第1941話、月面遺跡のあれこれ
家族に月の未知の遺跡の話をした時、子供たちの反応は様々だった。
関心を示したのは、およそ半分と言ったところで、一番食いついたのは、子供たちではなく、アーリィーだったりする。
「月に未知の遺跡だなんて……」
彼女は思いを馳せるように目を閉じた。
「写真は? ないの?」
そう言われるかもと思って、データパッドを用意した。
「あまり多くはないが、ユナが送ってくれた」
ということで、彼女が月で撮影した写真を何枚か表示させる。それをじっくり見るアーリィー。隣から覗き込むのは、眼鏡をかけたエレクシア。
「遺跡って、どこも代わり映えしないわね。わたくしの目には全部同じに見える」
「えー、全然違うよ!」
アーリィーは、写真の一部を指して、惑星テラの文明との違いをあれこれ語りだす。……いつ文明のどれどれは、なんて言われても素人目にはさっぱりわからないよな。興味ない人からしたら全部同じってのも、まあわからなくもない。
ぱっと見で言えば、遺跡の壁が薄く緑がかっているというのは、これまで見てきたものと違うかな、くらいか。
雰囲気というのは、遺跡という時点で似たり寄ったりなのはこれも仕方がない。
リムネが口を開いた。
「それにしても不思議よね。月は、テラ・フィデリティアの管轄だったわけでしょう? それが今になって未知の遺跡が発見されるなんて」
「そうかしら?」
アヴリルが、おやつ――俺が買ってきたケーキの後の紅茶を味わいつつ言った。
「この星にだって、まだまだ見つかっていない遺跡もあるでしょう? 月にだってそういうものが残っていてもおかしくないんじゃない?」
「わかってる? 月は、このテラと違って大気がないのよ?」
リムネは細い指で自身の顎に手を当てた。
「真空で生きられる生物は今のところ発見されていない。つまり宇宙空間で活動できる装備を持った生命体が、月に存在していた、ということになる……」
「異星人?」
エレクシアが腕を組んだ。
「わたくしたちの世界で、月に進出できた文明って――」
「機械文明……テラ・フィデリティアだけ」
アーリィーは考える。
「でもテラ・フィデリティアではない。同時にアンバンサーのものでもない」
テラ・フィデリティアでなければ、異星人が浮かぶわけだが、我々が真っ先に浮かべるのが惑星テラに攻めてきたアンバンサーだったりする。
しかし、写真で見たところ、あのおどろおどろしい内壁や、装置の類はまったくなく、こちらは素人が見ても、かの異星人とは違うとわかった。
「アンバンサーでもなく、テラ・フィデリティアでもない……」
「ジン、ディアマンテは何って? 確認したのでしょう?」
リムネが確認してきた。それな、ユナが真っ先に聞いたってさ。その結果は――
「テラ・フィデリティアの記録にもないんだってさ。そこから導き出される答えは、二つ。機械文明の前、つまりまだテラ・フィデリティアが月に進出する前に月にやってきたが滅びたパターン……」
「もう一つは?」
「テラ・フィデリティアが滅びた後に、やってきた異星人の文明という可能性」
つまりは、機械文明の先か後ということだ。
「だとすると、後かしら」
リムネは思考する。
「これまで機械文明の前であれば、その文明の遺跡などが発見されている可能性もあったわけだけれど、テラ・フィデリティアは観測していなかった。そう考えるなら、後の可能性が高くないかしら?」
「それがそうとも言い切れないんだ」
「どうして?」
「惑星テラの機械文明は滅びたが、月にあったテラ・フィデリティア施設の監視網は生きていた」
アンバンサーが侵攻してきた場合に備えて、月面ほかこの太陽系の衛星に無人兵器工場が稼働し続けていた。警戒も行われていて、17年前のアンバンサー大要塞が救援を呼び寄せた時、これら無人機械艦隊がただちに迎撃に動いた。
つまり――
「月面は待機状態だったわけで、そこに何者かが上陸すれば無人機械が動いていたはずなんだ」
そしてもしコンタクトしていれば、その記録が残って、今回の発見に対して未知のもの、という判定はされにくくなる。
「もちろん、テラ・フィデリティアの警戒網を潜り抜けられる技術を持った文明がやってきた可能性もなくはないけど、月に施設を作った者たちがその後、繁栄せずに滅びたのは何故か、という問題も出てくる」
ま、拠点にするには不都合と見て、前哨基地だけ作ったけど、撤退してどこかへ去ったという可能性もあるけどな。
「調査が必要なわけだね」
アーリィーのコメントはまさに現時点における結論であった。わからないから調べにいく。まさにそれ。
「いったい、どういう遺跡なんだろうね」
「それをこれから調べるんでしょう?」
エレクシアが言えば、アーリィーは手をヒラヒラさせる。
「それはそうなんだけど、そういうのじゃないのよ。調べるまで何も考察しないんじゃなくて、あれこれ可能性を考えるんだよ」
予想、想像。あれこれ考えるのも、醍醐味というものだ。そうやって考えることで、事前に注意すべき点が出てきたり、新たな可能性に気づくこともある。
遺跡であるけど、一応、非常事態に備えて準備しておくか。
かつてのアンバンサー大要塞の復活の件も、コンピューターが動かしていて、それが牙を剥いてきた。探索中に機械兵器とか、自動迎撃システムなんてものが生きていたら厄介だからな。
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