第1952話、異星人A
その異星人は、十代半ばの人間の姿をしていた。
「うちのリンちゃんくらいか」
俺が呟けば、ベルさんは皮肉げな顔になる。
「リュミエールくらいかもしれない。あるいはラッタたちかも」
「一歳ずつしか変わらないじゃないか」
「どうかな。16歳と14歳じゃ、変わるもんだろ。人間のその年頃ってのは」
それはそう。特に男の子はここで一気に伸びる傾向にある。
「見た目は人間とほぼ変わらないんだがな」
異星人の宇宙船の中で回収されなかったら、わからないねこれは。
「肌の色がテラ人と違うとか、角があったり、耳が尖っていたりすればわかりやすかったりするんだろうけど」
「なんだそれ?」
「知らない? 俺の元いた世界のファンタジーとかSF映画じゃ、結構定番なんだ」
創作の中では、そういうので未知の異星人を表現していたんだ。ベルさんは鼻をならした。
「ふうん。だがそれだと人間とは違うが、亜人と見分けがつかないんじゃねえか? ゴブリン、オーガ、エルフなどなど」
「そういえば、エルフ耳の異星人なんて表現もあったか」
何だか懐かしいな。こちらの世界だと、普通に亜人種族がいて、地球での異星人表現と被っているのも多々ある。
「何にせよ、ベルさんがいてくれて助かったよ。異星人言語もだいぶ捗っているからね」
文字については完全ではないが、言葉の壁は取り除かれた。
今も、異星人少年はマギ研究所宇宙支部で、ユナや職員たちと聞き取り調査を受けている。
「で、今んとこ、わかっていることは?」
ベルさんが尋ねた。俺は携帯型データパッドを操作して、昨日までのレポートを相棒に見せた。
「大したことはわかっていないよ。どこから来たかについては、宇宙船のログを探しているんだが、そっちは解析待ちだな」
「本人に聞いているんだろう?」
「鉄らしい」
「テツ? 何だそりゃ」
当然の問いがベルさんの口から発せられた。まあ、そうなんだけどね。
「翻訳の影響だよ。こちらでは『鉄』に訳されて聞こえる」
仕方ないので、俺たちも『鉄星』カッコ仮カッコ閉じる、みたいな感じで記録している。
「で、その鉄星とやらはこの宇宙のどこにあるんだい?」
「その辺りがざっくりしていて、正直言葉ではよくわからない。ここより銀河系中心に近い方向から来たらしい、というのはわかった」
後はさっきも言ったけど、航行ログさえ出てくれば、そこから詳細な位置などわかるだろうよ。
「どうして、惑星テラの月に来たかについては?」
「思い出せないそうだ」
「思い出せない?」
はっ、とベルさんは大仰に肩をすくめる。
「何ともな。前にもこんなことなかったか?」
「いつのことかは知らないけど、コールドスリープの影響で、記憶の齟齬や一時的な記憶喪失があるらしい。テラ・フィデリティアの医療コンピュータはそう答えた」
「本当かね? 記憶喪失のフリをしているんじゃないか?」
「その可能性はある」
俺はパックをとって、栄養ゼリーのチューブをかじる。
「彼からしたら、俺たちを完全に信用しているわけではないからな。記憶喪失のフリをして様子見はあるだろう」
たぶん、俺もそうする。そもそも異星人だもんな。向こうからしたらこちらもそうだし、会っていきなり味方だってどうして信じられるのか。疑って当然。自身の身を守るべくできる範囲のことをするのは、正常な判断ではある。
「だからといって、こちらから自白を強要したり、まさか拷問をするわけにもいかないからね。現状は友好的に付き合っていかなくてはいけない」
「友好的ね」
「俺がこの世界に召喚された時を思い出してくれよ、ベルさん」
つい皮肉を言いたくなる。
「俺に優しかったベルさんと、俺に厳しかった大帝国。その後の運命がどうなったか、言わずもがなだろう?」
軍事政権だった大帝国は滅びた。俺を敵に回さなければ、そうはならなかった。
「相手のバックボーンがわからないうちは迂闊なことはできない。ヘタに事を荒げて敵対なんてことになったら、後が怖いでしょ」
大昔に月にきたから彼は一人だ、なんて考えていると、鉄星から報復の大軍団がやってきて宇宙戦争だ、なんてのも有り得なくはない。
過去の人間が現代に蘇ったというのなら、その長い年月で鉄星の科学力はさらに上がり、テラ・フィデリティア軍でも手も足も出ないほど技術力、軍事力を持っているかもしれない。
「少なくとも、彼が何故、月に来たのか。鉄星がどうとか、もっと情報を得ないと何とも言えない」
「それを承知の上で、記憶喪失のフリをしているんだろうがな」
ベルさんは言った。
「まだフリと決まったわけじゃないぞ。記憶の齟齬は本当かもしれない」
「まあ、そうかもな。……そういや、名前くらいかはわかっているんだろ? 何て言うんだ」
「ニーゴ」
「ニーゴ?」
とっさに聞き返すベルさん。俺はゼリーを平らげ、パックをダストシュートへ放り込む。
「25。数字みたいなんだけどね。ニーゴと呼ばれていたとか本人は言っている」
「その辺りも、記憶の齟齬ってやつかい?」
ベルさんは皮肉った。
「番号とか、何か怪しいな。もしかして人型をした実験生物とかだったりしてな」
「異星人ではなくて?」
「異星人が作った人型の人工生物。なんつーか、見た目もそうだが、あまりに人なんだよなぁ」
それが正解だったとしたら何のために? 鉄星人が、テラの人間とコミュニケーションをとるために、人に似せてニーゴを作った?
……あるかもしれないな、それ。
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