第1953話、異星人の扱いについて
ニーゴは、極めて人間に近い体を持っている。見た目だけなら、異星人と言われてもわからないほどに。
そこからベルさんが思いついた『テラの人間と交流するために作られた人工物』説が、もっともらしく思える。
もっとも、人工物というのは、ちょっと違和感ではある。機械じゃあるまいし、スキャン結果においては、100パーセント生物である。
だが俺たちは、クローンを見ているからね。これについては、100パーセント生物なんだけど、遺伝子をもとに人の手で工業的に製造されているわけで、人工物という見方もできる。
クローンの人権問題というのも、そこのところも賛否がわかれている所以なんだろうね。
そのあたり、ニーゴの口から言ってくれれば、はっきりするのだろうが、あいにくと彼は一部の記憶が喪失している。
何故、月にいたのか。ここへ来た理由も、コールドスリープしていた理由も不明。追々思い出す可能性があるが、果たして正直に話してくれるかも今のところわからない。
『それで、ジン・アミウール殿』
ホログラフィック状の衛星通信に浮かぶ男――シーパング同盟議会議長ムナールは、毅然と、しかし親しみのこもった声を出した。
『そのニーゴ君について、どう扱うべきか、意見はあるだろうか?』
リヴィエル王国王太子であるムナール殿下は、いい歳ではあるが、いまだにかの王国ではパッセ王が君臨しているので、殿下ではある。
今は持ち回りであるシーパング同盟議会の議長を務めている。
「――敵なのか味方なのか、まだ判断できません」
俺は正直に答えた。
「まずは信用を得ないと話にならないと考えます」
相手の背景がわからない以上、強硬的な手段を取ると、何かあった時が怖い。
『我々としても、彼の星の軍隊が攻めてくるというのは願い下げである』
事は慎重にあたるべきだ、とムナールは首肯した。
『とはいえ、世間に向けて、何かしら対応を決めておくべきではある。月の遺跡発見のニュースは、すでに同盟国で知れ渡っている。続報を期待している者も多い』
宇宙船発見についても、もうニュースに流れているんだっけか。異星人発見、保護については、まだ発表されていない。
『高度に政治が絡む。彼は、客寄せの生き物ではないが、事が知れれば取材が殺到することだろう。それを彼が煩わしく感じて、惑星テラの民に悪い印象を持たれたくはない』
「かといって、議会が報道に制限をかけるのはよろしくない……」
『そうだ。戦時中であれば、作戦上の機密で抑えることもできるが、平時に報道に制限はよくはない』
情報がオープンである社会も楽ではないということだ。せめて、敵か味方がはっきりしていれば話も変わってくるのだが、万が一敵だった場合、あるいは敵になってしまった場合を考えると、慎重にならざるを得ない。
「できれば、早いうちに解決したい問題ではありますが……記憶喪失が絡むとなると、時間がかかると覚悟したほうがよいでしょうね」
『そこを何とかならないか、というのが本音ではある』
ムナールはそこで首を横に振る。
『もちろん、手荒なことはなしで、だが』
「味方であるなら、こちらの社会を体験してもらうのが早いとは思いますが……」
テラの人間はこうなんだよ、ってね。ホームステイとか、種族間交流というか。
「敵であった場合、こちらの社会構造から明確な敵と判断されたり、侵攻のための情報を与えかねない」
『だが、彼は一人なのだろう?』
ムナールは眉をひそめる。
『彼の所属する星の軍隊が、今も存在しているという証拠はない』
「存在しないという証拠もありませんよ」
アンバンサーの機械兵器が、緊急通信を聞きつけて惑星テラに大挙押し寄せた前例がある。アンバンサーの巨大要塞からの、たった一つの通信が、この星を滅ぼすところであったのだ。
『その辺りを、ジン・アミウール殿の方で上手くやってもらえないだろうか?』
「つまり……私に預かれと?」
なるほど、ここで同盟議会が、俺個人にコンタクトしてきた理由を察してしまった。どこの国で預かるかで、議会ではすでに揉めたのだろう。結局、特殊な立ち位置にある俺に丸投げしようということだ。
『おそらくそれが、一番波風が立たないと思う』
ムナールのホログラフィックは手を組み合わせた。
『より正直に言えば、どこも面倒を引き受けたくないということだ』
はっきり仰る。まあ、敵かも知れない存在を自国に引き入れるというのは難しいよな。いざ牙を剥かれた時、最初にやられるのはその引き受けた国だろうし。
「責任重大ですね」
『だから、皆が渋ったのだろうね』
すまなさそうにムナールは言った。
『何かあった時、その場で上手く対処してくれそうなのが、あなたしか浮かばなかったのだ、ジン・アミウール殿』
困った時のジン様ってか。神様に片足を突っ込んでいる人間だからこそ、とも言えるが、それで何かあったら、俺が大戦犯扱いされてしまうじゃないか。いやだいやだ、まったくもって面白くない。
さりとて、他の誰かに任せて、それで何か起きたら、火消しのために結局、俺が出張ることにもなりそうなんだよな。
「技研とも話してみますよ」
現状、接触して何か問題が発生しているわけでもないが、向こうで何か気づいていることがあれば、細かな情報であっても共有しよう。
「彼の背後関係については調査を続行するとして、私に任せてくれるという解釈でいいんですね?」
『是非に』
少しホッとしたような声に聞こえたのは気のせいか。
「報道の方はどうします?」
『そちらはあなたの一存に任せる。公開しても問題ないと思ったなら、そのようにしてくれても構わない。……もちろん、同盟に不利益にならない範囲で、お願いしたい』
完全に丸投げしやがったな、同盟議会。
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