第1960話、とある映画監督
マカンタ監督の映画撮影の見学会なんてあるらしい。リンは、それに応募していて、それが当たったと喜んでいた。
……そいつ、クルフだけど大丈夫そう?
俺は、巷で人気の映画を発表した映画監督――ジョセフ・クルフ・マカンタなる人物の正体について知っている。
なお、リンちゃんもジョセフ・マカンタに会ったことはないが、クルフ・ラテースには会っている。クルフおじさんとか、子供たちは呼んでいる。
ニーゴに映画の話をしたら、興味を持ったようなので、子供たちはさっそくその日の夜は、映画を1本観ることになった。
何を観るかで、子供たちは揉めた。大家族あるある。冒険者主役のアドヴェンチャー、王子と王女のラブロマンス、大宇宙を航海する冒険戦争もの、魔法文明時代を描いた歴史大作、学園もののドタバタラブコメ……。
いつもなら、それぞれ観たいのを好きなように観ればいい。モニターや再生機器ならいくつでもある。
が、ゲストであるニーゴと一緒に観るとなると、こうなるわけだ。映画は一時間半から最長三時間。まさか寝るまでに映画を二本観るとも思えないが、まあ少なくとも、子供たちが挙げたものを今日中に全部観るのは不可能なのは間違いない。
そもそもニーゴは、映画と説明されて理解できるのか――
「映像媒体とそれを鑑賞する文化は、僕らもあるので、そこは大丈夫です」
問題ないらしい。では、子供たちの話から、大体内容はわかるかな? この辺りで、鉄星人の娯楽文化、映像媒体をどう使うかわかる材料になる。
人というのは、わからないものに接した時、比較的理解できそうなものを選んで、安心を選ぶ傾向にある。
個人の趣味で選ぶか、こちらの文化を理解できそうなものを選ぶか。ニーゴの性格も出るだろうな。
俺は、悩むニーゴの様子を観察する。宇宙もの、歴史もの、ラブコメの三点の間に視線が行き来していた。その間も子供たちが、それぞれの作品の押しをアピールして、ちょっとうるさい。
末っ子のシエルだけ、とても興味なさそうに離れて読書をしていたが、それ以外の子は皆、ニーゴに興味津々のようだった。シエル……君は反抗期か?
「断然、冒険者だって! これは絶対」
ジュワンが力説すれば、その妹であるジュイエが。
「絶対! こっちの王子と姫のドラマのほうがいいに決まっているわ!」
アヴリルの子たちはアピールが強いな。ユーリとエミールは『宇宙もの』を勧め、『歴史もの』は長男のラッタが勧めた。ラブコメを勧めたのが、リザベッタとアリーシャだ。子供にはわかりやすくてコミカルなものの方が、となるんだろうな。
色々もめた後、選ばれたのは――歴史ものでした。
アポリト魔法文明時代の……ジン・アミールとアポリト島の関わり云々を描いた作品である。……うーん、どこかで聞いた名前だねぇ。
すっとぼけるが、主人公のモデルは俺なのよね。なお、この作品の制作・配給が例のアポリト・シーパング・ピクチャーズ……つまり、クルフ・マカンタ監督である。あの野郎、アポリト文明時代の生き字引だから、それっぽく作らせたら天下一品である。
ちなみに、このお勧め五つのうち、三作品がクルフ・マカンタ監督の作品だったりする。名監督だな、ほんと。
・ ・ ・
映画自体は、ニーゴは楽しんだようだった。
翌日、皆が学校に行っている間も、アーリィーらママさんたちが代わる代わる付き添いながら、ニーゴはお勧め映画を全部観た。
シーパング系の娯楽に偏ってはいるが、惑星テラのことやその文化を勉強するよい教材になったんじゃないかな。
そして次の休日。俺とエリー、リン、エミール、そしてすっかり映画鑑賞が趣味になったニーゴで、クルフ・マカンタ監督のスタジオ見学会に向かった。
他の子――特に14歳組は、サキリスとシェイプシフターメイドのヴィオレッタと、冒険者ギルドへ行った。先日のディーシーダンジョンの追試で、しっかり合格したので、冒険者登録に向かったのである。……ユーリは、本当は見学会の方に行きたがったみたいだったけど。仕方ないね。
ということで、アポリト・シーパング・ピクチャーズのスタジオにお邪魔して、他の当選者たちと見学をする。俺とエリーは保護者枠なんだけどね。クルフ・マカンタ監督が現れて、参加者たちとお話するのは実に自然であった。
……君たちは知らないだろうけど、この人、大陸戦争を引き起こした大皇帝だったんだぞ。
ちらちら、俺を見たクルフ監督だが、見学会が終わった後、俺んところの家族を招待して、さらにお話をすることに。
「いいのか?」
「私とあなたの関係ですから。招待というより、プライベートでお話ししましょ、という建前です」
クルフは悪びれない。そしてリンとエミールは、見学会の驚きをぶつけるのである。
「まさか、クルフおじさんがマカンタ監督だなんて! 知らなかった!」
「そうだろうね。マカンタの名前は芸名みたいなものだ」
クルフおじさん、にっこにこ。親戚ほどではないが、割と親しくお付き合いのあるアミウール家。
「おじさん!」
エミールは口を開いた。
「宇宙戦艦ハルバートの続きってあるの?」
熱烈なファン・ボーイのエミール。宇宙戦艦ハルバートは、マカンタ監督作品としては珍しいアニメーション映画である。
宇宙の彼方から惑星テラを攻撃してきたアンバンサーという異星人に立ち向かうテラ・フィデリティア。圧倒的な科学力と戦力を誇るアンバンサーに劣勢に立たされるが、人類最後の希望、超宇宙戦艦ハルバートが、遥か彼方のアンバンサーの母星へ旅立つ……っと、どこかで聞いたようなお話ではある。何気に惑星テラの機械文明時代のテラ・フィデリティア、アンバンサーという実際の名前や設定を盛り込むことで、リアリティを出していたりする。
クルフはその時代を知らないんだけどね。でも宇宙戦艦ハルバートって、あれ一本で完結じゃないの?
「うむ、新作を製作中だよ、エミール君」
クルフおじさんは言った。
「今度は、アンバンサーの母星からハルバートが戻ってくるお話の予定だ」
いいのかな、そういうネタを明かしてしまって。エミール坊やは大喜びだったけど。俺は、ちらとニーゴを見る。宇宙戦争ものと聞いて、異星人である彼はどう思うんだろうか……。その反応を観察するのだ。
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