第1963話、映画界隈と魔術師
「――ふーん」
「どうしたの?」
パンフレットの裏に書いてあった文面に思わず声を出したリンに、傍らにいたニーゴが口を開いた。
こちらの字が読めないというニーゴのために、リンは代読していたのだが、ふとある一文に目が行ったのだ。
「ここにね、役者養成学校の募集があってさ。ちょっとね」
「ちょっと?」
覗き込むようにニーゴは顔を近づけた。
「魔法を使える人材を募集してるって書いてあるのよ」
「魔法?」
「あー、魔法って言うのはね」
リンは簡単に説明する。魔法を語らせたら兄弟姉妹でリュミエールかラッタで、特に長男は教えてと言われたら魔法の歴史から聞いてもないのに教えてくれる。リンはそこまで詳しくはないが、一応、アミウール家の長女として学んでいるので、ニーゴに魔法について概要を教える。
「鉄星には、魔法はないの?」
「魔法……という呼ばれ方はしていないけれど、超能力という言い回しなら近いかもしれない」
「超、能力……ふうん。ニーゴは使えるの?」
「少し」
美形の少年は微笑んだ。
「リンは?」
「少し」
学校ではむしろ使える魔法の種類ではトップレベルではあるが、世界の広さからすれば全然だろうとリンは考えている。これも父ジンやベルさんの教えの影響もある。
「それで、リン。この募集の何が気になったの?」
ニーゴは尋ねた。目に留まるからには、何かが引っかかったのだろうと考えて。
「役者界隈と魔法使いが、どうにも結びつかなかったから」
どうして魔法が使える人を採用する項目があるのか。リンにとっては意外であった。
――それにしても、この子、顔近っ!
すぐそこまで近づいていることに今さらながら気づく。小さなパンフレットを一緒に見ていれば、自然と近くなってもおかしくはないのだが。
――美形なんだよなぁ。
そうは言っても、人にはパーソナルスペースがあるのだ。
「それはエフェクトだな」
唐突にクルフが声をかけてきた。ジンと話しながら、ふとリンたちの声が聞こえてきたのだ。
「最近はコンピュータグラフィックスといって、機械文明時代の映像効果がチラホラ見られるようになったけれど、それらはまだ普通に映画を作るには高いのでね。爆発だったり、雨だったり、派手なアクション映画では、そういう特殊効果は、魔術師の魔法でやっていたりするんだよ」
「へえ」
個人的に派手な映画は好きなリンは、その製作の裏話に関心があった。
「じゃあ、魔術師にとって映画界隈って意外に需要があったり?」
「普通に役者として採用される場合もあれば、特殊効果や小道具、大道具など、魔術師は歓迎される人材だね。若い魔術師やそれを辞めた術者の再就職先としてはメジャーだったりする」
人力部分を魔法で補ったり、だいぶアナログではあるが、リアリティのある画を撮影するのに魔法はあれば便利であり、大抵のスタジオでは専属の魔術師を雇っていた。
「意外……」
「リンちゃんも、興味があったら映画界隈を進路にするのも悪くない選択肢だよ」
クルフはウインクすると、ジンに向き直った。
「彼女なら、俳優もいけるのでは? ルックスがいい」
「アーリィー譲りなんだ。美人なのは当然だ」
しかしジンは苦笑である。
「ただ、ゴシップのネタは勘弁してほしいな」
ジン・アミウールの長女、銀幕デビュー――知名度で本人の実力以上に推されて、スターの仲間入りしてしまうやつ。
映画界ではないが、権力というかコネというか、話題になりそうなネタが後押しして、同業から妬みを買う展開まで想像できるジンであった。
知名度ありきでゴリ押しは、反発もまた大きいのだ。そしてそれは本人がたっぷり利用するくらい強かであれば、芸能界でも生きていけるかもしれないが、現実と周囲の目のギャップに苦しんで悲惨な最期を迎えるパターンもあって、あまりいい想像ができなかった。
後ろ向き過ぎるかな、とジンは自嘲するのである。
「それで、ブァイナ金属の件だが――」
「ええ、そうでした。とりあえず世界樹があった場所に、まだまとまった数が放置されている件でしたね」
アポリト島が大地に落ちた時、世界樹のあった辺りにはブァイナ金属で囲われた地下都市や施設があった。
初めは、その中にいくのも苦労したのだが、今となっては懐かしい思い出である。ジンは言った。
「懐かしさで言ったら、お前のほうが強いかもな」
何せアポリト魔法文明時代の人間であるクルフである。アポリト島は彼の出身。いわば故郷である。
もっともその島は分割して地面に落ちて、世界樹はシーパング島に移動しているが。
「たぶん見つかると思うけど、ブァイナ金属の採集や加工はどうするんだ?」
「ご心配なく。そちらの知識はありますので」
「シーパングから盗んだんじゃないだろうな?」
ジンが挑むように確認すれば、クルフは肩をすくめた。
「私は、アポリト魔法文明時代にいたんですよ? あの金属はそもそもあの文明の技術ですから、ちょっと記憶を辿れば解に辿り着けます」
「あー、そう。ならいい」
予め知っているのなら、仕方ない。ジンは頷くと、クルフは言った。
「もし予定がなければ、一緒に行きませんか?」
「何を企んでいる?」
「映画のネタや参考資料になるかも、と思って。あなたはまだSランク冒険者でしょう? 冒険者の探索技術を生で見れるチャンスかも」
「ちゃっかりしているよ、お前は」
ジンは呆れる。だがふと、リン、そしてここにいないラッタたち14歳組を思い起こした。
「こういうところで経験を積ませるのもいいかもしれないな」
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