第1262話、サジタリウス
連合国ウーラムゴリサ王国に、浮遊島が転移してきた。
宿願だった連合国崩壊のための軍を送ってきた真ディグラートル大帝国だが、俺たちウィリディス・シーパング同盟の介入で大きな痛手を与えられた。
補給手段はあれど、投入した戦力の修理・補給ができない大帝国連合国派遣軍は、弱体化していくはずだったが、クルフ・ディグラートル大皇帝は、前線に基地を送りつけるという荒技で、この問題を解決した。
『解析の結果――』
アリエス浮遊島軍港のディアマンテが報告した。
『出現したのはバーゴウ型4番浮遊島「サジタリウス」と判明しました』
「サジタリウス……」
俺は、超戦艦『バルムンク』のキャプテンシートで腕を組んだ。
「機械文明時代の浮遊島か」
『浮遊島軍港ですね』
ディアマンテは説明した。
テラ・フィデリティア航空軍が、この星の防衛のために作った機械文明時代の空中要塞である。
サジタリウスは、俺たちウィリディス軍が使用するアリエス浮遊島軍港と同等の規模を誇る。
というより、改良型というべきか。アリエス型浮遊島軍港1番島が、俺たちの『アリエス』であり、バーゴウ型は改アリエス型。浮遊島軍港シリーズの9番島になるらしい。
「基本性能は、アリエスと同等か?」
『居住性と運用能力の向上型ですね。工場施設、ドックも拡張され、防衛装備も強化されています』
「それって単純に、アリエス軍港より上ってことじゃないか」
さて、困った。
俺たちは、かつてアリエス浮遊島と初遭遇した際、上陸するために、クルーザーを囮にしたり、防空砲の雨をかいぐぐったりと苦労させられた。
だが、今回は、それよりも強化された防空能力を誇る要塞であり、さらには――
「クルフのことだ。さらにアップデートしているに違いない」
魔法文明時代の彼のこと。当然、サジタリウスにもアポリト浮遊島と同じく結界水晶防御を施しているだろう。
結界水晶防御は、旧アポリト文明艦艇に用いられた装甲で通過可能だが、結界水晶防御を展開して侵入はできない。双方ぶつかって反発、ないし通過できない。
結界水晶防御なしで相手の結界水晶を通過した瞬間、サジタリウスの防空砲台の集中砲火を浴びて蜂の巣。通過した瞬間に結界水晶防御を展開したとしても、真・大帝国は結界水晶防御を貫く実弾系武装をすでに実用化しているため、やはりタダでは済まない。
「難攻不落。通常手段では、難しいな」
『結界水晶防御を装備していると仮定すれば、ロングレンジからの魔導放射砲の直撃をも無効化します』
ディアマンテは事務的に言った。
『艦艇を用いた上陸戦の場合、結界水晶防御、対結界水晶防御兵器を併用されても突破できる艦艇は、数えるほどしかありません』
俺の『バルムンク』、その姉妹艦である『クラウ・ソラス』、ベルさんの『レーヴァテイン』と同艦隊の一部突撃艦。あとは、キングエマン級と、『クィーン・オブ・シーパング』くらいか。
これらは結界水晶防御関係の装備のほか、超金属ブァイナ鋼とダンジョン・ウォール装甲材の複合装甲を採用しているため、結界水晶防御を抜けてくる攻撃に対しても耐えられる超装甲だった。
「うん、まあ突破して上陸できる艦はあるわけだ」
そうなれば、やはりアリエス浮遊島へ上陸した時と同様の戦術が使えるわけだ。防空網を抜けて、1隻でも揚陸ポッドが辿り着けば、ポータルを使ってそこから陸戦戦力を一気に送り込むという戦法が。
『バルムンク』なり『レーヴァテイン』が揚陸ポッド役ということになるが、敵のあらゆる防御を突破さえすれば、上陸も見えてくる。
『「バルムンク」へ、こちらフレスベルグ1』
艦橋に、送り出した偵察機からの通信が届いた。
『これより、目標浮遊島の観測を開始します』
ステルス戦闘偵察機『レイヴン』に乗るリムネ・ベティオンの声だ。
バルムンク所属の戦術偵察航空隊であるフレスベルグ隊は、ウーラムゴリサ王国に飛び、サジタリウス浮遊島軍港の偵察を行う。
レイヴンが搭載する各種センサーや索敵装備、望遠のカメラなどで、サジタリウスの外部情報を丸裸にする。
「これで地表部の防衛設備や空港施設、その他いろいろの所在や配置がわかるだろう」
『内部の大まかな構造については、テラ・フィデリティアのデータベースが存在します』
ディアマンテが言ったが、ホログラフィックの彼女は小首を傾げた。
『もっとも、かつてのデータなので、最新のものではありませんが』
「クルフの奴が、内部を改造したりしているだろうしな」
鵜呑みにはできないが、ドックや工場施設の位置などある程度の参考にはなるだろう。
「それにしても、大帝国も浮遊島軍港を保有していたとはな」
『シェイプシフター諜報部でさえ、掴めなかった情報ですから、ディグラートル大皇帝の預かりだったのでしょう』
つまり、一般の大帝国軍人すら知らない超機密事項ということだ。アノルジ元海軍長官などの元帥クラスですら知らなかっただろうな。
皇帝陛下の秘密の庭か。
「しかし、あれだけの大きさだ。よくこれまで見つからなかったな」
観測ポッドをこの星中にばらまいたからな。アリエス型、バーゴウ型クラスの浮遊島を見逃すとも思えないが。
『それにつきまして。大帝国本国北方にある小島が浮上、直後、転移したという報告が入っています。おそらく――』
「海上の島に擬装していたか。なるほどね……」
観測ポッドで地図は作れたが、実際に上陸して調べたわけじゃない。空ではなく、海の上の島なら、調査の及んでいないものがごまんとある。
木を隠すなら森の中。浮遊島だから、空にあるはずという決めつけはよくないということだ。もしかしたら、かつては空に浮いていた機械文明時代の浮遊島がまだどこかにあるかも……。
ま、そういえば魔法文明時代のアポリト浮遊島は分割して地上にあったんだったな。
機械文明時代の島も、地上にある可能性を気づくべきだったかもしれない。その辺はディアマンテに相談するとして。
「サジタリウスへの対処をどうするか」
あのまま放置すれば、せっかく損傷艦だらけにしてやった大帝国の連合国派遣軍も、修理されて戦線復帰してしまう。
そいつらが復活する前に早々に潰しておくべきだろうが、相手は巨大浮遊島軍港だ。どこに何があって、どう落とせばいいのか把握しないことには迂闊に飛び込めない。
アリエス浮遊島軍港とまったく同じ構造なら、どこを壊せば制圧できるかも割と簡単に思いつくかもしれないんだけどね。
そもそも、わからないことも色々ある。たとえば、サジタリウスは転移してきたが、あれが自力での転移なのか、何か別の装置や設備によるものなのかも、今はわかっていない。……アリエス浮遊島軍港は自力での転移はできないからね。これだけですでに両者に設備の違いの可能性が出てくるわけだ。
クルフ・ディグラートルを侮ってはいけない。それは間違いない。
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