第1967話、襲撃作戦
シーパング本国は、かつてはどこにあるかわからない島であった。だが同盟が発足して、いつまでもその場所を秘匿するには難しく、また国家間のやりとりとしてフェアではない。そういう事情もあって、今では島の位置は表向き同盟内には公表されている。
同盟に所属する国からなら、旅客機などが出ていて行き来することもできる。ポータルラインという移動手段もある。
グーワィたち武装組織は、少数に分かれて旅行客などに扮して、シーパングに入国していた。
借りた事務所を秘密拠点とし、彼らは活動している。
「――アポリト・ソフォス学校の周辺には、監視の使い魔とセンサーがあります」
ラフな格好をして一般人に扮した戦闘員は報告した。
「正規の入り方をしない場合、つまり塀を越えようとした時点で、すぐに通報される仕組みです。学校の警備員は即時反応していました」
貴族の子どもたちが通う学校である。反応の速さはさすがというところか。
「警察の反応は?」
グーワィがたずねると、別の戦闘員が口を開いた。
「三分以内に、車両が到着しました。おそらく町をパトロールしている連中でしょう。本部に動きがなかったので、学校の警備員と駆けつけた車両からの報告で、出動しなかったものと思われます」
「もう、二、三、どこかで騒ぎを起こしたほうがいいか?」
「警察の練度と警戒の度合いを見るためには、やる価値はありますが――」
「あまり不審な出動を繰り返させると、その分、警察の対応速度を早めてしまう可能性があります」
幹部のバローグが発言した。最近、不審な事件が多いと警察が感じれば、即時対応できるよう、日常シフトとは別の警戒シフトにつかせてしまう可能性がある。
「そうなると、本番の行動でも、警察が想定より早く学校についてしまう恐れが出てきます」
「通報させなければ、警察とてすぐには来ない」
グーワィは、机の上のアポリト・ソフォス学校の見取り図を見下ろした。
やりたくはないが、ブァイナ金属の秘密を知り、強奪した貯蔵庫を開けるため、その鍵となる人物の子供を誘拐する。
プランはこうだ。出入りしている食品業者――食堂で扱う食材を搬入する者たちに擬装し、学校敷地内に侵入。裏手から校舎に入り、対象のジン・アミウールの子がいる教室に踏み込む。
目標を連れ去る組と陽動組に分かれ、対象の子供は業者の車に乗せて脱出。陽動組は学校をジャックし、他の生徒を人質にし、警察や出てくるだろう軍を牽制する。学校で敵の注意を引いている間に、アミウールの子を連れ出した誘拐組は、待機させている船に乗って国外へ脱出……という流れだった。
それぞれの脱出方法については手配が済んでいるので、後は細かなすり合わせと、実行日時を決めるのである。
「――以上が、大まかな流れだが、何か意見がある者は?」
作戦成功のため、懸案や疑問を出し合い、それについて潰していく。まだ作戦前の最後のブリーフィングではないので、いくらでも修正ややり直しができる。
それぞれこうした特殊なテロまがいな工作任務はこなしてきた。経験からそれぞれ意見が出て、問題を一つずつ潰していく。
「――警察戦力であれば、強行突入してきたとしても、小人数で対処できましょう」
「生徒を盾にできれば、敵も易々と踏み込めないはずだ。何せ、貴族や有力者、王族の子までいるからな」
グーワィの言葉に兵たちは頷いた。バローグは言った。
「その分、陽動部隊は、脱出の隙間なく包囲されるでしょうな」
「奴らにしたら、人質を連れ出され行方がわからなくなるほうが怖いからな。万が一にも逃げられないように固めるだろうさ」
それで子供が行方不明にでもなったら、いったい何人のクビが飛ぶことになるだろうか。校長はもちろん、包囲する警察の責任者にも影響するに違いない。
武装組織の攻撃を許したとあれば、シーパングの国防責任者や政府幹部にも厳罰の手が伸びるかもしれない。
それは生徒を殺された場合も同様で、犯人グループであるこちらへの報復や追撃は徹底的になる一方、子を失った有力者が責任者に対して追及し、やはり政治的問題にまで発展するかもしれない。
「同盟の結束、政治問題にまで発展するなら、学校を襲うというのも割と間違った標的ではないな」
グーワィたち組織の今回の作戦は、人質確保からのブァイナ金属の秘密の入手。それ以外のことは二の次であるが、地底シェイプシフターの制御装置を手に入れた曉には、世界を敵に回すことになり、それはシーパング同盟軍と戦うことにも繋がる。
遅かれ早かれ敵となるのだから、今のうちに敵の裏側を混乱させ、その内部を不仲にさせられれば、戦いとなった時に利用できる。
「ですな。しかし、不安はあります」
「何だ?」
「ジン・アミウールの存在です」
その戦闘員は言った。
「奴は転移魔法の使い手です。子供の危機とあれば、文字通り飛んでくるかもしれません。もし、我々が人質を運び出しているところに現れでもしたら……」
「子供を人質にしろ」
同僚が、なにを当たり前のことを、という顔になったが、その戦闘員は返した。
「いや、ジン・アミウールと対峙して、人質交渉する間もなく襲われたらどうする?」
「確かに」
バローグが顎に手を当て考える。
「もし人質を抱えた者の背後に転移してきたら、その場でやられて奪回されてしまうかもしれない」
「人質というのは動きを止められたら勝ち。ですが相手が聞く耳を持たなかったり、速攻で動かれると、効果は薄いですからな」
「しかも相手は百戦錬磨の英雄魔術師……。人質が通用するのか……」
「おい」
それは作戦の根幹すら揺さぶるほどの懸念だ。そもそも人質を利用してアミウールからブァイナ金属の秘密を手に入れようとしているのだ。人質が通じないなど、本末転倒である。ここまでの苦労が実行前に水泡に帰してしまう。
「いくらジン・アミウールでも、襲撃のわずか数分で……」
グーワィは言い掛け、しかし転移であればその数分でも駆けつけられてしまうのではないかと、嫌な想像をしてしまった。
「いや、奴に連絡がいく前に人質を得て連れ去ればいいのだ」
「そうなると、如何に通報を遅らせるかが鍵になりそうですな」
バローグが言い、戦闘員たちは首肯した。検討は続く。
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