第1969話、銀髪のお姉さんがいいのです
ニーゴが女性化した。それは俺たちの家、アミウール家の子供たちの間では衝撃的だったようだ。
男子は、直視できないのか目を逸らす者、ガン見する者に分かれた。思春期の子たちに、ニーゴの美少女姿は刺激が強かった。
美少女っぷりでは、うちの女子たちも負けてはいないけど、普段から兄弟姉妹として見慣れてしまっている今だと、新しい子が現れればまた様子も変わるというものだ。
少女ニーゴは姉妹たちに取り囲まれて、話題を独占することになる。ニーゴが性別だけでなく、髪の長さも自在に変えられるとなったら、もう歯止めがきかなかった。
それで始まったのは、ニーゴのコスプレ・ショー。色々な衣装を着せて、女子たちがキャイキャイ騒いでいるわけだ。
男子として活動していたニーゴを知っているくせに、体は女子で男装させるとか、まあ本当に色々試されていた。
俺も見せてもらったけど、同じ男装でも髪の毛の長さでだいぶ印象が変わる。長髪で、服だけ男装美少女も捨てがたいが、ベリーショートにした時のキリリとした佇まいは、本当に男装の麗人、王子様だった。
俺もアーリィーがかつて王子様だった頃を知っているけど、顔が可愛い系だったから、この麗人は目新しかった。
「……しかし、着せ替え人形じゃないんだからさ」
ニーゴは本当に色々な衣装を着させられていた。髪の長さで差分を撮られているんですが、これ。
女子高生制服一つでも、女子に人気の王子様もあれば、深層の令嬢感とか凄かった。でも三つ編み眼鏡っ子はあまり似合ってなかった。髪が銀色だからだろうか。三つ編みだけなら普通にいけたのだが。
では眼鏡が合わないかというのかと思えば、衣装によっては全然合っていた。白衣とか教師風とか……。組み合わせって大事なんだな。
さて、姉妹兄姉たちの反応だが、リンは最初に体験していたせいか、周りから引いた位置から見守り、時々気にいったのがあるとガン見していた。何か葛藤しているらしく、時々机を叩いたり、顔を覆ったりしていた。
次女のリュミエールは時々、他の姉妹に促されてニーゴの隣で同じく着せ替えに参加させられていた。銀髪同士というか、双子ではないけど姉妹みたいな形で並ばされていた。
長男のラッタは、こういう場から距離をとるタイプだが、気になるのかチラチラ見ていた。
ジュワンとユーリは、ボードゲームをしながらニーゴが新衣装で戻ってくるたびに見て、何か二言、三言話をしていた。こいつらは批評家でも気取っているのかね。
三女レオナは、比較的近くでコスプレを見ていた。割と楽しんで、適度にコメントを挟んで場の空気を繋いでいる感じだ。
そしてルマとジュイエ、この二人がこのコスプレショーを演出しているといってもよく、衣装や髪の長さ、ポーズとかリクエストして、写真を撮っていた。この二人がいなければ、ここまでにはならなかった。
四男のエミールは、読書をするフリをしながらチラチラとショーを見ていた。異性との立ち位置にやたら気にする年頃らしく、恥ずかしいのか部外者ぶっている。
六女リザベッタ、七女アリーシャは、純粋にギャラリーであり、レオナ姉さんの近くでニーゴのコスプレを見て、ときめいたり楽しんで素直に反応していた。
最後に末っ子のシエルだが……。彼は男子ニーゴには、この部外者め、という態度だったのだが、女子ニーゴに対してはガン見する者となっていた。最初はニーゴの隣でコスプレしている姉、敬愛するリュミエールのことを見ていたのかと思ったが、そうではない様子だった。
そして、そんなシエルは、夕食の後、俺に個人的な相談をしてきたのである。
・ ・ ・
「この気持ちが何なのか、よくわからないんです」
十歳を控えた末っ子シエルは、神妙な調子でそう言った。礼儀正しいリュミエールの弟ということもあるのか、俺に対しても敬語で話すんだよな。
「ニーゴさんを見ていると……こう、胸が苦しくなるんです」
「それは、恋か?」
女子化したニーゴのあまりの可憐さに、一目惚れしたのかな。
「恋! なのですか?」
ショックを受けたような顔になるシエル。いや、そうなのと聞きたいのはこちらなんだが。……まあ彼にとっては初めてのことなのだろう。わからないのも仕方がない。
しかし、あれだけ同じ部屋にいるのも警戒していたのに、性別が変化しただけでこうまで変わるものなのか。
あれかな、リュミエール含め姉たちに、見ず知らずの男が近づくのは嫌だけど、同性の場合はオーケーとかいう心理。
昔聞いた説では、息子は母に、娘は父に対して初恋に近い感情をいだく傾向があるという。別に初恋がそれ、ではないのだが、息子は母に近づく男を警戒し、娘は父に近づく女に警戒する、というものらしい。
シエルは姉、特にリュミエールに容姿のいい男が近づくのを嫌がっていたと考えれば、まあわかる。
そして姉の友人のお姉さんに恋心を感じたりするのもまた、よくある話というべきか。
ニーゴは男でも女でも顔がいいからな。まあ、異性からしたら惹かれるのも無理もない。
「お父さん?」
「正直、よくわからないのだろう?」
はい、とシエルは胸を押さえる。
「ドキドキしてしまうのは間違いないです。あの人を見ていると体温も上がっているような……」
風邪かな? と、すっとぼけるのも悪いか。純粋なシエル少年をからかうような状況ではあるまい。冗談も、時と場合によるのだ。
ま、俺は医者ではないが、苦しいなら治癒魔法をかけようか。本当に病気やらが原因ならそれで治るし、そうでないなら治癒も無駄に終わる。それで恋愛うんぬんもはっきりするが……それも野暮だよな。
「一時の感情のブレという可能性もある」
あまりに美人過ぎて、目が離せないということもある。だが美人は三日で飽きるというし、それで収まるならその程度。それでも募るものがあるなら、本物だろう。そして結論はその時に下せばいいのではないか。
よくないのは、勘違いして暴走すること。クールダウンして見つめ直す時間はあったほうがいいだろう。
「とりあえず、今日はもう寝たら?」
一晩寝ると、案外すっきりするものだよ。
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