第1962話、ブァイナ金属を手に入れる話
クルフが唐突にブァイナ金属が入手できないかと尋ねてきた。ほんと、唐突過ぎるだろう。
「手に入れてどうするつもりなんだ?」
その使用用途は? もう十七年も前とはいえ、君は大皇帝で、大陸に戦争をまき散らした。
ここのところ大人しいとはいえ、まだ過去について忘れていない者も多い。公にはクルフ・ディグラートルはあの戦争で戦死したことになっている。だが不老不死者の気まぐれというのを俺は憂慮するわけだ。
「さっき行った外宇宙航行用の宇宙船の外殻装甲や、動力に使いたいんですよ」
クルフは何の躊躇いもなく、そう答えた。隠し立てすることなど何もないと言わんばかりである。
「そう繋がるわけな」
民間と同盟関与の共同製作の都市宇宙船計画。……それとは別のところで自分用の大開拓船を作りたい云々。
「てっきり、例の宇宙戦艦でも作るのかと思ったよ」
ほら、ハルバートだっけ? クルフ監督のアニメ映画作品の。
そう言ったらクルフはこれ以上ないほどの見事な苦笑をしてみせた。どう反応したらいいか迷うような顔だった。
「ハルバート!」
パンフレットを読んでいたエミールが顔を上げて、目を輝かせた。
「リアルハルバートを建造するの!?」
熱心な信者がここにいた。映画の中の宇宙戦艦をリアルで作るとか、ファンからしたら夢のような話だ。
俺の元いた世界で、沈没した戦艦大和を復活させる、みたいな話だもんな。そりゃあファンは喜ぶだろう。
……映画の中とはいえ、民間で軍艦を作るのはヤバいが、そこは武装は張りぼてで、あくまで民間船として作れば、金と資材さえあればやれなくはない。俺だってやろうと思えばできる。
法的にどうだったか、ちょっと覚えがないが。
「ハルバートって、ブァイナ金属を使ってる設定だっけ?」
エミールに話を振ってみれば、ファンボーイは頷いた。
「外部主要防御帯と、ヴァイタルパートに使われているよ」
オタク君はすぐに専門用語を使いたがる。僕はこういうことも知っているよ、と他のファンよりも深い知識を持っていることの無意識下のアピールである。素人相手に知識をひけらかすは、割と優越感なんだよな。
それはそれとして、自作宇宙船にブァイナ金属とか、クルフらしいな。
いつか都市宇宙船で宇宙へ行った時、その圧倒的カリスマ性で開拓団の王になるのではないかという別の懸念があったことを考えれば、満更悪い話でもないように思えた。
不思議なものだ。
「宇宙では小さな石でも弾丸より怖い凶器になるもんな。宇宙船の装甲をブァイナ金属に、というのは、わかる話だ」
宇宙での破損は、命取りになりかねない。地上で暮らすより、遥かに用心が必要である。緊急時に即対応できるよう乗組員も訓練が必要だ。そこでほぼ無敵装甲であるブァイナ金属で宇宙船ができていれば、安心感が違う。
「考えは理解できるが……。そもそもの話、無理じゃないか?」
シーパング同盟では、民間にブァイナ金属は流通していない。理由は簡単で、軍の機密装備に指定されているのだ。
その製法や加工法についても軍機密であり、公表はされていない。そもそもの話、民間で生活するのにブァイナ金属で作られた品など、過剰過ぎて使い道がないのだ。
「法整備されているから、団長に話を持ってきたんですよ」
クルフは、当たり前じゃないですか、という顔で言った。
一般流通していない。それもほぼ禁制品に近いものであることは、彼ももちろん知っている。むしろ軍事に強いクルフが、それを知らないはずがないのだ。
「お前、俺に不正をしろって言うんじゃないだろうね?」
ブァイナ金属を軍から手に入れろ、とか。
「まさか。私はこれでも、法に抵触することがないよう、民間、軍問わず法律は全て調べましたよ」
どうだかな。抜け道を探すために調べたんじゃないのか? 法律は厳格ではあるが、解釈次第で融通がきくようなものが多々ある。
だからといって独自解釈が通じるほど甘くはなく、そう解釈できるなら、別の解釈もできるようになっている。つまりは、法解釈的に抜け道だと思ったら、その解釈は通らないとグレイ判定をアウトにもできてしまうということだ。
「団長が新規に作るのは、禁止ですか?」
「許可がいる」
俺くらいになると、ブァイナ金属の製法を知っているからな。軍としてもこの金属が必要になった時、もしもの時の入手先でもあるから、俺が作るのを禁止にはできないのだ。
だが先にも言った通り、民間でこの超金属を使うようなものが必要になることなどないから、シーパング同盟としては、ブァイナ金属を生成するなら、その使用用途について知らせて、許可を得てくださいってことになっている。
「今は映画監督をしている友人が、個人宇宙船を作るのにブァイナ金属を使います――これは通らないだろうな」
宇宙船の装甲材はブァイナ金属以外にもあるでしょう? どうしてブァイナ金属でないと駄目なのですか? それを説明できますか?
……ああ、面倒臭い。まあ、許可制というのは、そういうわざと面倒にして、許可申請しにくくなるようにできている面もある。
「なるほど」
クルフは、そうだろうなという顔になった。
「では、すでにあるものを拾った場合はどうです?」
「落とし物ルールなら、所有者が名乗りでない限りはいけるんじゃないか?」
この世界には冒険者ルールとして知られるダンジョン取得物のルールが存在する。落とし物、掘り出し物に関するものは、そちらがベースとなっているから、すでにあるものを拾うは、セーフ率が高い。
「まさか俺に作って、どこかに捨ててとか言わないよな?」
「その作るまでに許可を得ないと駄目なんでしょう? それはないですよ」
クルフは言った。
「ただアポリト文明時代の遺跡には、残っていませんかね?」
英雄魔術師はのんびり暮らしたい@コミック第14巻(電子書籍)6月15日発売予定! 最終巻となります。ご予約、よろしくお願いします!
累計45万部突破! 既刊1~13巻(12巻以降は電子書籍版のみ)も発売中! コロナEX、ニコニコ静画でも連載中!




