第1260話、ブル高原の戦い
『大帝国軍、突撃を開始!』
魔力通信機からその声が響いた。
モニターの中で、真・大帝国の新型魔人機――エアナルが、手にした魔法ライフルを撃ちながら、防衛線に駆けてくる。
「まだだ……。まだ飛び出すな」
ネーヴォアドリス軍西部方面師団のクルエル大隊長は、そう魔力通信機に呼びかけた。
かつて、コブレ騎士団の騎士隊長だった彼は、大帝国との戦いを幾度となく潜り抜けてた歴戦の騎士である。
ファントム・アンガーの参戦で生き長らえたクルエルは、ネーヴォアドリスに配備されたASファイター大隊に配属され、騎馬から機械歩兵に乗り換え、今に至る。
――カリッグやドリトール相手なら、こちらもライフルで反撃するところだがな……。
クルエル大隊長は、魔人機にその手の飛び道具が通用しないことを知っている。だから対魔人機用のブレードやアックスでの近接戦を挑むしかない。
なお、これらの障壁貫通武器は、旧・大帝国との戦いで手に入れた鹵獲品である。陸戦型魔人機のドゥエルタイプが使っていた槍や剣、斧――それらがネーヴォアドリス軍の主力ASアズゥに支給されていた。
『敵魔人機、第一防衛線に間もなく到着!』
「ようし今だ! 吶喊!」
『うおおおおぉっ!!』
塹壕と擬装布によるカバーを解いて、ASアズゥが地面から生えるように飛び出した。
第二防衛線を、第一防衛線だと誤認していた真・大帝国軍は眼前に突然現れたネーヴォアドリス軍に虚を突かれた。
魔人機に比べて、頭ひとつ小さいASファイターのネーヴォアドリス仕様であるアズゥは、手にした斧やブレードをエアナルに叩きつけ、対魔人機槍で貫いた。
「ぶちのめせーっ!」
クルエル大隊長もアズゥを駆り、至近のエアナルの胴体にブレードを突き刺した。
「押せぇー!」
パイロットを失い、力を失った敵機を肩で押すように、さらに大帝国部隊へ切り込む。味方機を盾にされ、後続のエアナルは射撃できない。クルエル大隊のASは、勢いに任せて切り込んだが、大帝国魔人機部隊もまた、素人ではない。
シールド裏のブレードを抜き、あるいはソードライフルを撃ち、アズゥを撃破していく。一時の乱戦で、押し切れるほど真・大帝国もまた弱くはない。
そして数の差は非情である。ネーヴォアドリス軍AS部隊は、あっという間にその数を半分まで減らしてしまう。
防衛線もまた、大帝国の前衛が到達し、攻撃を開始した。歩兵ではまったく相手にならず、塹壕から逃げることしかできない。88ミリ砲などの野砲もまた、魔人機のソードライフルによって破壊され、敵の侵攻を阻めない。
このまま、ブル高原の防衛線も陥落するのか――そう思われた時、ウィリディス軍陸戦部隊が参戦した。
・ ・ ・
俺はタイラントSのコクピットにいた。超戦艦『バルムンク』搭載の機動歩兵部隊を率いて、大帝国魔人機部隊へと切り込む。
マギアスラスターを噴かして、敵部隊へ肉薄。プラズマブレードライフルを撃ち込む。放たれた光弾は転移魔法によって飛翔、敵に回避不能の一撃を叩き込む。
「ウォカ、ついてきているか?」
俺が呼びかければ、アコニト出身のダークエルフパイロット、ウォカが返事した。
『しっかりついてきてますよ、ボス!』
漆黒塗装のグラディエーター・クスィフォスが3機、タイラント・スペクターの後についていた。
クフィフォスは、高速戦闘型グラディエーターに、追加装甲と地上滑空用のホバーを装備した高速重ASである。
故郷を失い、東部トキトモ領に新たな定住先を得たダークエルフの志願兵であるウォカは、ラートル、ブントとチームを組んで、俺の配下にいる。
『周りは敵だらけです!』
「防御強化型クフィフォスの本領発揮だな」
まだ敵に魔人機がいなかった頃の機体であるグラディエーター・クフィフォスだが、こちらも対魔人機戦闘へのバージョンアップがなされている。
「俺のことは気にしなくていい。撃ちまくれ!」
『了解、ボス。ご心配なく、貴方様に当ててしまうヘマはしません。そうだな、ラートル、ブント!』
『当然!』
『そんなヘボな奴は、ダークエルフにはいませんぜ!』
3機のクフィフォスは、ホバーを唸らせて草原を疾走する。大帝国のエアナルがソードライフルを撃ってきた、強化された防御障壁がそれを弾く。
『へへ、効かねぇよ!』
ブントが不敵な調子で言えば、リーダーであるウォカは声を張り上げた。
『やるぞ! バラージ!』
グラディエーター・クフィフォスは両手に新型プラズマ・ハンドガンを構えた。二丁拳銃スタイルだ。
銃口が瞬いた次の瞬間、標的となった敵機は被弾し、撃ち倒されていく。
『いいね、さすがスタンプガンだ』
『これで敵の障壁を気にしないでいいわけだ!』
そう、クフィフォスに持たせたプラズマハンドガンは、俺のタイラントが装備するプラズマブレードライフルと同じく、銃口に転移魔法を仕掛け、銃の照準線上に攻撃を転移させる。
別名スタンプガン。敵の障壁や防御魔法を無視する必中の武器である。
回転する駒のように、敵陣へ切り込む3機のグラディエーター・クフィフォス。ばらまかれたプラズマ弾にエアナルは撃ち抜かれて倒れていく。
俺はタイラントで、敵機を撃破しつつ飛び上がる。後続の敵もタイラントの姿が見えるだろう? だが残念、お前らが俺を見ている間にダークエルフ・トリオにやられるぜ?
クフィフォスが敵陣で大暴れしている中、サキリス率いるシャドウバンガード隊も参戦。
魔神機リダラ・ドゥブがサンダースピアでエアナルを串刺しにすれば、エリーの操縦するセア・フルトゥナSも携帯型マギアブラスター・ランチャーで、敵機数機を障壁もとろもまとめて消滅させた。
よしよし、ここで敵の動きを封じて、味方への被害を減らすとしよう。俺は操縦桿を握り込み、魔法を練る。
「吹けよ暴風。トルネード!」
風魔法、発動。機体のシードリアクターの魔力も加わることで巨大化した魔法は暴風を生み出し、後続の敵部隊をまとめて、嵐の中に巻き込んだ。魔人機が踏ん張る中、後方の車両や帝国兵が地面から引き剥がされて宙を舞った。
「こちとら、本職の魔術師なんでね」
魔力ブーストすると、魔法ってのはとんでもデカくなるもんだ。俺としては他人事ではあるが、敵さんには同情するよ。この暴風を食らってみたいとは思わない。
ともあれ、ネーヴォアドリス軍を追尾し、突出していた真・大帝国陸軍の戦闘師団は、俺たちウィリディス軍の介入もあり、一時後退を強いられたのだった。
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