第1944話、いざ、月面遺跡探索
アドヴェンチャー号に乗り、月面を飛ぶ。
灰色と白の大地は太陽の光を浴びて輝く一方、月の空はそのまま宇宙であり真っ黒だ。白と黒。でこぼこした地形がどこまでも広がっている。
ベルさんは眉をひそめる。
「月ってのは、どこもぼっこぼこだな。代わり映えしないぜ」
「大気がないからな」
操縦桿を握りながら、俺は小さく首を振った。
「ここでは降ってきた隕石がそのまま落ちてくる。月がぼこぼこということは、それだけ隕石を受け止めたということだ」
大気のある惑星ならば、落ちてきた隕石は大気圏に触れ、燃え上がる。小さなものは流れ星となって燃え尽きるが、大気の層がない月では燃え尽きることもなく地面に激突だ。
「お師匠」
ナビゲーションシートに座るユナが、振り返った。
「そのまま真っ直ぐ行った次のクレーターに遺跡があります」
「了解。減速する」
そのままだと、あっという間に通過してしまうからね。メインエンジンの出力を下げつつ、バックスラスターを噴かして速度を調整。
初代アドヴェンチャー号の後継機、アドヴェンチャーⅡは、宇宙での活動が可能なように設計されている。形は初代を踏襲しているが、機能はより洗練され、万能艇として強化されている。
……とはいえ、これで宇宙に行くというのは中々ないんだけど。大体、転移で行けるしな。こうした初めて行く場所でもなければ、家族での旅行か、外交的な要件で訪問するくらいしか乗る機会がなかったりする。
閑話休題。クレーターの上に差し掛かる。事前に遺跡を発見した調査隊が写真を残してくれているから、大体の位置はわかる。
「ほぅ」
ベルさんはモニターごしに下を見下ろす。クレーターの中に、人工的な穴があって、そこに遺跡がある。
「こりゃあ、パッと見だとわからねえな。クレーターの上を通過しても、かっ飛ばしていたら、やっぱ気づかねえわ」
「本当、最初に発見した奴は、よく見つけたなって思う」
月面をゆっくり散歩でもしていたのだろうか。宇宙服がなければ外には出られない真空の宇宙空間だ。有害な放射線もバンバン降ってる環境でのんびりなどするはずもないから、余計に。
月面開発にあたり、シーパング同盟が地図作成した時も、テラ・フィデリティアのデータをベースに、あれから増えたクレーターの数やそれにより地形がどう変わったかを、遠くから観測ポッドで見ただけ。人間が実際に歩いて確認した場所は、思いのほか少ないのだ。
「ユナ?」
「この船なら、そのまま下まで降りられます」
機体のサイズ的に、通行可能らしい。ではお言葉に甘えて、垂直下降。引力に従い、ゆっくりと降下する。
先行した調査隊が設置したか、ライトが穴の中を照らしている。まあ、ここじゃ、太陽光は届かないもんな。
・ ・ ・
外に出る時は宇宙服を。
ライトスーツを改良したようなスリムな宇宙服は、かつての野暮ったとは無縁で動きやすい。薄いが頑丈さと、紫外線ほか有害なものはシャットアウトである。
『ようこそ、アミウール卿』
先行して遺跡を調査している隊のリーダーが挨拶する。
『私はここの責任者を務めるリブーロと申します。ご足労いただき感謝致します』
『どうぞ、よろしく。さっそく中を見て回っても?』
『もちろんです。ご案内いたします』
宇宙服を着ているその人物は、標準的な体格。バイザーの向こうの顔は五十代くらい。短めの口髭をはやし、眼鏡をかけていた。
『この手の遺跡といえば、トラップの類いを想像しますが、今のところ、攻撃的なものはありませんでした』
『……なるほど』
恒星間航行をするような文明は、果たして罠など仕掛けるだろうか? 大体ここは酸素のない月であり、生物がいないのに何を警戒するのか。……と考えて、宇宙船を作る技術レベルでも、自動防衛システムとかそういうのはあるほうが自然か、と思い直した。
環境を見れば、野生生物はいないが、この環境下でも拠点を築く文明があってもおかしくないと考え、警備システムを準備したり。
うん、むしろ警備システムという名のトラップは、たとえ施設内でもあったほうがいいな。
などと考える俺だが、この遺跡の主は、そういう防衛システムを用意していなかった。
……防御システムは施設の外に向いていたのかな? さすがに室内で武器は危ないということかもしれない。
リブーロ氏の案内で、俺たちは施設内を見て回る。全体的に緑、風が吹かないので、土砂などが入り込むはずはないのだが、全体的に月の砂が入り込んでいて、細かな砂が床や壁にその跡を残していた。
『リブーロ氏は、ここはどういう建物だと思う?』
俺は尋ねる。先に調べていた彼らなら、ここまでである程度の予想や推理くらいはしているのではないか。
『まだ何とも言えませんな』
何かを作る工場とか、見るからにわかりやすい何かがあればいいのだが、現状、何かの施設を特定するような発見はない。
『回収品や発見される遺物、通路の出入り口の大きさなどから、我々と同じくらいの大きさであることはわかるのですが……』
『これといって特徴がない?』
『机や椅子らしきものはあるのですが――』
何だか公園の遊具みたいな形だね。室内もこれと断定できるような物がない。居住区画、というには家電とか家具とかそういうのもない。バーカウンターみたいな形の机、遊具みたいな妙な椅子くらいしかない。
壁に絵とか模様とかそういうのもなくて、殺風景である。
リブーロ氏は言った。
『不謹慎な言い方をすれば、この遺跡の当時の何者かの死体でもあれば、また何かわかるとは思うのですが』
『地底人の時を思い出すな』
ベルさんがそんなことを言った。
『あん時も、死体っつーか、文明の跡はあるのに生き物の痕跡がまるでなかった』
そういえば、そうだなぁ。ちょっと懐かしくなってきた。
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