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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第二部

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1952/1967

第1942話、一晩明けて


「宇宙か……」


 リンは呟いた。昨夜、ジンパパがお母さんたちに月面に発見された遺跡の調査に行くと話しているのを聞いた。


 ――あたしも学校じゃなきゃ行きたかったなー。


 幼い頃から好奇心旺盛だったリンである。彼女の興味には、当然、宇宙もあった。

 学校に行けば、まずアグナがやってきた。教室で、自身の椅子に座っているリンに、アグナは軽く頭を下げた。


「うっす」

「おう」


 ダンジョン試験の追試は次の週末にやるというのは、昨夜のうちにメールしてある。参加するかについては、学校で聞くと言ってある。

 なお返信に、アグナは滅茶苦茶詫びてきていたりする。


「リン氏……」

「今週末だけど、やる?」


 週明けから週末の話をするのもアレだけど、神妙な調子の眼鏡の親友の辛気くさい詫びなど受けたくないリンである。


「軽っ!」


 案の定、アグナは目を剥いた。


「どうしてダンジョンの、それも試験を行くって聞くのが、そんな買い物行く? って感じで聞くのよ?」

「言っても、週末だしー」


 一時間後にどうこうってわけでもない。慌てるものでもないし、まして今から緊張するものでもないのだ。


「あれこれ思い悩んだ私が馬鹿みたいだ」

「あ、やっぱ落ち込んでた?」

「リンは平気なの?」


 試験落ちたんだよ、とアグナが言えば。


「落ちてないし。追試だし。むしろ、パパもママたちも滅茶苦茶褒めてくれた」

「そうなの?」


 意外そうな顔をするアグナ。リンはニンマリした。


「いい判断だったってさ。追試といっても、失敗したのが原因の追試じゃないし。こっちがへこむ要素はないってことよ」

「あんたにはなくとも、私にはあるんだよ」


 前の席に座るアグナ。もちろんクラスメイトの席で、彼女の席ではない。


「だってそうでしょ? 私があそこでヘマをしなければ、ダンジョンの最奥に行けてたでしょ。追試するまでもなくさ」

「どうかな。何か別のヘマで、むしろマジで落ちての追試だったかもしれないわよ」


 やってみないとわからない。つまらないところでするものがヘマであって、それはいつ、どこで起こるかなんてわかりはしないのだ。あらかじめ予測しておけば、というのはわからなくもないが、予期してなかったからこそ起こるものでもある。


 そしてあらゆることを想定なんて、口で言うことは簡単だが、全知全能の神様でもなければ『あらゆること』の想定なんて不可能なのだ。

 だから、アグナの麻痺がなければクリアできたなんて、どうして断言できるのか。


「でも、おたくの弟たちと妹は一発合格だったじゃない」

「いや、あれは落ちたじゃん」


 終わった後のつまらない失言で。あれこそ、試験開始前に予想できた奴いる?


「あいつらも追試。ざまあ――とっ、こういうのがダメっていうのが教訓よね。危ない、危ない」


 リンは大げさに言った。普段の言動には気をつけないといけない。癖になると、無意識にボロが出る。


「何が危ないんだ?」


 ボルク王子がやってきた。ここではアポリトソフォスの学生服姿なので、知らない人は今の彼を見ても王族とはわかるまい。……もっとも背筋は伸びているし、割とイケメンで、体つきもがっしりしていて、存在感は半端ないが。


「あら、脳筋王子、おはよう」

「酷いな」


 いつものからかいじゃないですか――リンは意地の悪い笑みを浮かべる。


「どうだった? 昨日のこと、王様には話した?」

「話したよ」

「怒られた?」

「褒められた。ちょっと意外だった」


 ちょっどどころではなく、物凄く意外だった。冒険者試験の話は両親にはしていたので、当然結果を報告したボルクである。追試、というのが凄く嫌で憂鬱だったが――王子たるもの、失敗というのがどれほど格好がつかないか理解できると思う――ジャルジー王もエクリーン王妃も、息子を激賞した。

 名誉は大事だが、それよりも失ってはならないものがある、とジャルジーはいい、エクリーンは、何が大事であるのかわかってて偉い、とやはり褒めた。


「ひょっとして、リンは怒られたのか?」

「いや、あたしも褒められた」


 あの判断は、間違いではなかったんだ、と今では思える。リンはもちろん、ボルクも追試と聞いても、さっぱりしているのはそういうところもあった。


「はぁ……」


 対してアグナだけ、ダウナー一直線である。


「褒められたのか。そうかそうか、あんたたちはいい親を持ったもんだ」

「アグナは怒られたのか?」

「怒られてはいない」


 褒められてもいない。それもそのはずで。


「試験のことを話してないもん。両親も友達と練習するとしか思っていなかったと思う」

「あー……」


 リンとボルクが納得の顔になった。


「そりゃ話してないなら、怒られたり褒められたりしないか。なんか、ごめん」

「アグナ、知ってるか? ホウレンソウだぞ」

「やめろ。同情するような目を向けるな! 今どき、親に何でも話す年じゃないだろうに!」


 アグナは喚いた。穏やかな笑いで場が和む。


「あー、そうそう。ボルク、あんた知ってる? 月で未知の遺跡が見つかったんだってさー」


 話題を切り替えるリンである。ボルクとアグナは目を見開いた。


「月?」

「そっ、パパが遺跡調査に行くんだって。……あーあ、あたしも行きたかったなー」


 微妙に自慢くさいが、本人は友人たちに愚痴りたかっただけである。これっぽっちも自慢や羨ましがらせるつもりはなかった。

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