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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第二部

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1953/1968

第1943話、サンプルを見る


 宇宙に出る――そう言うと、地上から垂直に打ち上げるロケットなどを想像するものだが、この世界の人間にとっては少し違う。

 機械文明のテラ・フィデリティアのエンジンは、そこまでの急角度を用いずとも普通に上昇していけば、惑星の重力圏を振り切ることができる。


 こうして、シーパング同盟の国の一部は宇宙に進出し、衛星軌道上に宇宙ステーションを浮かべたり、月面に拠点を作り、人類の生活圏を広げている。……まあ、大半は機械文明時代の遺産で、自力で作ったものはさほど多くないけど。


 宇宙に出られる人は、それほど多くなく、宇宙旅行などというのは、一握りの富裕層か関係者しか体験できなかった。

 俺も、その一部の関係者ってやつだ。俺とベルさんは、アドヴェンチャーⅡ号に乗り、宇宙へ飛び上がる――ことなく、転移で月面に移動。ユナのいる月面都市シャルラハロートへ移動した。


 マギ研究所宇宙支部の発着場にアドヴェンチャーⅡ号を着陸させると、エレベーターが動いて、施設格納庫へ降りた。


「なあ、ジン、なんだってアドヴェンチャー号なんだ?」

「ユナが、船で来いって言うからさ」


 転移を使えば施設内に俺たちだけでも行けたんだがね。ベルさんは助手席シートにもたれて伸びをした。まあ、もっともではある。


「どうせ、施設内地図を送るのが面倒になったんだぜ? オレ様たちを転移させないために」


 俺たちの転移は、基本的に知っている場所を行き来する。そこに何があるか把握しないと、転移先で事故なんてこともあり得る。

 現れた場所が何かと重なって体が千切れたり潰れたりしてグロ死は勘弁である。……まあ、俺は死なないんだけど。痛いのは嫌だし、目撃した人のトラウマにしても悪いからね、しょうがないね。


「つーか、月面都市なんてあったのな」


 基地は複数あれど、都市というレベルのものはこれまではなかった。……そう、実のところこれまだ完成していないんだ。


「外装はできたんだけど、中の工事がまだ進行中なんだよな」


 元はテラ・フィデリティアの地下基地の一部だったんだけどね。機械文明時代の戦争で地表にあった基地は、異星人の空爆で破壊されたりと、即利用できるものがほとんどない。せいぜい無人艦隊の建造、待機施設と観測所くらいだけど、これ全自動だから、人が使うことを想定していないときたもんだ。

 だから遺産を利用しつつ、シーパング同盟もこうして月面のドームポリスを作っていたわけだ。


「一般解放はまだ先だな」


 今は作業員や、月開拓、調査できた人が住んでいる。惑星テラと同じ環境であることを確認し、俺たちは船を降りた。

 ユナが待っていた。


「ご無沙汰しています、お師匠、ベルさん」

「お前も変わらねえな」


 ベルさんは言った。俺はつい先日、映像で彼女とお喋りしたので、久しぶりな感じはしないけど。


「そういや、どうしてここなんだ?」


 ベルさんが尋ねた。


「聞いた話じゃ、シャルラハロートからは遠いらしいじゃねえか、例の遺跡」


 そうそう、最初の連絡を寄越したのがダング基地からだった。ただ、ここにいる理由は、俺は何となく察している。それはここがマギ研究所だからだ。


「遺跡から回収されたものを精密解析するためです」


 ユナは答えた。


「設備は、ここのほうが整っていますから」


 と、いうことだな。例の爆発したとかいう回収品。


「その品は見えるのか?」

「はい、お師匠」


 そのためにここにお呼びしたのです、と彼女はさっそく研究室へと俺たちを導いた。



  ・  ・  ・



「板だな」

「板だね」


 ベルさんの率直な物言いに、俺も同意した。

 サンプル1。未知の金属板。縦、横40センチくらい。厚みは2センチ。表面に文字なのか模様なのか、よくわからないが刻まれている。


「ベルさんの鑑定結果は?」

「未知の金属の板だってさ」


 ベルさんはニヤリとした。


「オレ様も初めて見た。名前をつけられるぞ」


 結果は、見たまま。データ不足ということだが、結局、惑星テラにはないものだったということだ。


「未知の異星人か」

「だな」


 俺たちは、ユナを見た。


「で、爆発したサンプルはどれだい? これか?」

「爆発したのは、こちらです」


 サンプルナンバー1。なにやらボックス上の何か。手に収まるくらい小さいが、これも金属で構成されているが、中身が……。


「見事に吹っ飛んでいるな」

「はい」


 爆発した際に、ここに収まっていたものが吹っ飛んだ。というより、その収まっていたものが爆発の原因くさい。


「何かの充電器みたいだな」


 コードの類はないが、つけられそうな穴が開いている。


「ビンゴだ、ジン」


 ベルさんの目がチカつく。


「ただの箱から、充電器に鑑定されたぞ」


 便利だなぁ、ベルさんの鑑定。クイズをやっているわけではないが、機能などを推理しほぼ正解すれば未知から解析したものに変換されるらしい。

 この調子でやっていけば、ある程度、手掛かりが見つかるかもしれないな。それにしても――


「この文明、電気を使うんだ」

「あ? そりゃ宇宙に出てくるだけの文明だぜ?」


 ベルさんが、それくらい当たり前だろ、という顔をした。それはそうなんだけどね。太古の文明の遺跡で、電気を使っていたなんて、この世界はともかく地球にいた頃にはまずお目にかかれないからさ。

 ということで回収品を一つずつ見ていったが、文明の正体がわかるようなものはなかった。


「では、遺跡に行きますか」


 一通りサンプルの確認が終わり、ユナはそう告げた。

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