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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第二部

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1961/1967

第1951話、襲撃者とは?


 俺と、シーパング同盟情報局のグレーニャ・ハル局長との交信は続く。


『――もし本当に神聖・魔法国でこの紋章を持つことが決まりであるなら、全員持っていないとおかしいのよね』

「まあ、戦時中であれば、所属が明らかなものを身につけておかねばならないんだけどね。だが今は平時で、しかも特殊作戦であれば、やはり持っているのは怪しいな」


 グレーニャ・ハルの推理の通り、見つかった神聖・魔法国のエンブレムは、犯行を彼らになすりつけようとする真犯人の陰謀の可能性が高かった。


『とはいえ、もしかしたらあの組織が傭兵の寄せ集めという説もなくはないのよ』

「人種が雑多だから?」

『そう。経験者を集めて、それなりに連携が取れるレベルにした特殊部隊。これなら全員でなく、何人かが神聖・魔法国の紋章を持っていたとしても、それもあるかなって』


 グレーニャ・ハルは手近なファイルをめくった。


『彼らのプロファイルによれば、神聖・魔法国の魔術師は総じてプライドが高く、不合理でも自分たちのルールを守る傾向にある。所属するものは外していけ、と言われたのに、これは自分たちの誇りだ何だと突っぱねて、よせばいいのに持参したという可能性もなくはない』

「そんな馬鹿な……とは言い切れないんだよな、うん」


 十年前の神聖・魔法国の魔術師たちは、そこまで賢くなさそうだったんだよな。傲慢さが滲み出ていて、自分たちが正しいと信じて疑っていないというか。


「で、ナチャーロの連中のこと、どうするつもりなんだ? 濡れ衣くさいが、完全に白とも言えないだろう?」

『もちろん、調査はするわ』


 シーパング同盟情報局は、怪獣騒動の降、離脱した神聖・魔法国の残党を追跡し、その所在についても大体のところは把握している。……改心したとはいえ、怪獣騒動を引き起こした組織だ。ノーマークにするわけにもいかない。


『とりあえず、目下犯人グループの足取りを追っているところよ。転移で逃げたから、正直どこに逃げたか皆目見当もつかないけれど』


 だから敵の死体から人種や所属などを調べていたわけであるが。


『貯蔵庫を持ち出したから、ゆっくり中身を開けようとしているのでしょうけど、あれを犯人グループが開けられるとは思えない。仮に開けたとしても、アレは入っていないから、いきなり大規模な攻撃があるとか、そういうこともないでしょうけれどね』

「連中が中身に気づくまでに、こちらが敵の所在を突き止めて叩く……」


 それが理想とするところだろう。まだ敵が偽物を掴まされていると気づいていなければ、彼らもしばらく大人しくしているはずだから。

 謎の武装組織か。俺は送られてきた記録を開く。


 輸送用の大型トレーラー三台。魔石銃にその他武装。トレーラーはクーカペンテの自動車会社が製造したもの。魔石銃は、同盟内や同盟外と複数あって、出所もバラバラ。

 では彼らの格好はと言えば、砂漠の民カディーラの戦士団っぽくはあるが、彼らは近代的なボディアーマーや、まして機関銃など近代装備は身につけない。


 これらの品の出所から、それを購入、もしくは調達経路と、それに関係する人間を調査し犯人グループに近づいていく。……とまあ、基地を襲撃されたシーパング同盟軍は調べていくのだろうけどね。


『そうそう、一つ言い忘れていたけれど』


 グレーニャ・ハルはモニターに体を近づけた。……胸の谷間を見せているのはわざとか? 彼女はアポリト魔法文明時代から、人をからかって動揺を誘う癖がある。


『襲撃犯とは無関係だろうけど、近くにエルフのヴィスタがいたわよ』

「は? ヴィスタが? 何で?」


 思いがけない名前が出てきて、これにはびっくり。彼女は確か冒険者をやっていて、各地を飛び回っていると聞いたが。


『襲撃の直前に、カラビナスの町にいたのよ。ほんとニアミスしている。だからカラビナス基地への救援の途中の同盟軍に逮捕された。事が事だけに、近くにいたというだけでね』

「話を聞いたほうがいいのかな?」

『保釈の手続きはこちらでやっておいたわ。直接話したけれど、今回の事件に関しては彼女は無関係ね。逮捕されたことには大変お冠だったけれど』

「そりゃあそうだろう。無関係だったならさ」


 誤認逮捕だって訴訟モノかもな。まあ、グレーニャ・ハルが本人と話した上で無関係というのならそうなのだろう。しかし、妙な偶然もあるものだな。


『こちらの話は以上だけど……先生? 今度はそちらの話をしてくれないかしら?』

「デートの話かい?」

『いいわね。今度、どこかで一緒にお酒を飲まない? もちろん、プライベートで』

「浮気の範疇にならない範囲でなら、喜んで」


 古い友人と酒を飲むというのは悪くない話だ。ただ俺くらいになると三流ゴシップのネタになりがちだからね。


『それはそれとして、月から出てきたモノについても聞きたいのだわ』


 甘えた声を出すグレーニャ・ハル。あぁ、そっちの件ね。


「月の宇宙船にいた少年だか少女だかについては、そちらに資料を送った通り――」


 月面遺跡の件は、シーパング同盟にも伝わっている。そこでの情報については、情報局と共有が進められているので、別に機密でも何でもない。同盟ではまだすべてが開示されているわけではないが、報告を知っている者も少なくない。


「――両方の性を持っている」

『両性具有?』

「というより変身する」


 男の子の姿、女の子の姿になるというか。……変わっているよね。


「ベルさんの協力で、とりあえず言語のコミュニケーションは取れるようになった」

『目覚めたの?』

「そう」


 カプセルを回収し、月面基地で経過を見守っていたら、つい先日目を覚ました。


「今は、こちらの人間と過ごして、情報交換というか交流しているところ。暴れる様子もない」


 得られた情報については、まとめて近いうちにそっちにも報告書が送られると思うよ。


『敵対の意思はなし、ということでいいのかしら?』

「今のところはね」


 ただこちらの情報を得るまで猫被っている可能性もある。


「いつから眠っていたかまだわからない。ただ大昔と考えると、スパイとかそういう線の可能性は低い。が、まったくその可能性がないとも断言はできない」


 所属している星の政治形態、組織、あの異星人がどういう立場か、わからないことが多いからね。

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