第1961話、映画と宇宙
クルフ・ラテースは、趣味に生きることにした。
宇宙開発の研究を進めながら、映画に興味を抱き、やがて自ら映画作りを始めた。
「自由にやるというのは、中々難しいものです」
クルフは、そう言った。
「映画もそうですが、宇宙開発においても、個人が自由にできることなど大して多くないのです。何においても、『これ』が必要なんです」
すなわち『金』である。
「スポンサーの意向には逆らえません。出資してもらっているわけですから、要求が入ってくるものです」
「出資者は、無理難題を仰る……」
「何です?」
「どこかの創作のセリフさ」
俺は来客用のソファーに腰掛ける。リンとニーゴは、撮影で使うセットを見て、あれこれ話していて、エミールは『宇宙戦艦ハルバート』の設定資料書を夢中で読んでいた。
「宇宙開発の方はどうだ?」
「それは団長のほうがご存じじゃないですか?」
向かいの席に座るクルフ。このおじさんは紅茶やコーヒーを自分で炒れる趣味がある。
「都市宇宙船の完成は、一、二年後という話は知っている」
俺やディーシーさんにかかれば、すぐに完成させられるんだけどね。特にディーシーさんに任せれば張り切って作るだろう。
だがそれは、人のためにならないからね。用意されたものではなく、自分たちで苦労して作ることに意味がある。何でもやってあげることが、必ずしもよいことではない。
有名な話にある『村の貧困を救うなら、魚を与えるのではなく、釣り方を教えろ』というアレな。
「お前さんは手伝わないのかい?」
「初期開発には協力していますし、今もちょくちょく顔を出してますよ」
クルフは、自信のいれたコーヒーを口にする。
「ただまあ、先にも言った通り、自由はないんですよね。共同開発のものは向こうに預けて、外宇宙航行用の宇宙船は自分で作ろうかな、と考えています」
「自分で?」
それはまた……。俺もちょっと言葉が浮かばなかった。クルフは続ける。
「長期航行用にそこそこ大型の奴ですね。テラ・フィデリティアのドレッドノート級戦艦――あれより一回り大きくて、居住区画や食料生成はもちろん、その他都市機能をかなり圧縮して盛り込むつもりです」
こりゃ本格的に数十年、数百年の宇宙の旅を考えてるな、クルフのやつ。プチ都市宇宙船を自家用に持とうって話だから……中々壮大である。
「でもまあ、今は映画が楽しいですし、この業界から少なくとも10年くらいは抜けられないでしょうな。予定が詰まっています」
「そんな先まで映画関係の仕事が埋まっているのか」
「はい。一つの仕事で軽く一、二年は拘束されます。それが終われば次の映画ですよ」
「人気監督は大変だな」
皮肉でもなんてもなく、そう思うよ。だが次の仕事があるということはいいことでもある。この手の創作界隈は、将来的な安定が難しい。よほどの人気のある一部以外は、次の仕事の約束などない。
「まあ、私の場合、人生長いですから、10年や20年使っても大したことはありませんよ」
クルフは不老不死である。長寿のエルフ同様、たかだが10年など物の数ではない。
「そのうち、クルフ・ディグラートルで映画を撮りたいんですよね」
おっ、自伝的映画か?
「ディグラートル大帝国建国から、大陸戦争までの半生を描く……的な? 超大作になりそうだな」
最後は俺がラスボスで出てくるんだろ、知ってる。
「題材としては面白いと思う」
俺云々関係なく、大帝国の統一だか建国の話を映画で観られるならみてみたいものだ。
「まあ、最低でもあと10年くらいは無理でしょうね」
クルフは自嘲する。無理な理由は……まあ、あれだな。大陸戦争の記憶がまだ残っている。あれから十七年経ったけど、大帝国が大陸でやらかしたことを考えれば、ディグラートル主人公の映画を撮るのは、まだ難しいだろうな。
当然、クルフもそれを承知で最低10年は先って言ったんだろう。
ここ最近、大きな戦争もなく、ようやく人類も、テラ・フィデリティアの自動機械だけでなく、自分たちで宇宙開拓に回せるたけの余裕が出てきた。もちろん、そう簡単な話ではないが、過去を乗り越えるには時間がかかることもあるということだ。……もっともその人が生きている限り、時効はないんだけど。
「団長を主人公にすれば、すぐに映画にできますよ」
クルフは皮肉る。
「同じディグラートルが出るにしても、ラスボスとして出る分には企画が通りやすいようで」
「そういうものなのか?」
「脚本家が、あなた主役の脚本を書いて、会社に何本も提出しているんですよ。一人や二人ではありません。業界の人間は、一度は団長が関係した作品を作りたいみたいで」
……それは、君にとっては甚だ愉快なことだろうね。もちろん、今のは皮肉だ。
「実際、そこそこ数字取れますからね。会社企業であれば、どこも儲けたいですから」
「それが企業ってもんだからな」
思い起こせば、毎年俺か俺が関係している映画を見かけるような。ドラマや小説でもそんな調子だからな。俺のことをとことん擦り倒そうというのだろうね。
「だが、実際のところどうなんだ? さすがに皆、俺題材のものには飽きてきたんじゃないか?」
観客動員とか視聴率とか売り上げとか、飽和しているのではないか。
「一定の固定層がついてしまっていますからね、団長の場合」
「固定層?」
「エルフとか、プロヴィア民とかヴェリラルド王国民とか、まあ色々」
……エルフは、まあ、そうかもな。俺としては苦笑するしかない。……固定層ね。
そういえば、この前、本人である俺よりカッコ良する役者が俺を演じていたのを見た。何だかなぁ……。
「そうそう、団長。ちょっと場違いな話なんですが……」
クルフが改まった。
「ブァイナ金属の話なんですがね。……あれ、どこかで手に入らないですか?」
いきなり何だい、クルフ君?
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