第1970話、朝から騒動
シーパング島。その日、プリームム市内において火災が発生し、騒々しい一日が始まった。
消防が出動する一方で、警察署に、火災が爆弾を使ったテロであるという犯行声明が届いた。ついで、世界樹近くの展望台にも爆弾を仕掛けたという予告も一緒に。
朝から忙しいことだ。
シーパング大公である俺のもとにも、この報せは届いた。
「この平和な町にテロね……」
これまでこういうことはなかったんだがね。シーパング同盟情報局のグレーニャ・ハル局長と朝からテレビ、もといホログラフィック通話。
「……具合が悪そうだが、大丈夫か? グレーニャ・ハル」
『朝は弱いのだわ。低血圧』
吸血鬼さんは朝に弱い、と。でもこの世界の吸血鬼は、別に日中出歩けないわけではないんだけどな。
「それで、そのテロリストというのは?」
『「世界樹解放同盟」と名乗っているわね。シーパング島は、世界樹を独占せず、世界に向けて解放すべき、とか声明文には書かれているのだわ』
初めて聞いたそんなの。そもそも――
「世界樹はアポリト文明時代の遺物であり、そのアポリト文明を継承しているシーパングにその保有権はある。独占うんぬんではなく、もともとアポリトのものだろうに」
何せシーパング女王は、アポリト文明の女王だったんだからね。その女王に世界樹の保有する正当性はある……という建前。
『それをそのアポリト文明時代の私に言うの?』
グレーニャ・ハルは皮肉った。俺は首を傾けた。
「で、この世界樹解放同盟という組織について、情報局はどこまで把握しているんだ?」
『いいえ、まったく』
局長は肩をすくめた。
『今日の犯行が行われるまで、そんな組織が存在していたなんて知らなかった。同盟各国の諜報機関にも問い合わせてみたけれど、第一報の段階で、どこも聞いたことがないし、その組織がどこかでテロを仕掛けたという話もない』
「同盟外では?」
『昨今のテロに、その組織が関わった形跡はこれまでなかった。そもそも世界樹をどうこうするつもりのテロリストなら、それがあるシーパングしか攻撃しないと思うのよ。だからよそに当たっても、めぼしい情報はないでしょう』
それもそうだ。世界樹はシーパング島に全て揃っているもんな。
「世界樹解放同盟、ねぇ……」
『なに?』
「案外、それが例のサウス・カラビナス基地を襲撃した連中の正体だったかもしれないな」
ダミーではあるが地底シェイプシフター制御装置を奪おうと、ブァイナ金属製貯蔵庫ごと強奪した謎の武装勢力。シーパング同盟とその情報局が足取りを追うも、その正体が掴めなかった連中である。
『どうして、そう思うのかしら?』
「勘、というか、ここ最近の事件を考えた時、そいつらが浮かんだ」
俺は腕を組む。朝の爆破、そして世界樹展望台の爆破予告。警察、消防、そして軍の目がそちらに引きつけられている。
「どうも陽動くさいんだよな。他が手一杯のうちに本命の攻撃を仕掛ける腹積もりではないだろうか」
『本命とは?』
「アポリト・ソフォス学校」
俺は時計を確認する。すでに生徒たちは授業に向けて通学している時間帯だ。気にいらないな、この時間を見計らったようなタイミング。
「アポリト・ソフォス学校への不審者侵入を、世界樹解放同盟と名乗っている連中の下見であったとするなら、町が浮ついている今、行動しやすくなっているだろう。お巡りさんは、展望台の爆破予告の方に人員を割かれているしな」
『あなたの推測でしょう? 証拠はないのだわ』
グレーニャ・ハルは冷静に告げた。
『いろいろと強引でもある』
「まあ、そうなんだけどね」
もっともではある。だが俺はニヤリとするわけだ。
「準備はできている」
・ ・ ・
学校に着いてから、リンは自分の周りがざわついていて、落ち着かなかった。
その原因は、ニーゴだ。
朝、母アーリィーから。
『ニーゴは、今日からしばらくあなたと同じクラスで学校を体験するから、面倒をみてあげてね』
え?――である。そんなの初耳だ、と抗議したら、アーリィーは異世界料理であるフレンチトーストを用意しながら言った。
『もう知ってるものかと』
『いやいやいや、聞いてないって!』
『ニーゴに聞いてなかった?』
『聞いてないって!』
とか問答していたら女子制服姿のニーゴがやってきて『ごめん、伝えそびえっちゃった』と詫びた。
お、おう、可愛いじゃないか――と面食らうリンだが、どうやらニーゴが昨日勉強しているリンのところに突然現れたのは、その短期間転入の件を伝えるつもりだったらしい。それをパーソナルスペースがどうのと話して、さらに性別変化でそれどころでなく、その後は、ルマとジュイエを中心に姉妹兄姉で盛り上がって、さらに話どころではなくなった挙げ句、今日に至るのである。
かくて登校し、付き添いのサキリスがニーゴを連れて、職員室に行くまでリンは一緒にいて、目撃した生徒たちが、ざわついたわけだった。
あとでクラスにやってくるとニーゴと別れて、教室に言ったらさっそくクラスメイトに包囲されるのである。
「リン! あの子誰!? 転校生!?」
「滅茶苦茶可愛かったけど、知り合い? どういう関係?」
「うっさい!」
まわりの声が重なり合って、判別が難しくなったので、一喝して黙らせる。
「落ち着きなさいって。見ての通り、一時的な転入扱いで、たぶんこのクラス。どれくらいいるかはあたしも知らないから、ホームルームで先生が教えてくれるんじゃない? 以上!」
後はそっちで聞いて、とリンはさっさと自分の席へと移動した。王子のボルク・ヴェリラルドと親友のアグナ・シェードが待っていた。
「言わないわよ、話は後」
聞きたそうな二人に釘を刺し、リンは腕を組んで顔をしかめるのだった。
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