第1261話、基地が来い
連合国戦線は、ウィリディス・シーパング軍の介入で、真・大帝国軍に停滞の兆候が見られている。
超戦艦『バルムンク』に戻った俺は、ベルさんやアーリィー、ディアマンテ、ヴァリサ、シェード将軍らと、艦隊間通信で交信していた。
『――避難民の避難は順調に進んでいます』
シーパング同盟艦隊のヴァリサが報告する。
『大帝国の侵略に対して避難を選択した民は、可能な限り収容します』
「輸送船に余裕はあるか?」
俺が確認すれば、ホログラフィック状に表示されているヴァリサは頷いた。
『はい。避難希望者の数は問題ありません。ただ制限時間内に到着できない人々については……』
「それは仕方ない」
俺は、アーリィーのホロを見る。
「セイスシルワ中央を除けば、周りは大帝国に押さえられている。制空権を確保している第三艦隊の航空隊の損耗もあるからね。……どうだい、アーリィー?」
『損耗については想定内に収まっているよ』
そう言いつつも、アーリィーの表情は優れない。
『ただこれは、真・大帝国が新型戦闘機を投入してくると想定しての数字だから収まっている、であって、やっぱりこれまでと比べると被害は大きいよ』
『やっぱ、手強いかね? 敵の新型は』
ベルさんが口を挟んだ。アーリィーは首を傾ける。
『敵の主力戦闘機は、ストームダガーと互角に渡りあえる性能があるみたいだからね。うちのパイロットたちは優秀だから、ある程度の数でも凌げるけど、過信はできない』
大きな作戦では、常に空母機動部隊を率いてきたアーリィーである。数字だけ見ても、真・大帝国の航空隊を強敵だと認識しているようだった。
「航空機の補充は間に合っているか?」
『うん。「アーガス」があるからね。損失分は補充できてる』
ファーストステップ作戦で、損傷した装甲空母『アーガス』は、シードリアクター搭載空母に大改装された。この空母は、艦内で魔力生成による航空機の製造、ミサイルやロケットなども生産できるようになっていた。
ちなみに、パイロットもシェイプシフターに限れば、無尽蔵に熟練パイロットを補充できる仕組みになっている。
『ただ、やっぱり艦隊が動けないのはよくないね。大帝国が艦隊で大挙攻めてきたら、遺憾ながら空母は後退するしかないから』
「セイスシルワは、ウーラムゴリサに近いからな」
そのウーラムゴリサ王国には、損傷したとはいえ、大帝国の艦艇が多く存在している。さらに転移によって増援も送られているようだ。アーリィーの危惧もあながちあり得ない話ではなかった。
「ネーヴォアドリスについては、残存軍の西部への撤収が完了した」
俺が部隊を率いて、ネーヴォアドリス軍を支援した。ちなみに後退する軍には、ネーヴォアドリスの国王陛下もいらっしゃった。
その撤退も軍団と歩調を合わせているため、臣下たちはむしろ急いで避難させようと促しているくらいだった。
『もたついているのか?』
「いいや、ベルさん。あの人はいざとなれば自分を殿軍として戦うくらいの気概でいらっしゃるんだ」
結構、お歳なんだけどね。ホログラフィック状の交信だけど、あの国王陛下、しっかり鎧を着込んで武人らしく引き締まった表情をしていたからね。
「知ってるか? あの国王陛下、自分用のASをお持ちなんだよ」
シーパングから兵器提供をした時、追加注文してカスタム機を作らせたんだ。ネーヴォアドリスのカラーである青いASで、いかにも騎士が乗るような豪華な外観になっていた。
『どこぞの腰抜け王と違うってわけか』
ベルさんがニヤリとした。
『武人肌ってやつだな。興味が沸いてきた』
わかる。俺たちが連合国にいた頃、ネーヴォアドリスの王族とはほぼ接点がなかったからね。連合国の中でもニーヴァランカには国力で劣るものの、ネーヴォアドリスは精強なイメージはあった。
「話を戻して、大帝国は派遣した艦隊が、我々の一撃離脱攻撃によって少なくない出血を強いられた」
結果、彼らの戦闘可能艦艇が減少している。
「拡大する戦域の制空権の確保が難しくなり、それに伴い地上兵力の進撃ペースも落ちた」
破竹の勢いでウーラムゴリサ、ニーヴァランカ、セイスシルワの大半を押さえた真・大帝国だが、戦力を削られ、制空権の維持が困難となった結果、ウィリディス軍航空隊による後方部隊襲撃を許すことになった。
「連中は補給線に被害を受けた。これからはその足はさらに遅くなるだろう」
『旧ウーラムゴリサには、損傷した敵艦艇が修理も受けられずに待機を強いられているとか……』
シェード将軍が言った。俺は頷く。
「大帝国も、いつまでもそれらを放置しておくわけにもいかないはずだ。必ず、何か手を打ってくる」
俺は、ディアマンテのホロを見た。
「他の戦域では動きはないのか?」
たとえば、ヴェリラルド王国に艦隊を派遣して、ウィリディス軍の動きを大陸西方に留めておきたいとか。あるいやクーカペンテ、プロヴィア王国のシーパング同盟の壁を破壊すべく、両側から挟撃しようとしているとか。
『現在のところ、西方諸国への動きは見られません』
ディアマンテは事務的に答えた。
『ただ、クーカペンテ国の西、大帝国領であるテメラリオでは有力な艦隊が駐留しており、連合方面への増援もまた送り出しています。ファントム・アンガー艦隊は、クーカペンテの防衛のため、身動きできない状態です』
つまり、シーパング同盟の壁に貼り付けている艦隊を、しっかり牽制しているわけだ。抜け目ないねぇ、クルフよ。
ベルさんが口を開いた。
『どうするよ、ジン? ウーラムゴリサに集まっている損傷艦艇、いまのうちにトドメを刺しちまうか?』
「そうだなぁ……」
連合国侵攻軍を生殺しにしておいたほうが、真・大帝国本国のほうの行動を制限する枷にもなり得るんだよな。
使えそう、助けられそうなら、それをどうにかしようとする心理。あれだ。戦争において敵兵は殺すのでなく、負傷させろってやつ。仲間が死んでしまえば、残った奴はさっさと反撃に出られるが、仲間が傷を追っている場合は助けようとして、攻撃どころではなくなる。
その時、『バルムンク』艦橋に警報が鳴った。
「報告」
「ウーラムゴリサを観測している偵察ポッドより緊急連絡」
オペレーター席のラスィアがコンソールを叩く。
「ウーラムゴリサ旧王都上空に、巨大物体が出現! これは――」
一瞬、ラスィアが絶句した。
「ふ、浮遊島と思われる物体が転移してきました。サイズは、アリエス浮遊島と同規模!」
「おやおや……」
俺は、観測ポッドの送ってきた映像をモニターで見やり、口元が引きつるのを感じた。浮遊島を転移させられるのはウィリディスだけじゃないって、クルフの宣戦布告かね。
「基地が来ちゃったよ、まったく……」
修理できないなら、できる基地を送ればいいってか。大皇帝陛下?
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