第1971話、襲撃開始
学校に近づくまで、特に問題となるものはなかった。ワンボックス型の魔法自動車五台は、シーパング島の道路交通法を守り、安全運転でアポリト・ソフォス学校の裏門――教師や業者の車両が出入りするそれに乗り込んだ。
そして校舎裏の資材搬入口近くに乗り合わせ、そこから一気に車から覆面をした武装した兵が飛び出した。
一班が車を盾に周囲を見張り、残りが二つのグループに分かれる。片方が校舎の外側から壁づたいに移動。もう片方は搬入口から中に侵入した。
そこで食堂のランチの準備のためにきた職員と出くわす。
「うわっ、何――うあっ!?」
覆面男は容赦なく魔石銃を撃ち込んだ。倒れた職員を避けて、男たちは先に進む。覆面男の一人が、通りハンドガンで倒れている職員の頭を一発撃った。確実に始末したかの確認である。
退路の確保と、万が一生きていて通報されても困るのである。
覆面兵たちは迅速に校内、そして校舎外を進んでいく。今は学校は授業の時間で、生徒は教室にいる。
だから、彼らは目的の場所へ迷うことなく突っ込んだ。校内の構造は把握している。全員が事前に予行演習し、みっちり頭に叩き込んでいたのだ。
彼らはさらに分かれる。高等部と中等部の生徒がいる校舎へ。校舎間通路を使って校舎に侵入すると、階段を駆け上がり、目的の教室の前に到着すると勢いよく扉を開けた。
「!」
生徒たちは突然の轟音にビクリとし、戸の方向を一斉にみた。踏み込む覆面男たち。
「動くな! 動くと射殺する!」
魔石銃を発砲する。生徒たちは悲鳴を上げて、身を低くしたり、あるいは席から転がり落ちた。
恐怖。混沌。覆面で顔を隠し、武装した男たち。それがいかに正常なことではないか。貴族出の令嬢や富豪の娘らが叫び、それは聞くものを震わせ、心臓を鷲掴みにした。
その時、教室中にけたたましい警笛が鳴り響いた。あれだけ崩壊しかけていた室内が、笛の音で静かになった。
教師か、はたまた警察か。普段ホイッスルを使う人間がどういうものか感覚的に知っている生徒たちは、それでパタリと静かになった。あまりに大きな音が聞こえると、黙ってそちらに注目してしまう習性が人にはあるので、そちらが正しいのかもしれない。
だが、笛を鳴らしたのは教師でも警察でもなかった。覆面男は笛を下ろし、そして腹の底から聞こえる声で言った。
「我々はこの学校を制圧した! お前たちは人質である! 大人しくしていれば死なずに済むかもしれんが、逆えば最悪死ぬことになる!」
「お前たち、一体何の――」
教壇の教師が声をあげた瞬間、覆面男の一人が剣で斬りかかった。
「ぐあっ!」
「キャーッ!!」
女子らが新たな悲鳴を上げる。覆面男は野太い声を出した。
「逆らえば死ぬと言った! 貴族や王族の子供とて例外ではない。無事に返りたければ黙ってこちらの指示に従え!」
しんと教室が静まり返る。覆面男は生徒たちを見回す。
「よろしい。では、お前たちをグループ分けをする。王族、貴族と、それ以外の二つだ。さあ、手早く分かれろ。死にたくなければな!」
・ ・ ・
「――で、ありましてぇ、今日から二週間前後の限定ですが、こちらのニーゴ・パトリアさんが、こちらのクラスに転入となります。――ニーゴさん」
担任教師が促し、女子制服姿のニーゴが一歩前に出た。
「ニーゴです。短い間ですが、どうぞよろしく」
銀髪ショートカットの美少女の挨拶に、クラスメイトらがざわついた。
「では席ですが、先ほども説明しましたがカミラ・シードウさんが家の都合でしばらくこれなくなっていますので、その席を当面ニーゴさんが使うことになります。では、ニーゴさん、あちらの空いている席へ」
「はい」
ニーゴは、そちらへスタスタと歩く。そわそわするクラスメイトをよそに、彼女はリンの隣の席にやってきた。
「よろしく、リンちゃん」
「あー、はい。よろしく――」
リンは窓際の席だが、その右隣の席が、カミラ・シードウの席であった。――都合よく、学校にこられなくなった? 本当かなぁ。
怪しい。都合がよすぎないだろうか。転入生がやってきた日から、クラスメイトが入れ替わるようにいなくなる、というのは。
――パパが何かしたのかしら……?
ぼんやりと思いつつ、リンは校庭へと視線を向ける。ニーゴの転入の件を除けば、今日もありふれた一日になりそうだ。ホームルームから授業になって、静かな時間が訪れる。
そういえば朝、市内で火災がどうとか言っていたけど、どうなったのだろうか……?
・ ・ ・
学校内に、時々銃声が響いた。生徒たちの反抗に対する処罰の執行か、はたまた威嚇か。それらが聞こえるたびに生徒たちは萎縮し、不安な顔になる。
覆面男たちは武器で、そのクラスの生徒を威嚇しつつ、窓際から学校外の様子を眺める。
突入班のバローグは、部下からの報告を聞く。
「エミール・アミウール、リザベッタ・アミウールの確保に成功しました。ただいま車へ搬送、間もなく出発できます」
「急がせろ。予定より遅れている」
バローグは窓際に振り返る。
「外の様子は?」
「警察車両は現れていません。どうやら通報はされていないようです」
でなければ、学校は急行した警察車両に包囲されていたかもしれない。
「生徒……特に貴族のガキを殺したりはしていないな?」
「そのはずです」
もし傷つけでもしたら、こちらの討伐に、どれだけの追っ手がかかるかわかったものではない。地底シェイプシフター制御装置を手に入れ、計画が発動するまでは、余計な邪魔者が現れても困るのだ。
「他のアミウールの子らはどうか? 抵抗していないだろうな?」
「今のところは大人しくしているようです。ま、所詮は子供でしょう?」
「侮るな。情報によると長女のリンは戦闘機パイロットであり、魔法の成績も優秀だ。ラッタら14歳の四人は、最近冒険者の資格を取得したという。素人だが戦う力はあるのだぞ」
これだけの騒ぎを起こして、すんなり行けばいいが、アミウールの子供たち――年長組が牙を剥いてきたら、たとえ返り討ちにできても被害は免れない。
「このまま大人しくしてくれればいいんだがな……」
目的の子供二人を連れ出した後、しばらくは陽動として学校占領を続けねばならない。
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