学校と思い込んでいる。


 十年前の、地底シェイプシフターを地上に持ち込まないように作った異空間を参考に、学校と繋げて、時間外――つまり授業中や夜だったりに校舎に侵入したらそちらに行くように仕掛けておいたのだ。

 立て篭もりグループが外部から切り離されているのは、つまりそういうことだ。本物の生徒たちは、普通に学校にいて、普通に授業をしている。別空間の学校で起きていることは知る由もない。だから休憩時間に俺に電話がかかってきたわけである。


 ただまあ、こっちの陽動部隊は、もう適当に遊んでもよかったりする。連中が人質と思い込んでいる生徒たちは、全員シェイプシフターなのだから。

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